昭和天皇の戦後日本――〈憲法・安保体制〉にいたる道

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  • 岩波書店 (2015年7月29日発売)
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感想 : 8

豊下さんの本ということで、中身も見ずに買った。豊下さんには戦後日本の管理体制や安保条約の本の他に、象徴天皇の政治性を問題にした『昭和天皇・マッカーサー会見』(岩波書店)があるが、ぼくは後者に特に感激していたからだ。よく知られていることだが、昭和天皇は在位の過程で二度イニシアティブを取ったことがある。その一つは、226事件、もう一つは終戦の決定である。そして、戦後、天皇は象徴になったとされるが、政治に対する関心は戦後も変わることなく続いていた。戦後の日本は二つの政治中心を持っていたのである。豊下さんはこうした研究の蓄積の上に、今回公にされた天皇実録を読み込み、天皇がいかに政治的な判断をその都度していたかを確認する。本書で豊下さんは、戦後昭和天皇は二つの大きな局面にぶつかるも、それを乗り越えていったと言う。一つは東京裁判での天皇の訴追問題や新しい憲法下での天皇の位置の問題であり、もう一つは冷戦の中での共産主義勢力によって天皇制が否定されるのではないかという問題である。現今、憲法は押しつけだとの批判があるが、天皇は訴追免除とともに、新憲法に対してもマッカーサーに感謝していた。つまり、あの短期間につくられた憲法がなければ、天皇はある意味どうなっていたかわからなかったのである。と同時に、冷戦が深まる中では、天皇はマッカーサーを飛び越え、アメリカ本国と直接交渉をしていた。それは共産主義勢力によって天皇制が倒壊させられるのではないかという恐怖からであった。本書は最後に、現在の明仁天皇・皇后の行動が、まさに戦争の悲惨さを風化させず、憲法の精神を守ろうとしていることを論じる。それは、憲法の精神を踏みにじろうとする政治勢力に対する沈黙の抗議でもある。

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感想投稿日 : 2015年8月14日
本棚登録日 : 2015年8月14日

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