村上春樹独特の個々の表現や感受性、またそのようなレトリックを用いながら綴られる、鼠が「僕」を媒介に悪の組織を壊滅させるという物語はそれら単体で読み応えがある。文章の端々から感じる、60,70年代の近代化に対する「僕」のなんとなく居心地の悪い感傷も興味深い。
一方で、この小説の主題を読み解くのは難しい。自分の人生が自分の人生でないような、しっくりこない退屈な日々。幾度もの喪失。そんな中で外発的な経緯から始まる「何か」を探す旅。そうして最後にはまた全てを失ってしまう。
鼠3部作の通奏低音としてあった「直子の死」が、最後の慟哭を通じて遂に終わりを迎える。長い悲しみの末、「僕」は、行き先はわからないとはいえ立ち上がる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2018年8月29日
- 読了日 : 2018年8月29日
- 本棚登録日 : 2018年8月29日
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