文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

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レビュー : 1036
著者 :
karasu10281028さん  未設定  読み終わった 

 本書でも姑獲鳥の夏と同様に、いたるところに魍魎のイメージが貼り付けてある。妖怪は人々の噂から生まれ、偶然起こった不思議な現象のことを名付けて、姑獲鳥や魍魎というものになる。この小説のように現実には京極堂がいないので、不思議な現象は妖怪の仕業や、呪いという言葉で片付けられる。著者は至る所に特定の妖怪のキーワードを使って、妖怪が発生するという状況を生み出しているのだ。つまり、この世には不思議なことなど何もない。
 今回は前回よりも長かった。持つのが疲れる。だが、この長い説明により、偶然が必然に変わり、フィクションがリアルに感じられる。著者の長文は、映画における背景美術のようなものと言っても良い。世界を具現化して、偽物臭さを消す役目がある。文章が読みやすいのでそこまで大変ではない。
 著者の小説では犯行のシーンを書かない。全てが終わってから予想するだけだ。この仕掛けによって、事件の色が見えず、まるで妖怪のようにフワフワとしている。凡百に犯行シーンをグロテスクに書くと、読者は理解し過ぎてしまい雰囲気は違ったものになるだろう。
 魍魎とは何か。それは境界的なものだと京極堂は言う。人は誰しも犯罪を考える。それを実行するかどうかは突発的なものになる。突発的に殺人を犯してしまいそうになる瞬間が、頼子にも訪れる。美馬坂に詰め寄る木場にもそれはやってくる。人が犯罪を犯すのは衝動的なもので、その超えてしまう境界にいるのが魍魎なのだ。誰もが魍魎に魅入られると心の内に秘めた衝動が現実になってしまう。どうやったら防げるのか。気を引き締めとくしかないのだろうか。
 雨宮や久保が行ってしまった向こう側とはなんだろうか。雨宮も久保の匣の中にいる加菜子を見て人間を止めてしまった。人間を止めるとは、この世に生きていないということで、もう現実を見てはいない。雨宮は加菜子を抱えたまま、幸せを感じたまま死んで行くのだと思う。久保も同様に加菜子を見て人間をやめたのだろう。もし、関口が最後の時に、匣に入った久保を見ていたら、関口も向こう側へ行ってしまったかもしれない。関口のように不安定な人は、向こう側へ行きやすい。
 久保、頼子、陽子、美馬坂、雨宮、などなど多数の人物の物語が繋がっていく様子は見事な手腕だ。どのように構成作業をすれば、このような緻密な物語を紡ぐことができるのか。非常に気の遠くなる執筆だと思う。書いているうちに魍魎になりそうだ。

レビュー投稿日
2019年8月2日
読了日
2019年8月1日
本棚登録日
2019年8月1日
2
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