避雷針の夏

著者 :
  • 光文社 (2014年4月18日発売)
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本棚登録 : 228
感想 : 42
3

狭い世界で生きる人間たちの残酷さや群衆心理が描かれた本です。

ガーゴイル像が役所の屋根から見下ろす町-睦間町に住む人々。
その誰もが鬱屈した思いを抱え、それを弱いものに向け、攻撃しガス抜きをしている。
ターゲットとなるのはこの町の暗黙の身分制度の中で一番底辺にいる一家。
容姿以外に何の取柄もない父親は何者かに殺され、その容疑が「よその者」の母親にかけられた。
結局、鉄壁のアリバイがあった母親は無罪放免となったもののそれ以後、町の目は冷たくなり、ある祭の夜、一家は町の男たちの襲撃を受け、母親はひどい暴行を受けボロキレ同然の状態で見つかる。
以後、母親は飲み屋を営み、娘、口のきけない息子とひっそりと生きている。
寝たきりの母親を妻に任せきりにして自分は他の女性とメールなどして気を紛らわせている塾講師の一家。
この町を暴力で支配している一家。
その一家の母親、父親に学生の頃ひどいイジメにあい、30年間引きこもりになった女性。
この町も両親も嫌い、それなのに町から出て行くこともできない「腰抜け」の男性。
この町に越してきた「よそ者」で、母親が町民の嫌がらせにより精神的に異常をきたした、塾で働く女性。

町のシンボルであるガーゴイルが壊された事により、徐々に町に不穏な空気が漂い始める。
そして、彼らの思いがまたも祭の夜に爆発してそれまでの鬱積した思いを暴力という形で露見する。

登場人物が多いし、似たような設定の一家が多いので読んでいる内に頭がゴッチャになってきました。
そして、読み終えた時はそれらの人々のその後が消化不良な感じで終わってしまった、中途半端な印象を受けました。
でも、読んでいる時は面白かった。
それぞれの心情が踏み込んでえぐく描かれていて。
それでいて、暴行のシーンなどは下世話な描写でなく、作者の正義感とか清潔さを感じました。

この町の象徴であるガーゴイルの側には避雷針があり、それがタイトルになっている訳ですが、この町の本当の避雷針は町で最も底辺にいる一家だったのだと思います。
彼らが町民の鬱屈した思いを引き受けていたからこそ何とか危ういながらもやってこれた。
人は弱いから自分よりも弱いものを欲する。
それを暴力という分かりやすいものを通してこちらに訴えかけてくる本でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年5月18日
読了日 : -
本棚登録日 : 2016年5月18日

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