ナルキッソスの鏡 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (1996年4月16日発売)
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本棚登録 : 132
感想 : 16
4

この話は大きく分けて3つのパートに分かれている。
映画「悪魔のいけにえ」の狂った一族を彷彿とさせる親子。
その親子の犠牲者とその周辺の人々。
そして、ナルシストな美青年。
その3つのパートが逢魔ケ森という不気味な名前の森で少しずつ接点をもちひとつに重なる。
そして起きる悲劇と露呈する悪事を描いた物語。

母親と双子の兄妹の3人暮らしの家族。
母親は子供の誕生日にいつも犯行を犯す。
双子の兄妹に歳格好の似たカップルを探し出し、彼らを殺した後、金品や装飾品を奪うのだ。
その戦利品は双子への誕生日プレゼントとなる。
もうそんな事を何年もこの逢魔ケ森で繰り返してきた親子。

今回そのターゲットに、たまたま逢魔ケ森を訪れた訳ありのカップルが選ばれた。
男は自分の恋人を、そして女は自分の親友を裏切り、この森に逃避行してきた。
そして、運悪く獲物を物色していた女に見つかり、二人とも殺されてしまう。
カップルの女性の親友であり、彼女に裏切られた女性はショックから二人を探しに森を訪れ自殺を図る。
それを助けたのは絶世の美女。

絶世の美女の正体は実は男。
たぐいまれなる美貌をもちながら、トランスヴェスティズム(服装倒錯-女装)に苦しむ青年だった。
彼は叔母の持ち物である別荘の留守番を頼まれ、その期間、思う存分女装を楽しんでいた。
そこで、犬の散歩中に自殺未遂の彼女を発見したのだった。
やがて、自殺を図った女性の姉夫婦が捜索に乗り出し、大きく物語は動き始める。

もう、とにかく上手に書いてる!のひと言に尽きます。
文章がしっくりきて、読みやすく、情景がはっきりと浮かぶ。
例えば、狂った母子の容貌の描写など、これ以上ないと思うもので、どういう風貌の人間に人は不安感を感じるのか、そしどういう状況でどういう態度を取られると人は危機感を感じるのかを明確に突いている。

ただ、残念だったのは、ナルシストの青年と狂った親子の対面シーンがあまりにあっさりしてラストもあっけないということ。
これだけ途中まできっちりと書いていて・・・。
もっと「ミザリー」のように、被害者と加害者のやりとりを描いて欲しかった。

自分の中に逃げ込むということ。
その危うさとそこからさらに逸脱した狂気を描いたミステリー作です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小池真理子
感想投稿日 : 2013年7月7日
読了日 : 2013年1月17日
本棚登録日 : 2013年7月7日

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