望み

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2016年9月5日発売)
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本棚登録 : 1661
感想 : 273
4

読んでいて思ったのはこれを文章力のない人が書いたら読めたもんじゃないということ。
今時にしては珍しくシンプルなストーリーと構成で、あくまでも純粋に主題について描いている話。
・・・なだけに、筆の力のない人が書いたらとても最後まで読めずに陳腐な感想になっていたと思う。

この話は4人家族の両親の目線それぞれから描かれている。
父親は建築家、建築デザイナーの男性で、妻は自宅で校正の仕事をしている。
子供は高校生の男の子と中学生の女の子。
その高校生の男の子がある日、行方不明になる。
その直後に知った、高校生殺害事件。
行方不明の子と殺された子とは面識があったと分かり、もしや我が子が事件に関与していたのでは?と両親は思う。
父親は我が子が事件の被害者ではないかと思う。
しかし、その望みは我が子が既に死んでいるという事に自然につながる。
母親は我が子が事件の加害者ではないか?と望みをもつ。
しかし、それは加害者の家族として生きていくという覚悟を要する。
二人の望みは時に交差しつつ、ストーリーは進行していく。

事件そのものは大した真相というものでもなく、あくまでも子供が被害者なのか、加害者なのか、そのどちらかに望みを託す登場人物の心情を丁寧に描いている話となっている。

読んでいて思ったのはこの物語の主人公となっている両親は家に押しかけるマスコミや周囲の理不尽な態度にとても常識的、大人な対応をとっているということ。
私なら感情的になってとてもこんな冷静で理性的な対応はとれない。
そんな人たちだからこそ、考えていることをちゃんと受けとめようとしたし、じっくり読もうと思えた。

このおもたる主人公の二人は全く違う望みをもっているかのように見えるけど、実は同じ望みなのだと私は思う。
それは家族も自分も幸せに暮らしたいということ。
だからこそ、話の中で母親の母が言った言葉は一瞬何かいい事を言ってるようだったけど、違和感があった。
もう十分に幸せに過ごしたのだからこれからはそれをあきらめよ、もっと大切な事があるんだ、というような言葉だったけど、幸せになる以上に何が大切で、それをあきらめてまで守るものってあるん?と、後からじわじわ思いがわいてきた。

こんなシンプルなストーリーでラストに衝撃的な事がある訳でもない話なので、読んでいて退屈と思う人もいるかもしれない。
私はこういう気をてらってない、文章だけで読ませるという話は大好きで、あっという間に読んでしまった。
とてもいい本だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 雫井脩介
感想投稿日 : 2017年8月23日
読了日 : 2017年8月23日
本棚登録日 : 2017年8月23日

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