手軽に読める短編を探していて読んでみた。
数年前に別れた20歳以上年下の妻の姿を街角で見かけた大塚さんは、自宅に帰って来てから過去の妻との生活を回想しつつ、生活の名残を探してまわる。実家に帰すときに、妻のものは全て送ってしまっていたが、箪笥の中から唯一彼女が手縫いした刺繍が見つかり、大塚さんは赤い薔薇の花弁が彼女の唇を思わせるそれに顔を寄せるのであった。
書生と仲睦まじげだったことや、自分が手伝わなければ何もできないといった書きっぷりが読んでる途中から若干冬子を思わせると感じたのだが、調べてみたらやはりこの作品は冬子が亡くなってから書かれたものらしい。冬子の趣味が刺繍であったこともそのまま作品の題名に用いられているくらいである。そう思うと、どうして彼女を大事にしなかったのか、と己を責める姿がさみしく映る。実際の夫婦の別れは死別であったけれども、こういう可能性があった、ということを死後から振り返っているというのは何とも切ない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2017年6月12日
- 読了日 : 2017年6月11日
- 本棚登録日 : 2017年6月11日
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