今までの湊かなえさんの本のイメージと違い、青春、学園物の話。
そういうのが個人的にも年齢的にも全く興味が持てない分野で、だから読んでいて途中から全く頭に入らず面白いと思えなかった。
それでほぼ斜め読み。
拾い読みしたという形。

主人公はケガで希望していた陸上部を断念し、放送部に所属している高校生。
放送部は何かの抽選会でドローンを入手。
それを駆使してJコンなる、放送部のコンテスト(?)に出場し優勝を目指す。
そんな折、撮影していた画像の中に、学校の規則で問題となる物とある人物が映ってー。

まあ、何とか読めたのはこの程度。
ちょっとミステリ要素があるのは最後の方のある問題とそれを映した人は誰かというくだりだったけど、それもいつもの湊かなえさんの本のように恐いようなものではない。
名手が書いても自分に全く興味のもてない分野の話だとここまでつまらないんだな・・・というのが読み終えての正直な感想。

2021年4月14日

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読書状況 読み終わった [2021年4月14日]
カテゴリ 湊かなえ

途中から内容が入ってこなくなったので、ざっと一通り読んでポイントを押さえるという読書をした。
私にとってはそれで問題ない本だった。
一言で言うと、心に響くというより、頭に響かせる本だと思う。

内容は大きく分けて3つ。
まず、
表題のストレスの取り扱いについて。
内向的な人が生きやすくするには。
瞑想について。

ストレスについては、
・ストレスを感じている事に気づく。
・そのストレス要因に脅かされている自分の大切なものは何かを突きとめる。
・その大切なものを守るためにストレスの利用方法を考える。
という内容だけが記憶に残った。
多分、それを無意識に自分でやってるな・・・と思ったからだと思う。
私個人の場合に置き換えると、
・毎朝、隣人のサッシの開け閉めの音でストレスを感じる。
・そのために、穏やかな朝の目覚めという普通の事が難しい。
・ならば、その音で目覚めて仕事をするという方向に行く。自宅が快適すぎる場所でない事で、仕事に行くモチベーションを持つ。
という考え方をしていて、それは脳科学的に理にかなってたんだな・・・と思った。

内向的な事に関しては、チェック項目があり、私はほとんどに当てはまり、完璧な内向型。
それに対して内向型の人はこういう時ストレスを感じやすい、対処法が書いてあった。
私にとってはそれらは不思議なくらい頭に入ってこなかった。

そして、瞑想。
やはり、瞑想はいいんだなぁ・・・という感想。

・・・という事で、この本は私にとって興味ある部分は再認識になったという本だった。
多分、私の乏しい脳力では入らないくらい、たくさんの情報量がここには入っていて、入らないからいいやとなったんだと思う。
ご自身の経験を書かれてもいるけれど、大体の内容は本に書いてあったこと、有名な大学での実験でどうの・・・で、ただの情報としてしか受け取れなかったのかもしれない。

2021年4月9日

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読書状況 読み終わった [2021年4月9日]
カテゴリ 自己啓発本

主人公は掃除婦として働く70代の女性。
同居していた友達が亡くなった事でそれまで二人で折半していた家賃の負担が増えてお金に困るようになる。
そんな彼女が思いついたのは何か犯罪を犯して刑務所に入ること。
刑務所に入れば三食には困らないし病気になったら誰かが看てくれる。
そんな思いで彼女はまず万引きをするがあっさりつかまる。
そして、それから偽札作り、闇金、詐欺、誘拐、殺人・・・と様々な犯罪に手をそめようとするがー。

切実な話なのにどこかおかしみを感じる話だった。
真剣に悩んで切実なのでおかしみがあるんだと思う。
まるで佐藤愛子さんの本を読んでるような気分になった。
タイトルとざっとあらすじを読んで想像したのとは全く違う内容だった。
ドタバタ劇的でありながらその根底はリアルで避けられない苦しみがあるだけに哀しい。

読後感がすごくいい。
最後はあまりにとんとん拍子にうまくいった気もするけど、正直ホッとできた。
ただ運がいいってだけでなく、主人公の女性の性格が引き寄せた良い運だと思う。
人は自分の蒔いた種をいい形でも回収できるのだなぁ・・・と思えたのが救いだった。
身につまされるリアルなストーリーの中にかすかな希望を感じられる良い本だった。

2021年4月2日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年4月2日]

この物語の主人公は3人。
1人は、児童相談所の職員である女性、咲良。
彼女は家を出て行った母親の代わりに家事を切り盛りしながら仕事をしている。
そんな中、祖父が倒れ、病院に連れて行く際、交通事故にあう。
さらに家は火事に。
心のよりどころの恋人は浮気をしていた事が発覚。
不幸続きの彼女はシンデレラになりたいと願い、正に王子様のような男性が目の前に現れる。

2人目は、その王子様、孝太。
彼は開業医で妻を交通事故でなくし、一人娘と暮らしている。
失意の中、事故にあいそうになった所を咲良に助けられ結婚する事に。

3人目は孝太の8歳の娘。
最初から咲良になついていたが、そこには思惑があってー。

いつもの秋吉理香子さんの小説のようにすごく読みやすい。
本自体が薄くてページ数も少ないせいもあり、数時間で読めた。
その分、内容は薄い。
面白くよめるけど、内容的には無理があるし、エンタメ小説だな・・・と思う。
主な登場人物たちがどれも幼稚で、話の展開も早く進むために現実味や深みが感じられない。
主人公の女性、こんな人だったの?と何度も印象が変わった。
母親に代わって家を切り盛りしつつ、児童相談所の職員なんて大変な仕事をしているからしっかり者かと思いきや、何となく抜けてるし天然でつかみどころのない人だった。
だから肩入れしにくい。

シンデレラの話だけど、童話自体も打算はあったろうと思う。
王子は若く美しい女性をお妃にしたい。
シンデレラは貧乏な生活から抜け出したい。
この話の人物たちも同じように打算で結婚し、母親を得る。
なのに、実際暮らしてみると不満ばかり。
そこからもうひとつ抜け出すのは、この話の荒唐無稽な結末ばかりでなく、最初の打算以外でお互いを見られるようになってからなのかもしれない。

2021年3月31日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年3月31日]
カテゴリ 秋吉理香子

主人公は妻に先立たれたラーメン屋の店主。
夫婦二人で切り盛りしていたラーメン屋は妻が亡くなってから閉めたまま。
読書家の主人公はある本を開いた際、そこに一枚の絵葉書が挟んである事に気づく。
それは何十年も前に妻宛に届いたもので、差出人は見知らぬ男性。
当時、妻はこの男性に全く心当たりがないと言っていた。
そんな中、近所の親友の男性が亡くなり彼に隠し子がいた事が分かる。
主人公は絵葉書に描かれいていた灯台巡りをしようと思いたち、その旅の最中に思いもしなかった新しい縁に巡り合う。

私がこの本を読んでいて思ったのは、「変わらない」という事。
もちろん、時代に合わせて主人公たちの手にはスマホなんて現代の物がある。
だけど、その物を省けば、これの時代設定は昭和ですよ、と言われても違和感を感じない。
だからと言ってこの小説が古臭いとかそういう事が言いたいのでなく、とにかくここには変わらない世界がある。
もし、私がこの小説の作者を知らずに読んでいたとしても途中ですぐに「これを描いたのは宮本輝さんだ」と分かる。
登場人物像、彼らの話し方。
別の小説にも似たような人たちがいたように思う。
時代は変わっても人の本質みたいなのは変わらないだろうし、それは見ていてホッとするものがあるし、安定感を感じた。

そして、何となく読み終えてじわっと静かな感動がありちょっとだけ泣いてしまった。
主人公の男性はラーメン店主で、父親の代からのラーメン店だったので外で働いた経験がない。
そんな自分の世界は狭いと思っているけど、人生は豊かだと思う。
彼の周りには信頼できる親友がいるし、ちゃんとした社会人の子供たちがいる。
何より、亡くなった妻の事を信頼している。
そして、その妻が素晴らしい。
心根の素晴らしい人は素晴らしい人に見染められるし縁を持てるのだな・・・と感じた。
変わらない世界がここにある事が嬉しかった。
灯台というものをモチーフにしているのもすごく良かった。

2021年3月30日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年3月30日]
カテゴリ 宮本輝

この本の主人公は11歳の小学生の男の子。
彼には「神様」と呼ぶ、クラスメートの少年がいて彼と身の回りの問題を紐解いていくという話。

「春の作り方」
主人公の少年は、亡くなった祖母が作った桜の塩漬けを落としてしまう。
それは最後のひとつで祖父が大事にしていたもの。
困った少年はクラスメートの頼りになる少年にどうしたらいいか相談する。
彼らは桜の塩漬けを再現し、うまくいったかに思えたがー。

「夏の「自由」研究」
主人公のクラスメートで絵のうまい少女がいる。
彼女はパチンコ依存症の父親がパチンコ屋に行かないようにする方法はないかと相談してきた。

「作戦会議は秋の秘密」
運動会の騎馬戦でやる気のない態度をとってクラスメートから責められる少年。
主人公の友人である「神様」はその理由をすぐに察知する。

「冬に真実は伝えない」
主人公の学校で都市伝説的な話が流行る。
それは亡くなった少女の怨念が本にとりついていて、すべて読むとあちらの世界に連れて行かれるというもの。
バカバカしい話かと思いきや、図書館の本に次々と恐ろしい書き込みが見つかってー。

「春休みの答え合わせ」
自分の事を神様と呼ぶ主人公に「神様」が語り始める。
あの時はこうだった、ああだった、という種明かし的な話。

最初の話を読み終えて、全てこんな風に小学生を主人公にして、その周囲に起きた小さな出来事を読み解いていく話、割とほのぼのした話が続くのかと思った。
すると2話目も同じ主人公、彼が神様と呼ぶ少年が登場し、今度は「殺」なんて物騒な漢字が出てくる。
個人的には最初の雰囲気で進んでいった方が良かったと思う。

途中、これは成立するのか?どうもイメージできない、というのもあった。
いくら絵がうまいと言っても布に描いたものをそれと見せかけるというのがどうも想像できなかったし、本の事もイマイチ分からなかった。
それは単に私のイメージ不足だと思う。

主な登場人物として主人公含め三人の子供が出てくるけど、一人ひとりの性格がもっと分かる場面があれば誰かを好きになれたかもな・・・と思う。

ラストのしめくくりの文、「誰かの人生を背負う事がなんてできない」
それは当たり前だろって。
まだ小学生なんだから。
と大きく突っ込んで終わった読書だった。

2021年3月23日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年3月23日]

タイトルと本の表紙から軽く読む感じの小説かと思いきや、意外(?)にも深かった。
お金について改めて考えさせられた。

物語の主人公は、ある一家の3世代の女性と、そのおばあちゃんの知り合いの男性。
彼らの話がそれぞれ描かれていて、それぞれのお金に対する考え方、意識、それを通してお金というものを考えるという話になっている。
1話目の主人公は一家で一番若い女性。
彼女はどちらかと言うと普通の金銭感覚の持ち主。
2話の主人公は1話の主人公のおばあちゃん。
夫は亡くなっており貯金が一千万あるが、将来に不安があって仕事をしようと就職活動をする。
3話目の主人公は1話の主人公の姉。
お金に対してしっかりした考えを持っており、節約、貯蓄、投資をしている堅実な女性。
4話目の主人公は、おばあちゃんの知り合いの男性。
彼はあまりお金に対しても自分の将来についても深く考えてない。
5話目の主人公は姉妹の母親。
熟年離婚が頭をかすめるが、周囲の話やお金の事を考えると・・・。
6話はこれまでの人物が全て登場する話。

1話目の主人公が普通の金銭感覚の持ち主と書いたけど、その普通というのは読む人それぞれによって違うと思う。
ちゃんとお金や将来について考え備えている人は、3話の主人公である姉が普通の感覚だと思うだろう。
私は自分がちゃんとしてないので、これを読んで身がつまされたり縮こまるような思いになった。

結末がすごく良くて読後感が良かった。
節約、節約・・・だけでなく、共感と納得のできる考えだった。

2021年3月17日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年3月17日]

主人公は小説家。
ヨドバシ書店という出版社からある企画の小説依頼を受ける。
それは以前主人公が住んでいた、訳あり物件のマンションMを元に小説を書いて欲しいというもの。
その後、その企画を持ち上げた編集者の女性がそのマンションで自殺をする。
そして、亡くなったはずの彼女から主人公あてにメールが届く。
1通だけでなく何通もー。

何でだろう?
読み返してみても確かに・・・と思った。
てっきり・・・と、思いこんでいた事があってしっかり騙された。
事故物件とか、生霊とか、毒親、そしていつものタワーマンション、何となく興味がそそられるキーワードが散りばめられていて、そしていつものように誤解を招くような設定をしていて、何だか分からない内に騙されていた。
そして、いつものように想像すると気持ち悪い描写。
髪の毛というのは本当に気味悪い。
想像しながら読んでいると気分が悪くなった。
それだけ巧みに描写しているんだと思う。

2021年3月13日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年3月13日]
カテゴリ 真梨幸子

主人公はSF作家。
彼は癌の手術で入院中に不思議な出来事に遭遇する。
天井から不思議な物体が下りて来たり、他の人には見えない人が見えたり・・・。
やがて退院した彼は東京行きの列車の中で今までの自分の半生を回顧する。
SF作家になったいきさつ、それまでの人生、関わった人々・・・。

ずい分ととりとめない話で、読んでいるのが苦痛だった。
最初オカルトチックな話と思って面白そう・・・と思いきや、途中から現実的な話になり、また後半はとりとめない話へ・・・。
正直、ついていけなかった。
途中からは斜め読みした。

この本は新巻の所で目にして、眉村卓って懐かしいと手に取った。
と言っても、昔ブームになっていた時にこの人の本を読んだ事はなく、実際読むのはこの本が初めて。
ただ、あまりに有名なのでSF作家というのは知っていた。
だから内容が途中から宇宙がどうの、転生がどうのというのを見て、ああ、SF小説なんだな・・・と思ったし、主人公がSF作家だし、出てくる名前もあの人の事なのかな・・・という実際の人物もあった。

歳をとって死を身近に感じるようになるともっと理解できる内容なのかもしれない。

2021年2月12日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年2月12日]

恋愛にまつわる5話からなる短編集。

「アリス」
50代という歳以外は全て好条件の男性が恋をした。
相手は子供の頃から知っている10代の少女。
その様子を周りで見ている市民バンドのメンバー女性の視点から描いた話。

 これを読んで、ちゃんとしたタイトルを忘れたけど、「男はみんな女が嫌い」のようなタイトルの本を思い出した。その本に書かれていた歳の差があるカップルはうまくいかない、何故なら一方は変わらず、一方は変化するから、という文だけずっと覚えていてそれを思い出した。恋愛をした事のない初老男性は純朴で恋愛下手で相手の気持ちが分からない。一方、女性の方はどんどん少女から大人の女性へと変化していくー。

「説教師」
1話目の登場人物たちが登場。
市民バンドの中に、若くて可愛いが説教くさい女性がいる。その女性が救助のために山に入り遭難してしまう。
その時に1話目で話の中心になった初老男性のとった行動はー。

「マドンナのテーブル」
中年の夫には学生の頃からの仲の良いグループがある。
定期的にそのグループで会食をするが、その中に一人女性がいて、主人公である妻はやきもきする。

 見た目ただのオバさんで女性的魅力のないマドンナと夫との関係にイライラする主人公の気持ちが理解できた。ラスト、さりげない。

「六時間四十八分」
海外に住む娘のもとを訪れた主人公の女性。
しかし、娘はいなくて列車の待合室で何時間も待つことに。
そこで一人の男性と出会ってー。

「夜の霧の騎士」
認知症の母親と二人暮らしの女性。
彼女は自分の半生を思い起こしながら気難しい母親と暮らしている。
そんな中母親が手術をする事となり、病院のスタッフの男性と出会う。

最初、タイトルに「恋愛」とついてるだけでちょっと尻込みした。
恋愛小説は私には退屈で面白くない。
だけど、この本は恋愛小説というよりは人間ドラマを見せてくれる本だった。
主人公がどの話もある程度の歳だから共感もできた。
とても繊細でしっかりした文章で書かれていて安心して読めたし、その中にちょっとだけ恋愛感を感じられた。

最初の話、2話目と同じ登場人物だったので、他のもそうかと思ってたらそうでなく、肩すかしにあった気になった。
最初の2話と後半3話では少し話の雰囲気が変わったように思う。

2021年2月2日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年2月2日]
カテゴリ 篠田節子

5話からなる短編集。

「るんびにの子供」
主人公の女性は幼稚園の頃から人ならざる女の子が見える。その女の子は時々彼女の前に現れて、大人になって結婚してからも時々見られる。それは彼女の前だけでなく同居する嫌な姑の前にも現れてー。

 話の内容どうこうよりも、この話の序盤の言葉に何となく惹かれた。人は子供から大人に成長する、というのが普通の考えだけど、子供はそれ自体で完結していて、大きくなるにつれて生来の能力を手放していくという考え。以前、時の流れを未来から過去に進んでいるというイメージでいる人の事を思い出した。

「柘榴の家」
強盗をして警察に追われる青年は見知らぬ家に上がり込む。そこには認知症らしき老女がいて彼の事を孫だと思いこんでいる。それを利用して彼はそこに居着くがー。

 この話を読んで、「え?この本もしかして前に読んでた?」と思った。似たような設定の本を昔読んだ記憶がある。それの結末はどうなったのか覚えてない。

「手袋」
犬の散歩中に片っぽの手袋を拾った女性。
彼女には無神経な妹がいて彼女は妹の存在にいつも神経を逆なでされて怒りがたまっている。
やがて手袋の持ち主が判明してー。

 これは主人公の女性の気持ちが少なからず理解できた。私も同じような妹がいるから。私の中にも相当根深い怒りがたまっているのは自覚している。

「キリコ」
キリコという義姉について語る二人の女性。
キリコは占い師の家系の出で、人を呪い殺す術を知っていたのでは・・・と語り合う。

 キリコがどうこうよりも、二人の女性の存在にちょっと驚いて少し読み返してしまった。

「とびだす絵本」
親戚の家で子供の頃の事を追憶する男性。
彼には仲の良い幼馴染の女の子がいて、その子との忘れがたい思い出がある。

薄い本で、すぐに読めてしまう。
その分、読み終えてすぐに忘れてしまうような印象の話ばかりだった。
やはり、前に読んだ事あったような・・・と、読み終えてすら思ってしまった。

2021年1月22日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年1月22日]
カテゴリ 宇佐美まこと

東京會舘という歴史のある社交場ーそこを訪れた客や従業員たちの物語。
プロローグで主人公は東京會舘についての小説を書く事になる。
そして生まれた最初の話の舞台は大正時代で、主人公は金沢から上京してきた青年で、彼は有名なヴァイオリニストと東京會舘で思わぬ出会いをする。
次の話の主人公は最初の話の青年に声をかけた東京會舘のボーイ。
そして、次は東京會舘で挙式を挙げた女性、東京會舘のバーテンダー、パティシエ、東京會舘が夫との思い出の場所である老女、東京會舘のクリスマスディナーで越路吹雪の素顔を垣間見た従業員、東京會舘のクッキングスクールの生徒だった女性、そしてエピローグの主人公へと話は帰る。
どの話も大体前の話の主人公のエピソードがからむ形になっていて、読んでいて深みと縁を感じるいい話になっている。
・・・のだけど、私にはどうにも読んでいて退屈だった。
話が頭に入ってこない。
そんな風に私には退屈だけど、いい話には違いないと思う。
この本に出てくる人たちはいい人たちばかりで読んでいて心がじわっと暖かい気持ちになるように思う。

私が読み終えて思ったのは、こういう場所はゆとりある世界から生まれるのだという事。
今はこういう世界は無くなりつつある・・・というか、もう無いように思う。
もうひと昔前、スーパーで品出しをする従業員たちはお客さんが隣に来て商品を見ようとしたら「すみません」と言って場所を空けていた。
今はそんな人はいなくなった。
最初、「あれ?」と思っていたけど、私自身それが当たり前になったし、そんな事にひっかかりを覚える人は今の時代そういないと思う。
具体的に言ったら、そういう世界ーただ慇懃無礼に、マニュアルで丁寧に接するのでなく、心の余裕のある中から生まれる優しさのようなもの・・・それがこの本の中にあると思った。

2021年1月17日

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読書状況 読み終わった [2021年1月17日]
カテゴリ 辻村深月

京都を舞台としたミステリーを描く女流作家、山村美紗の半生を描いた本。
これを読むと波乱万丈の人生を送った人だったんだなぁ・・・と思った。
もともとは裕福な家に生まれながら戦時中は貧しい暮らしも経験し、結婚して投資で成功、そして小説家を目指す。
華やかでワガママ、正に女王のような人と見られていたが、その影では自信の無さや気遣いがある人だった。
そして、いつも男性にもてていた。
相当に魅力のある人だったんだろうな・・・とこれを読んで思った。

私はこの本のタイトルと作者が花房観音さんという事から官能的な部分もある本なんだろうな・・・と想像していたら全くそうではなく、淡々とした印象の本だった。
正直、物足りなかった。
ノンフィクション作家の書いたこういう本は事務的にあった事を書いていたとしても何故か面白い。
読者が何を知りたいかを心得て、好奇心を少しずつ満たした書き方をしているから。
私が小説家がノンフィクション小説を書く時に求めるのは小説家ならではの書きもの、しかもその作家の色が出ているものなので、それで言うとこれは違うな・・・と感じた。
まあ、どうしたってまだ当事者がご存命なだけに書きづらいというのは分かるし、それが伝わってくる内容だった。
だけど、相当細かい所まで山村美紗という女性について調べて取材もしているのは読んでいて分かった。

私は以前、テレビで山村美紗は結婚しているものの、隣に西村京太郎が住んでいて家が渡り廊下でつながっていて行き来していたというのを聞いた事がある。
長女の山村紅葉のインタビューだったかも。
今も覚えてるくらいなので、変わってるな・・・と思って記憶してたんだろうと思う。

結局の所、西村京太郎とつきあっていたのか、夫と関係はどうか分からないけど、結果を見たら想像ができる。
山村美紗が亡くなって再婚してからも夫は美紗の絵を描いて個展まで開いている。
それを見るだけで夫婦の強いつながり、絆というのがあったのだと分かる。
ただ、影に徹するだけでそこまでこよなく相手を愛するとはならない。
そして、西村京太郎が自分と山村美紗の事を男女の関係があったとして書いた小説、その後の訂正の弁を見ると、どれだけ彼が彼女を愛していたか、複雑な気持ちを抱いていたかが分かる。
結局、男女のこと、夫婦のことは、よく言う事だけど当事者にしか分からない。

そういう分からない男女の仲というのに気遣いしながら、相当な覚悟をもって書いた本だというのが後半の文章からひしひしと伝わってきた。

2020年12月23日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年12月23日]

この話には3人の主人公がいて、それぞれの話が進み、後半につながるようになっている。

1つは、江戸時代の船乗りの男性の話。
彼は船乗りとして五百石の船に乗り込むも、船が遭難、何人かの船夫が亡くなりつつ何とか南の島にたどり着く。
そこは一人の日本人男性と異国の人たちが暮らす島で、彼はそこでイタリア人の女性と恋仲になる。

他の2つの話の時代は現代。
離婚をして一人暮らしの男性。
彼は古物商で亡き祖父の遺品を見つけ、それをきっかけに自分のルーツを探り始める。

音楽一家である祖父母と母親のもと、チェロをしている中学生の少年。
彼は一人の同級生の少女と関わった事がきっかけでチェロの音を拾えなくなってしまう。

このタイトルで、最初船が遭難して南の島に漂流したというあたりで、これは不気味なストーリー展開になるぞーと思ってたらいきなり現代の別の話になって肩すかしをくらった気持ちになった。
ボニン浄土というタイトルも何となく不気味だし、多分、恐ろしい風習のある島民たちに囲まれて・・・などと想像していた。
この話はそういう単純なホラー系の話ではなく、見えない人間同士のつながりを感じさせる話だった。
それは、自分の祖先から今につながる縦のつながりでもあるし、現代の人々が知らない内につながっていたという横のつながりでもある。
とてもよく出来た話で読後感も良かった。

不気味というのは唯一、呪いという話がでてくるくらいで、その呪いも人を雇う側が使用人にひどい扱いをした時、自衛のためにあるというもので、利己的な思いだけで人を呪うというのとは意味あいが違う。
そして、その正体が後半に語られている。
自分より目下にも礼節をもった態度で接する事が出来るのなら「呪い」があると思ってた方が良いと思うし、人として尊重しあい、いい関係でいられるなんて、優しい呪いだと思った。

2020年12月17日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年12月17日]
カテゴリ 宇佐美まこと

主人公は女流作家。
彼女は総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会という訳の分からない団体から召喚状なるものを受け取る。
召喚理由は、主人公の作品が読者から提訴を受けたためだと言う。
腑に落ちないながらも、言われるまま待ち合わせの場所に行き、車に乗せられて連れて行かれたのは周りを崖と電気柵で囲まれた牢獄のような施設。
彼女はそこで罪人以下の扱いを受ける事となる。

思ったのと全く違う内容だった。
読めば読むほど、これは後から何かあるだろう?と思って読んでいただけに・・・。
今まで私が読んだ桐野夏生さんの本は日常から非日常へ主人公がトリップする内容だったけど、この話では最初から非日常的で荒唐無稽な設定。
あまりにバカバカしいだけに、強く何か訴えているような気もした。

私がこれを読んで思い浮かんだのは、今のテレビに出ている芸能人とかアナウンサーとかの様子。
皆一様に窮屈そうだと思う。
とにかく、失言すまいとそれに神経を張り巡らしている様子が伝わってくる。
それと、映画「ミザリー」も思い浮かんだ。
それらのように、この本の主人公は作品の中で不適切な表現描写をしたという事で、とてつもなく窮屈な拘束を受ける事となる。
それは今の出版業界、もしくは表現する世界に対して作者が感じている事なのかもしれない・・・と読んでいて思った。

創作者は誰かの気に入るように、自分の意に添わない作品を世に送り出すくらいなら自殺した方がいいと思うものかもしれない。
とにかく、魂の自殺者がこれ以上増えないよう、受け手は想像力をもって受け止めたいと思った。

2020年12月14日

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読書状況 読み終わった [2020年12月14日]
カテゴリ 桐野夏生

高校生男女の4人組グループ。
彼らとユーゴスラヴィアから日本に留学に来た同世代の少女の心の交流を描いた物語。
ある日、雨の中途方に暮れている異国の少女に声をかけた主人公の少年。
彼女はマーヤと言い、行くあてがないのだと言う。
仕方なく、彼女を仲間の家業である旅館に置いて、その代わり、そこで働いてもらう事に。
マーヤは政治家を目指す少女で、そのため日本に来たのだと言う。
主人公たちはマーヤを通して、日本人と異国の人との見解の違い、ユーゴスラヴィアという国について改めて知る事となる。

半分くらい読んだ所でちょっと話の雰囲気が変わってきた。
最初はマーヤという異国少女が日本の様々な物を見て疑問に思う事を通して、日本と外国との違いを見せてくれるという感じの話だったのが、途中から彼ら5人の話、ユーゴスラヴィアという国の話に変わっていった。

個人的にどうにも話に入りこむ事が出来ず、つまらないので途中で違う本を読んで、さらに読む気が失せた。
それは私が主人公たちと年代が違いすぎて会話のあれこれや考えに入りこめないというのもあったし、途中からのユーゴスラヴィアについても興味がもてなかったからだと思う。
主人公たちの会話ややりとりのあれこれがどうも私の感覚とは違っていて、どうにも入りこめなかった。

2020年12月7日

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読書状況 読み終わった [2020年12月7日]
カテゴリ 米澤穂信

東京の高級住宅地にある、坂の上の赤い屋根のクリニック。
その医院長夫婦が惨殺される事件が起きる。
犯人は夫婦の一人娘とその交際相手の男。
轟書房という出版社ではその事件を特集として取り上げる事となり、改めて事件周辺の人々に聞き込みを始める。
担当者は男性編集者と駆け出しの小説家。
彼らは、法廷画家の女性、犯人の男性が勤めていたイベント会社社長、事件が起きた家の隣家・・・と聴き取りをしていく。
事件の主導者はどちらなのか。
世間では、純粋な女子高生が悪い男に騙されて・・・となっているが・・・。
犯人二人の人間像、殺された夫婦の様子が徐々に見えてくる中、物語の主眼は小説家から法廷画家の女性へと変わる。

たくさんの登場人物が出て来て、細切れに場面が変わる・・・というのは今までのこの作者の本と同じ。
だけど、今まで読んだこの作者の本の中で一番分かりやすかった。
話がどちらかと言うと、一本調子で、だけど単調という訳でなくて・・・。
だからなのか、犯人が何となく序盤に読めた。

何となく変な人が出て来て、変な事をしたり、嫌な感情を抱いたりというのを書いていて、それがおかしみがあり、それで真相や作者の意図が分からなくてもいいか・・・となるのが今まで読んだ本だったけど、この本では妙に響く言葉があった。
それは「環境の蓄積」が記憶という言葉。
人の印象はその人の記憶や性格にかなり左右されている。
記憶喪失になると、それがリセットされる。
だから印象が無くなる。
生活する環境というのは人にとってそれほど重要なんだ・・・と改めて思う本ではあった。

2020年11月30日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年11月30日]
カテゴリ 真梨幸子

カリスマ性のある監督であり、ダンサーだった男性がいなくなり、経営難のバレエ団。
銀行の融資を受け、指導を受ける事となったバレエ団は再起をはかり、世界的なバレリーナを次回の公演で演出家として迎える事となる。
さらに、次の演目の「眠れる森の美女」のオーロラ姫役として、現在プリマとして世界的に注目を浴びている女性を迎えることに。
彼女は今いるバレエ団員の内の二人の幼馴染だが、しばらくぶりに会った二人に冷たい態度をとる。
他の団員たちにも偉そうな態度をとる。
さらに、自分の相手役にダブルキャストの一員となっていた幼馴染の男性を自分のスカウトしてきた男性に代えさせる。
彼女は海外で母親の虐待を受け、過酷な環境の中バレエを続けていた。
その経験からそんな風に変わってしまった。
そんな彼女を主役にすえる事に反発する団員。
・・・と、色々ありつつも開演に向けて一団となるバレエ団。
所が、カラボスを名乗る人物から脅迫と思われる手紙が届き、本当に殺人事件が起きてしまう。

犯人を自分なりに推理して読んでいたけど、見事に外れてしまった。
意外な犯人ではあったけど、それで驚くという事もないし、犯行動機にしてもそれで・・・という感じだった。
読み終えての感想は、とにかくバレエの事が書きたくて書いた本なんだな・・・という事。
序盤のバレエについての描写が生き生きしていて素晴らしかった。
「テレプシコーラ」でもこんな過酷な事、私なら絶対したくない・・・と読んでいて思ったけど、その世界に足を踏み入れるとどっぷりつかって魅了される世界なんだろうな・・・と思った。

2020年11月22日

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読書状況 読み終わった [2020年11月22日]
カテゴリ 秋吉理香子

ビジネスホテルで男性がめった刺しにされ殺害される事件が起きる。
その被害者宅を訪問した刑事たちは隠し部屋に監禁されている女性を発見する。
女性は他にも監禁されていた女性がいて、その女性は以前死んだ、さらに、他にもこの家で殺された女性がいたのだと言う。

過去のトラウマにより、今は仕事を辞めて妹の家事をしている元家裁調査官の男性は、友人の刑事にビジネスホテルで殺された被害者について聞かれる。
被害者は主人公が家裁調査官だった頃、担当した事のある少年だった。
少年は横暴な父親によって虐待を受け、その頃は気弱でとても女性を監禁、暴行するようには見えなかったが・・・。
事件に興味をもった主人公は単独で被害者男性の周囲を探っていく。
そうする中で、事故でなくなった被害者男性の父親を恨んでいた一家の存在が浮上する。

それと別に、複雑な家庭環境の高校生の少年二人の話が途中から描かれる。
一人は義理の母親に虐待を受け家にいられない少年。
もう一人は少女のような美少年で、カリスマ性があるが、サイコっぽい所のある少年。
虐待を受けていた少年は声をかけてきた美少年にどんどん惹かれていく。
ビジネスホテルの殺人事件に異様に興味をもつ美少年の様子を見て、実は彼が犯人なのでは?と思うようになる。

あっという間に読んでしまった。
最近、集中力がなくて本を読むのに時間がかかるけど、この本は一気読み。
上手に読まされたな・・・と読み終わって思う。
ストーリーに惹きつけるのがとにかくうまい。
最初の場面で監禁されているのは誰だろう?と思うし、読み進める内に、本当に殺された男性が女性たちを監禁していたのか?とか、もしそうならその理由は?と思う。
さらに、少年二人の話に場面が変り、この話はどうつながるんだろう?と思う。
・・・という風に引きつけられた分、結末と真相にはイマイチ・・・という感じになった。
そこまでする説得性が感じられなかったのは犯人と、その犯行理由になった「アズサ」という女性とのエピソードが無かったからだと思う。
そこがあればもっと感じる所もあったのに・・・。
あえて書かなかったのは犯人像が少し読めてしまうからかな・・・と思った。

この本では結構な暴力シーン、レイプ、近親相姦というものが描かれているけど、読後感は悪くない。
何故かというと、主人公の男性がこの事件に関わる事によって再生していくという物語でもあるから。
過去の不幸な事件により、心の傷を負って、何年も家に引きこもるような生活をしていた主人公の男性。
そんな人が事件の事を知って、当時の関係者に聞き込みのような事をしていくのは見ていて「すごい・・・」と思った。
そして、行動する事によって自身が知らない内に変わっている。
何年も罪悪感を抱えて仕事まで辞めてしまった主人公だけど、そういう人だからこそ、信頼できる人だと思うし、人の心の痛みが分かる人だと思った。
それで、何もないようにしれーっとできる人が自分担当のカウンセラーなら私は嫌だと思う。
それと、反対の性格のように思える、主人公の妹や友人の刑事。
彼らを見ると、シンプルに健康的に生きる事が素晴らしいと思える。
ただ、そういう人には、この小説は書けないだろうと思った。

2020年11月20日

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読書状況 読み終わった [2020年11月20日]
カテゴリ 櫛木理宇

バブル期、投資で莫大な金を儲けた女性がいた。
彼女の名前はハル。
ハルは「うみうし様」という神様の言う通り、株の銘柄を選んで買うだけだと言う。
やがて、彼女の周りには金を得たい者たちが集まり、「春の会」という会ができる。
しかし、バブルは弾け、ハルには当時つきあっていた男性に裏金を作らせていたという疑いがかかり、殺人をおかして刑務所に入る事になる。
この物語は、ハルと同じ刑務所にいて仲の良かった女性が、ハルの事を小説にしようと思い立ち、当時、ハルの周りにいた人々に取材する、そのインタビューの様子をそのまま小説にした形になっている。
ハルの幼馴なじみ、親戚の女性、ハルの子供とされる男性、ハルの経営していた料亭の従業員、「春の会」のメンバー、ハルのつきあっていた男性の子供・・・それらのインタビューとハルの刑務所仲間の女性の話が交互に語られ、話は進んでいく。
そこで語られるのは、ハルの生い立ち、事件に至るまでのいきさつ・・・。

途中まで読んでいてずっと、「うみうし様」というのはハル自身の事だろうと思っていた。
彼女の人生の中で都合の悪い人間は必ず「うみうし様」に殺される。
だけど、「うみうし様」というのが神様なら実態が無い訳で、そういうのが実際に殺人なんてできない・・・という事は自然と犯人は本人だろうという事になる。
だけど、この話にはその辺も含めて、「そうだったのか・・・」という真相が用意されている。

だけど、それが全ての話ではなく、そういう真相が無かったとしても十分面白く読めたし、考える所もある話だった。
この小説では、ハル本人の話は出てこない。
本人は既に死んでいるから。
だから、ハルという女性について、周囲の人の語る所から自分なりに想像するしかない。
私からすると、ハルという人は怒りを常に心の中にためていて、そこから自由になるために生きた人だったのだと感じた。
そして、その怒りは常に、強い方に向いている。
自分と同じく恵まれない生い立ちの人には手を差し伸べている。
そこからすると、優しくて人に好かれる人だったのだと思う。
自分の中に怒りがある時、手っ取り早く、自分より力のない弱い者にその怒りをぶつける人が多い。
そうでない人だって事だけで私はこのハルという人が好ましく思えた。

怒りから自由になるのは、その怒りの対象を抹消する事、復讐する事か。
そうでないとこの本を読むと思える。
その方法はたった一つしかないのだと教えてくれている。

また、戦後、バブル期、現在コロナで疲弊している時代と経済をあわせて描かれていて、それが素晴らしくリアルなので物語の中に入って読む事ができた。
これは、いい本だと思う。

2020年11月15日

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読書状況 読み終わった [2020年11月15日]
カテゴリ 葉真中顕

5話からなる短編集。

「ただ、運が悪かっただけ」
主人公は余命いくばくない主婦。
彼女は夫から、昔、人を殺した事があると言われる。
聞いてみれば、以前勤めていた工務店の顧客の男性に使い古した脚立を売った所、その脚立から落ちて死んだのだと言う。
当時、その顧客の家には、家出して20年ぶりに帰ってきていた娘がいたと言う。
さらに、死ぬ前に顧客は大金を手にしていたと言うー。

「埋め合わせ」
主人公は男性教師。
彼はプールの水を抜くというミスを犯してしまう。
以前同じような事例があった時の事と照らし合わせて弁償しないといけない・・・と思った彼は、他で水が出たままになっていたと見せかけるため細工をしようとするが、そこを同僚の教師に見つかってしまう。

「忘却」
自宅を売り、アパート暮らしの老夫婦。
ある日、同じアパートで一人暮らしの男性が孤独死する。
死因は熱中症で、死亡時、エアコンがつけられてなかった。
実は、彼が死ぬ少し前に男性の電気代の請求書が誤って夫婦のポストに紛れ込んでいた。
妻は認知症の気があり、その請求書を彼に渡すのを忘れていたのではないか、それでエアコンが止まってしまい、男性が死んだのでは・・・と夫は思うがー。

「お蔵入り」
主人公は新人の映画監督。
出世作となるはずの映画の撮影中、その映画の主役である役者が薬物疑惑があるという情報を得る。
映画がお蔵入りになる事を恐れた彼は役者に会いに行き、薬物使用の事実を伏せようとするがー。

「ミモザ」
主人公は料理研究家の女性。
サイン会で、以前つきあっていた年上の男性と再会する。
以前は編集長だった彼は今は落ちぶれていて妻とも離婚、主人公に借金を申し入れる。
彼女は借用書を書いてもらい、お金を貸すが、それが悪夢の始まりだったー。

どの話もさりげない、日常のささいな事をついていて、そんなささいな事から人間の恐い一面が垣間見えるというのが面白かった。
とても繊細な感覚だと思う。
今まで読んだこの作者の本の中ではこの本が一番面白い。
上品で洗練された仕上がりだと感じた。

個人的には、「忘却」と「ミモザ」が面白かった。
「ミモザ」の夫はどういう人なんだろう?
主人公の女性は「優しい人」と言っていたけど・・・。
それが一番気になった。

2020年11月9日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年11月9日]

主人公は探偵の男性。
彼は金持ちの老人からある依頼を受ける。
それは老人の前世に、彼を殺した人物を特定して欲しいというもの。
前世、老人は農民で、水を巡る争いがあり、それに巻き込まれて殺されたと言う。
その場所も、前世の名前も分からない。
そんな途方もない依頼だが、金が必要になった主人公は依頼を引き受ける。
金が必要になった理由は、元従業員を追うヤバいヤクザとメキシコ系のギャングから元従業員の借金返済を迫られたため。
主人公は早々に、依頼調査に見切りをつけて、それらしい話を捏造しようとする。
だが、その捏造した話が奇妙な事に前世の記憶と一致しており、自分も探偵事務所の女性従業員も、その過去の人物の中にいた事が分かる。
やがて、調査をしていく内に、老人にその前世を信じ込ませたらしい占い師の男、その男に関連した怪しい女性の存在を知る。
そして、さらに別の前世の存在も。
彼はヤクザやギャングから逃れながら調査を進めていくー。

何だか始まりも終わりも中途半端な印象の話だった。
始まりが中途半端というのは、この話はもしかして続編?という書かれ方をしていたこと。
終わり方としては、結局の所、調査の結末はどうなったか、金持ちの依頼人のその後、小説家はどうなったかというのがなかった事。
そして、話が一本筋でなく、前世の話というオカルト系かと思いきや、いきなりメキシコのギャングが出て来て相当残虐な事をしたりするハードボイルドな話だったりと定まらない感じだった。
個人的に興味深いのはオカルト系の方で、ゴブリンのような容姿の不気味な女の存在を掘り下げて書いて欲しかった。

世界は一つ。
相手は自分のうつし鏡である。
という話も、この物語の説によると何となくイメージできる。
だけど、あまりに途方もなさすぎてついていけない。
この世の理や宇宙の真実(?)を知りすぎると精神に異常をきたすというのは何となく分かるような気もした。
だけど、何度も生まれ変われるから・・・と、まあ、死んでもいいか・・・とはならない。
結局、今の肉体で痛い思いはしたくないと思うし、個人的にはもう二度と生まれ変わりなんてしたくないと思う。

2020年11月4日

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読書状況 読み終わった [2020年11月4日]
カテゴリ 貴志祐介

主人公は大手出版会社を早期退職し、今はフリーの校正者である男性。
彼は自費出版の「縄紋黙示録」という原稿の校正を依頼される。
その原稿は縄文時代を舞台にした小説で、やたら縄文時代の事について書かれており、時代検証が必要だと思った彼は元同僚で今はホームレスの男性に原稿を見てもらう。
そして、なりゆきでその男性は飼い犬と共に、主人公の家にしばらく住む事になる。
その後、「縄紋黙示録」は殺人犯で今は刑務所にいる女性が書いたものだと分かる。
そして、縄文時代へのトリップ。
そこでは男女は鳥居によって分かれていて、子供を産む女性以外は過酷な状況にあった。
物語は、元同僚、出版社の女性と変わりながら、縄文時代にトリップした世界を描きつつ進んでいく。

この作者の書いたものでは、今まで読んだ中で一番シンプルなストーリーだった。
登場人物もそれほど多くないし、話もそれほど複雑でもないし。
それなのに、読みお終わった後、いつものように何かバカされたような気分になるというのは・・・。
あれ?これで終わり?何か見落としてないか?分かってないんじゃないか?という気分になった。
そして、そういう読後感にも関わらず、訳分からん!と腹が立つ感じにはならない。
結末はどうあれ、書いてある内容にひきつけられて読む事ができたからかもしれない。

何しろ、生まれてからこんなに縄文時代という時代について考えたのはこの本を読んで初めて。
そして、発想の素晴らしさ。
文字、言葉というものの捉え方とか、刺青と現代のコンピューター言語をつなげる発想だとか、イメージしてみるとすごい世界観だった。
過去の縄文時代にトリップしたと思いきや実は・・・というのもなるほど・・・という感じ。

それにしても、これだけ縄文時代、その周辺について詳しく書くというのは大変だな・・・と思ったと同時に、この本の校正は大変だろうなぁ・・・と思った。
小説の中の小説だから空想の世界という事でそれほど正確でなくてもいい?
だとしても、リアル感をもって読めて、書き手の時代に対する情熱みたいなのを感じた。

2020年10月26日

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読書状況 読み終わった [2020年10月26日]
カテゴリ 真梨幸子

女性を殺害、レイプしている所を女性に見られた男はその目撃者である女性に暴力をふるうが、いつの間にか彼女のペースに乗せられて、彼女の家に誘われるまま行く事になる。
その家は高級住宅地にある一軒家で、女の「家族」と呼ばれる老若男女が数人いた。
元々、その家は彼らの物だったが、事故で知り合った女にいつの間にか乗っ取られ主導権を握られていた。
彼らは女に洗脳され、女の言いなりに知人に借金を重ね、犯罪を犯している。
その家族の内の一人、長女である20代の女性は同級生の男性と再会し、やがて自分の家がそういう状態であるという事を告白する。
同級生の男性は初恋相手である彼女を救いたいと手立てを考える。

面白くて一気に読めてしまったけど、後半と結末に「うーん・・・」となってしまった。
優子という訳の分からない悪魔のような中年女に洗脳されている、というくだりの方が面白かったのに、後半、急に別の話になってお手軽に終わらせたという印象。
これに似た事件は実際にいくつかあって、知っている人ならこれを読んでいるとすぐに思い出すと思う。
私も実際の事件と照らし合わせつつ、これからどうなるんだろう?この女はどうしてこんなになったんだろう?とワクワクして読んでいたのに・・・。

序盤の洗脳の様子がリアルだった。
被害者に罪悪感を植えつける。
暴力、恫喝でガツンと最初にたたきつける。
たまにアメを与える。
自分で手を汚さない。
ここまでの事はないにしても、私が実際に知ってる、人から搾取する人間を思い浮かべてやり口は同じだな・・・と思った。
完璧なサイコだけど、どんだけ人から搾取しても本人は満たされるという事がないのでは・・・と見ていて思った。
その辺りを掘り下げて書いて欲しかった。
加害者が被害者だったというのはどうにもスッキリしない。
それにしても、これほど悪行の限りを尽くす女の名前が「優子」とは皮肉だな・・・と思った。

2020年10月16日

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読書状況 読み終わった [2020年10月16日]
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