開幕ベルは華やかに (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1984年12月20日発売)
3.30
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本棚登録 : 224
感想 : 25
3

これは有吉佐和子さんの本にしてはかなり異色だという印象です。
作中、殺人事件が起きるなんて、もしかして初めてかも知れない。

主人公の作家、渡紳一郎は元妻で今は脚本家の小野寺ハルからある劇の演出を依頼する電話を受ける。
その劇とは、男装の麗人、川島芳子の半生を描いた劇で、大物脚本家の加藤梅三が突然降りた事により、ハルに脚本依頼の話が舞い込んだという。
公演初日までほとんど日にちがなく、話を受けるのを渋る渡だったが、ハルの熱意に押され引き受けることに。

劇の主演は八重垣光子と中村勘十郎という70代の大物役者。
急仕上げで作られた脚本に、やっつけ稽古で開いた舞台の幕。
70代の主演二人はセリフを一行も覚えず舞台に上がり、全てはセリフ出しのプロムプターに頼る。
それでもベテラン役者の二人はアドリブ多発で乗り切り、10代の若者の役を見事に演じきる。
その後、トラブルがありながらも何とか初演は幕を閉じた。

その後、八重垣光子が文化勲章を受賞し、劇の方も連日大入満員。
そんな浮かれた雰囲気の中、1本の電話が舞台を上演している帝国劇場にかかってきた。
電話の相手は、
「二億円用意しろ。でないと大詰めで八重垣光子を殺す」
と言ってきた。
そして最初の殺人事件が起きた-。

最初は舞台を中心に、それを作り上げる人々について描いた話になるのだろうと思っていました。
脅迫電話がかかってきてすら、それは話の中心ではないだろう、と思いました。
でも中盤あたりから話の雰囲気がサスペンス調になり、とうとう殺人事件が起きた時点でやっと、あれ?これはいつもと違うかも・・・となりました。

終盤では誰が犯人だったのか?謎解きも主人公の渡によってなされます。
それで知る犯行動機は切なく哀れさを感じるものでした。
それほど驚くようなものではなく、細部をきちんと読む人なら途中で気づくようなものですが、それに至るまでに読者を勘違いさせる伏線もちゃんと張られています。
でも事件を盛り込むことで、いつもの有吉佐和子さんの本に比べると人物描写や関係性などの書き込みが浅く、それが少し残念でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 有吉佐和子
感想投稿日 : 2013年7月5日
読了日 : 2013年4月6日
本棚登録日 : 2013年7月5日

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