香華 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1965年4月1日発売)
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本棚登録 : 304
感想 : 35
5

母親と娘の愛憎の話。
面白いのでじっくりと丁寧に読み進めたかったんですが、あっという間に内容に引き込まれ、次々と読んでしまいました。

時代は昭和初期。
後家の郁代は実家で生活の不自由なく、実母と一人娘と暮らしていた。
ところが、突然郁代は何の前触れもなく再婚すると実母に告げる。
女三人で生きていく算段だった実母は裏切られたと思い、郁代を憎み精神に破綻をきたす。
その様子を真じかにずっと見ていた娘の朋子がこの物語の主人公。

その後も郁代は生活能力も子供を育てる能力もないのに、次々と男性遍歴を重ねて子供を産む。
それと正反対にしっかり者で母性本能の強い娘の朋子は芸者として身を立て立派に一人立ちする。
幼い頃美しい母親を誇らしくあおいでいた朋子だったが、思春期を経て、大人になるにつれ、母親への憎しみと同時に愛情がつのっていく・・・。
すさまじい親娘の話でした。

一時は女郎にまで身を落としながらも、いつまでも若く美しい母親。
それはこの人が自分の興味のある事にしか気を遣わないからだろう。
美しい着物や、自分をひたすら磨くこと。
それ以外は全く頓着せず、どうでもいい。
この人の時間は他の人と違う刻み方をしているのだと思う。
だから一人だけ時間がとまったように若い。
私がこの人に唯一好感もてたのは、計算がないという事。
誰かに気に入られようとか、おもねるとかそういう機転が回らないので、ただただいつも自分を通している。

反して朋子はいつも自由奔放な母親に振り回され裏切られ続けてきた。
最後までその母親を憎む事も突き放す事も出来ずにむしろ自分は親不孝だったんじゃないかとまで思う人。
つくづく損な役割の人だと思う。

それにしても、有吉佐和子さんの文章は素晴らしい!
登場人物のほんのちょっとしたしぐさで心の動きが見えるし、部屋の情景や風景が手にとるように見えてきた。
こんな文章を自分が実際に経験してもないのに書けるなんて・・・。
資料や調査、想像力だけでこんな文章が書けるのかと驚愕します。
有吉佐和子さんが以前同じように芸者経験がないのが不思議なくらい。

この本を読んでいる時、ずっと本の世界とこちらを行き来しているような感じでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 有吉佐和子
感想投稿日 : 2013年8月5日
読了日 : 2010年12月
本棚登録日 : 2013年8月5日

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