美徳の経営

  • エヌティティ出版 (2007年5月1日発売)
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野中郁次郎&紺野登著「美徳の経営」読了。予想以上に面白かった。「美徳(Virtue)」という一見精神論的な概念を起点に知識創造モデルの戦略観を発展させ、社会的な視点で理想や目的、思いをカタチにしていく実践知と、直感的な仮説推論アプローチの企業における重要性を提起している。
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丹羽宇一郎は、「会社は誰のものか、という質問があるが商法上会社は株主のものに決まっている。しかしそれは本質ではない」という。会社の本質を語るには、それが「誰のものか」ではなく「誰のためにあるのか」が視点として重要である。

本田宗一郎が部下たちの戦略計画案の場面を目にして、そんなことをやっている暇があるなら面白いものを作れ、と怒鳴った逸話が残っている。~乱暴な考え方であるが、否定できないものがあった。単に現場主義と戦略計画の世代対立ではなく、それを超えたところにある「実践知」の重要性を説いたのだ。

アップルの歴史は、いかに一般的な戦略が役立たないかの実証だ。象徴的なのはペプシでマーケティング戦略の天才とすら呼ばれたジョン・スカリーの失敗である。アップルのようなイノベーションを本質とする企業では、創造行為の実践のみが課題であり、戦略目標や一般的な分析は効用をもたらさなかった。

デザインの目的は、最小の構造に最大の意味を包含できるような、多様で含蓄のある価値やコンセプトを、最もシンプルな構造や体験で表現することである。その過程を通じて、複雑な問題解決に確かさを与え(真)、人間のための本質的な社会的便益を具現化し(善)、創造的な感性を満足させる(美)。

ソーシャル・キャピタル(文化・社会に包含された共同体の知識)を企業の価値の源泉とすることは、市場ニーズでも技術シーズでもない、第三の価値創造の源泉となりうる。つまり、伝統(文化)とイノベーション(知識創造)はこうして連結する。

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感想投稿日 : 2010年5月5日
本棚登録日 : 2010年5月5日

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