天才

著者 :
  • 幻冬舎 (2016年1月22日発売)
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「天才」
石原慎太郎が田中角栄を切り取る。


石原慎太郎は、嘗ては田中角栄元首相の金権政治を鋭く批判する側だった。それが逆に評価する側として小説を書き上げたものが本書である。


「俺はいつか必ず故郷から東京に出てこの身を立てるつもりでいた」という文章から始まるこの小説は、田中角栄本人が自己の人生を語る回顧録のスタイルをとっています。しかし、何故回顧録としたのだろう。「政治に関わった者としての責任でこれを記した」とするならば、ノンフィクションの方が適切じゃないのかな?と。角栄が何を言って何を思ったのかを一人称で書かれていても、その一人称が角栄じゃないのだから、頭の端で本当にそうなの?と思っちゃいましたね。


中身としては田中角栄を詳しくは知らない私には角栄初心者用として良かったです。田中角栄と言えば「インフラ整備」と「ロッキード事件」であり、それに紐づく些細な情報しか頭に入っていないレベルなので。そんな私であるので、角栄が子供の頃、電車にひき殺されそうになったり、軍隊に入隊していたり、個人企業を起こしていたり、懇願するから稲葉修を第一次内閣の文部大臣にしてやったとぶっちゃけたり(いいの?)、色々と発見がありました。


他に見えてくるのは、ロッキード事件を代表とする様な事件の背景からは見えない人としてのデリケートな一面です。浪花節と映画を愛する、家族思いである、意外と人情家であるなど。不倫がばれて娘に辛く当たられるのは仕方がないと思うが(しかし、愛人を議会委員会に参考人として呼び出すのは如何なものかとも思う)。


強烈な個性をもったリーダーが不在の今、石原慎太郎に「高速道路、新幹線、飛行機のネットワーク。私たちが生きている現代を作ったのは田中角栄だ」のような言葉を言わせる政治家はもう現れないかも知れない。


しかし、「アメリカという外国の策略で田中角栄という未曽有の天才を否定し葬ること」は絶対に許されないと力を込める程、角栄を買っていたとは。。。


角栄には確かに国を良くするだけの胆力と決断力はあった?と思わせる。少なくとも今の政治家なんかより全然ありと思わせる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年8月17日
読了日 : 2018年8月17日
本棚登録日 : 2018年8月17日

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