「GOTH 夜の章」
乙一といえばこれ。


乙一と言えばGOTHを読むべし!みたいなので、GOTHを上下に分けた本作を読了。ふわっとな知識ではあったが、実際はホラーが強めな作品だなと。


高校生の「僕」と森野夜は人間の持つ暗黒面に強く惹かれる?そんな二人は毎回、奇妙な巡りあいで猟奇的な事件に関わっていくことになる、のだが、こんな暗いテイストを23前後で書いちゃった乙一は、どんな動機があったんだろう。


暗黒面とは言えど、ようは、人を殺す、ということに興味があると言うことだ。僕と森野は、一般的な倫理概念を越えたところにいる。それは、「暗黒系」の短編でよく分かる。人を殺すような人間と心を通わせ、相手は僕が警察に通報しないだろうと確信し、僕もそうする。森野は、僕に比べれば、ましに見えるが、手帳を拾って楽しむあたりは、十分に倫理概念を逸脱している。二人からすれば、純粋な興味なのだろうが、サイコパスなのは間違いない。一瞬綺麗に見えるものの、それは錯覚で、見えたとしても、それは綺麗な暗黒感だと思う。


ストーリーとしては、これだけ暗黒感満載で残酷非道な要素があるが、淡白に綺麗に見える。面白さは、僕と森野の思考を想像するところだろうか。綺麗に見える分、二人をイメージ化しやすい。乙一作品を知る上では、読み難くて読みやすい。

2019年5月25日

読書状況 読み終わった [2019年5月25日]
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「GOTH 僕の章」
異常者達。


人間には殺す人間と殺される人間がいる、僕は前者だ。人の心の暗い側面に魅かれる者の一人である僕は、森野との出会いを始めとして、様々な殺す側の人間と心を交わす。はっきりと異常者であり、GOTHである。GOTHは、好奇心や快楽、興奮を味わうため躊躇なく殺人を繰り返す。このある種の純粋さは、罪の意識が無いことをアピールするかのようでタチが悪い。


ただ、異常者達のストーリーだからといって、残酷さばかりが目立つ訳ではない。僕はGOTHながら一般人の感覚もあり、普通に学生生活を送っている。一瞬普通の人間かと思わせるが、直ぐにGOTHが垣間見える。グロテスクだけではなく、本性が見えない怖さがある。


森野に関しては、勝手にGOTH一派かと思いきや、ちょっと違うようで、それに驚いた。特殊な感覚により巻き込まれてしまう所があるのか、僕が利用しているのか。


どちらにせよ僕は怖い。僕の欲は尽きることはなく、人を殺める側に立ち続けていく訳だ。ほんと怖い。

2019年5月26日

読書状況 読み終わった [2019年5月26日]
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「私の頭が正常であったなら」
山白朝子のペンネームにどんな意味が込められているのだろう。


乙一の別名義による8篇の短編が収録されている本署のテーマは喪失である。乙一作品は背筋のぞっとするようなホラーものだという私の先入観を裏切った短編集で、どの短編も若干の恐ろしさを残しながらも読了感は異なる。切なさが心に残ったり、美しさが腹にどんときたり、やっぱり若干じゃなかった恐ろしさが頭の片隅に湧き上がったりと四季折々の如く感情折々な一冊。


喪失したものが日常生活であったり、首であったり、記憶であったりする。また、小説家が書きたいモノを見失ったり、母が娘に対する愛情を失ったりする。家族を失った男は、家族の思い出を失いたくない。一方で、元夫によって愛娘を奪われてしまった女や事故で自らの命を失った少女もいる。


何かを失いながらも、立ち止まることなくその哀しみを背負ったまま生きていく。その背中は美しかったり、ちょっと恐ろしかったり、切なかったりする。それぞれのストーリーがやはり重く感じる。


どれも面白い訳ですが、ホラー度が一番強いものは「子どもを沈める」。愛し方を取り戻し、償いと共に愛し始めるけど、娘の顔に見えるのは、ただの無邪気な笑顔だけではない。これは完全にホラーだ。また「首なし鶏、夜をゆく」「酩酊SF」も若干以上にぞくぞくする。


そんな中、印象深いのが「おやすみなさい子どもたち」と「私の頭が正常であったなら」。人間界の天使と元夫により娘を殺された(と言って良い)女性の話なのだが、悲しみの中に1つの光が見えてくる終わりを迎える。哀しみを背負って光の方に向かって行く所が見えるような短編。


因みに、気に入った伏線は、ターンオーバー(代謝回転。食事により体内に入れたタンパク質などを分解し、新たな細胞を合成。古くなった細胞は分解後、体外に排出する。新旧の分子が入れ替わりながらバランスを保つ動的平衡状態)。締めが綺麗だ。

2018年9月13日

読書状況 読み終わった [2018年9月13日]
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「死にぞこないの青」
マサオの戦いが始まる。


マサオは、ちょっと太り気味で運動は苦手。走るのはクラスで一番遅い。性格は引っ込み思案でクラスのみんなを笑わせることはない。しかし、それは欠点ではない。マサオはとても良い子なのだ。にも関わらず、マサオはいじめの渦に巻き込まれていく。それも、大人の指導者によって。


作者は、基本的に語り手(マサオ)の年齢は関係なく地の文で様々な用語を使用するそうです。その理由は言葉そのものは幼い為に知らなくても、言葉が意味するものは名付けられないまま頭の中に収まっていて思考しているに違いないと考えているから。


例えば、マサオは、先生が自分ばかりを虐める理由をこう結論付ける。自分は“一番下の階層だからだ”と。クラスメイトは、マサオが一番下の階層の人間だから先生に叱られることはない。先生は、クラスメイトの不満はマサオに行くのだから、自分の評判を下げることはない。ここまで考える。そして、最終的に自分はクラスのバランス係だと認識する。飼育係のようにただのクラスの係であり、クラス特有のルールであり、特段悲しむべきことではない。先生に怒られることもクラスメイトが話かけてこないことも当然なんだと理解する。


「一番下の階層」「虐められるのはバランス係のようなものだ」。小学五年生が口にすることはないだろう言葉が、マサオの頭の中で思考されている。マサオは、次第に虐めを当然と思い込むことで、悲しい・悔しいといった感情が薄れていく。このマサオの“いじめられて悔しい。哀しい。何故だ”という気持ちから“自分はバランス係なんだ。仕方がない”という諦めの気持ちに変わっていくところが非常に悲しい。


虐めとは、非常に理不尽だと痛感させられる。しかも理不尽の主犯は、羽田という大人であり、マサオがターゲットにふさわしいと考え、意図的に生贄にすることで、自らの評価を守ろうとする。クラスメイトは、先生の意図に同意することなく、自然といじめに染まっていく。逃げようにも逃げれない。


しかし、マサオは負けないのだ。負けない理由にアオの存在があった。しかし、アオは劇薬であった。「おまえは抜け出さなきゃいけない」というアオと「羽田を殺せ」というアオがいるのだ。


アオの不気味さから最後までホラー一本と思いきや、マサオの強さを見せつける結末がGOODな一冊。

2018年6月16日

読書状況 読み終わった [2018年6月16日]
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「箱庭図書館」
読者のボツ作品をリメイク。


読者のボツネタを乙一がリメイクする。ヤクルトで野村監督が、やっていたことを、小説で乙一がするというスタンス。どうりで乙一作品は、怖い/どろどろ/忘れらせないぞっとさ、があるって言われていたけど、かなりマイルドな訳ですね。これくらいの緩さから入るのが、丁度良い。


□小説のつくり方
小説家になった男の理由で、オチをつける。
□コンビニ日和
コンビニからしたらたまったもんじゃない一日を描いたコメディ強め。店長も小悪党だから、コンビニからしたらたまったもんじゃない。
□青春絶縁体
名前は、気に入った。文芸部に入った僕(高校生)と文芸部先輩の物語。小学生の頃に書いた小説を起因とした青春風味あるほわっとした終わり方。
□ワンダーランド
ある事件を見た少年の物語。ワンダーに相応しいちょっと変わった雰囲気。
□王国の旗
登場した段階でいきなり恋人がいる主人公。乙一作品にはあんまり無い模様。
□ホワイトステップ
積雪メッセージをリメイク。自分の作風に似ている設定であり、リメイクへの欲求は最初は湧かなかった模様。


どれも強い印象は残らなかった。 かなり薄め。これで乙一に免疫がついたとは言えないなw

2017年5月30日

読書状況 読み終わった [2017年5月30日]
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