LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

  • 東洋経済新報社 (2016年10月21日発売)
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本書は、今を生きる全ての人、特に年齢50歳以下の人にはぜひ読んでもらいたい本だ。

先日、政府が「夫婦で老後は2,000万円が貯蓄として必要」と発表したことで大騒ぎになったが、こんなことはちょっと考えれば小学生でも分かることだ。そのことを野党が追及するのも的外れだし、与党も年金制度は破綻しないなどと言うのも全く逃げとしか言いようがない。

ごくごく単純に考えて年金を積み立てる期間が20歳から60歳の40年間だとして、その後60歳から100歳まで生きるとしたら、その期間は同じく40年間。つまり、単純に自分達の払ってきた年金分しか受け取る資格がない訳だ。

自分としては60歳からまったく40年間働かずに自分が積み立てた年金だけで暮らしていけるほどの金額を積み立てているとは到底思えない。だからと言って、その分、子供や孫の世代に自分を養って欲しいとも思わないので、自分で働けるうちにその分のお金を貯蓄しておくか、60歳以降も働く必要があるということは自明の理なのだ。
なぜ、そんな単純なことを大騒ぎするのだろうか。

年金制度ができた時に、将来、人々の多くが100歳まで生きるなどとはまったく考えられなかったし、若い人の人口が減少していくということも想定していない。
今になってその仕組みを作った官僚や当時の政治家を非難しても何の意味もないし、現在の政府も「年金制度が設立当時とは全く想定が違っているので再考します。このままでは国全体が破産してしまうので、国民の皆様ご協力お願いします」と素直に言えばよいのだ。

この本は、年金だけで生きていくことは不可能なので、その分若い時から将来の人生設計をして対応策をしておけということが分かりやすく書いてある。
もちろん、世界中でこれだけベストセラーになっている本なのだから、ただ「貯蓄に努めましょう」などという、どこぞのファイナンシャルプランナーが小遣い稼ぎの為に書いたような本とはレベルが違う。
「これからの未来を生き抜く為には、人々の意識を改革していく必要性がある」と説いているのが本書なのである。

今、50代後半の人ならば、今までどおりに働き、何とか死ぬまで苦労せずに人生を全うできるかもしれない。
しかし、僕らのように今40代以下の人間が生きていく未来の社会は誰も経験してこなかった社会が訪れる。もう100歳まで生きるのは当たり前となり、どうやって100歳まで生きていくかと言うことが本書で述べられていることなのである。

もう、年金には頼ることはできない。子供や孫の世代にも頼れない。

なら、頼ることができるのは、自らの身体と知力だけなのである。
厳しいことを言えば、今、40代以下の世代の人々は

60歳で仕事を辞め、その後、死ぬまで悠々自適の生活をすることなどあり得ない
もう忘れるのだ。
そんな世界はやってこない。
働けるだけ働くのだ。70歳だろうが、80歳だろうが。

この本が説いているのは、どうやったら70歳、80歳まで快適に働けるかということである。
僕がこの本を読んで、まったくこの本の内容を知らない人に分かりやすく説明してくれと言われたら、僕の理解した範囲、とりあえず以下の例を示すのが一番分かりやすいかなと思うので記載してみる。

例えば、いま45歳の会社員が定年の60歳まで、現在の職場で毎日残業をし、死ぬ思いをしてあと15年働いたとして、年収約600万円なら15年働けば約9,000万円だ。ここで仕事を引退したらこの約9,000万円から15年間の生活費を引いて、その残った金額で引退後の40年を生きながらえなければならない。
生活費を1年200万円にしたとして、15年で使う金額は3,000万円。9,000万円から3,000万円を引いた6,000万円で残り40年を暮らしていけるかということだ。つまり、1年約150万円で暮らせるならばそれは可能だ。
分かりやすく数式にすれば
  600万円×15年=9,000万円
  9,000万円-200万×15年=6,000万円
  6,000万円÷40年=150万円
ということになる。

一方、年収400万円だが比較的身体的にも楽で時間的にも余裕のある仕事で定年が70歳の企業に45歳の時に転職したとしたらどうだろう。
70歳まで25年間働けば1億円を稼ぐ計算になる。先ほどと同じように1年の生活費を200万円にすると、25年で使う金額は5,000万円となり、1億円から5,000万円を引いた5,000万円を残り引退後の30年間で使えるということになる、そうすると1年間で約166万円まで使えるということになる。
同じく数式にすれば
  400万円×25年=1億円
  1億円-200万×25年=5,000万円
  5,000万円÷30年≒約166万円
となる。

身体や精神的負担、時間の自由度、引退後の生活など総合的に判断すると、どちらが自分にとって良い選択だろうか。
つまり、この本に書いてあるのはこういうことなのだ。

前者の例で言えば60歳で定年退職した後、再雇用や再就職をするというオプションもあるし、後者の例でも70歳の定年を75歳に延長することも可能かもしれない。
もし働くことの可能なパートナーがいれば世帯収入は変わってくるし、子供やマイホームを持っていればまた違った計算が必要だろう。

もう、自分の身や自分の家族は自分で守るしかないのである。

70歳、80歳まで働くためにはどうすれば良いのか。
もちろん健康であることは第一の条件だ。
それから、働くことに必要なスキルや知識をその都度習得することも必要だろう。
そして自分が好きな仕事、自分がやりたい仕事をその時に見つけるためにはどうすればよいのかを常に考えておく。

こういったことを今から一人ひとりが考えていけば、その時に大騒ぎすることは全くないのである。
本書は、こういったことを非常に分かりやすい例を引いて論じられている。
さすが世界中でベストセラーになる本である、以前から漠然とは分かっていたが、ここまではっきりと記されると、もはや自ら生きる世界が既に変わってしまっているのだときっちりと認識させてくれる良書である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2019年9月12日
読了日 : 2019年9月7日
本棚登録日 : 2019年9月12日

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