血の雫

著者 :
  • 新潮社 (2018年10月22日発売)
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「血の雫」
現代社会に蔓延る危険性に目を向けた殺人事件が発生する。


警視庁捜査一課継続捜査班・田川信一シリーズ:<a href="https://www.honzuki.jp/smp/book/208146/review/207560/">震える羊</a>、<a href="https://www.honzuki.jp/smp/book/266845/review/208018/">ガラパゴス(上)</a>・<a href="https://www.honzuki.jp/smp/book/266846/review/208422/">ガラパゴス(下)</a>に続く読了。今回は田川シリーズでは無いものの、魅力的な登場人物、題材、ストーリー展開と面白く興味深いものだった。


まず登場人物であるが、主人公の田伏恵介と長峰勝利が良い。田伏はある事件で心を傷めた強行犯捜査のベテラン。長峰は元ITエンジニアからサイバー犯罪対策課に転身した変わり種。また、田伏はSNSを含めたネット社会に強い抵抗がある。一方、長峰はそれの専門家である。彼らは職場環境とネット耐性において対極にある存在でありながらタッグを組む。ここに、年配と若手と言う年齢差も加わり、互いにぶつかり合いながら信頼関係を構築していく。


まさにバディものとしては王道スタイル。不貞腐れて見えた長峰が、頼り甲斐のある刑事に見えてくる田伏。自らの過去を話すこと、捜査への熱意を知ることで田伏を信頼していく長峰。元々、実地経験の高い田伏とネット捜査スキルの高い長峰は互いを補完し合える理想的な関係だったが、残虐な事件を追うにつれ、それが実現する。


題材はネット社会が一つ。犯人は巧妙にネットを駆使して警察を翻弄する劇場型連続殺人事件を起こす。これは現代社会に必ずある危険性に焦点を当てていると感じる。もう一つは偏見、悪意、嫉妬等、全ての人が持ち得るネガティブな感情だ。これらはネットとの相性が良く、現代では匿名を免罪符にした悪行と呼んでも良い理解し難い行為が横行している。また裏アカウントを通じて人の裏の顔も見えてくるし、長峰が<b>独りよがりの善意はたちが悪い</b>と断罪する様なものもある。


後者は、田伏の心を壊した一件に深く関わっているが、私としては独りよがりの善意ですら無い様に感じた。正直殴ってやりたいくらい。以上、現代社会では無視すべきでは無いことを題材にしている。


最後にストーリー展開であるが、題材を巧みに活かしながら田伏も長峰もそれぞれ見せ場があり、組んだ時の活躍もある。劇場型連続殺人事件もスリリングがあり、背景を踏まえれば犯人憎しになり切れないところありで引きが強い。個人的にはひまわりの出し方が秀逸だったと思った。


また、人々の一方的な偏見がネットや人づてを通して与える怖さを全ての人間は深く理解すべきだと作者に言われた気がした。


因みに、読みながら映像化するなら配役は誰が良いかを珍しく考えてしまった。すぐ浮かんだのは長峰勝利は中村倫也ですね。嵌り役になる気がする。田伏は小日向文世が良いな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年10月29日
読了日 : 2018年10月29日
本棚登録日 : 2018年10月21日

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