貨幣とは何だろうか (ちくま新書 1)

著者 :
  • 筑摩書房 (1994年1月1日発売)
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感想 : 14
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去年からずぅ~と気になっていたことが何となくわかりかけてきた。
わたしのお金に対する異常な怨みと恐怖。その謎が解けそうである。
今村さんによれば「貨幣は人間存在の根本条件である死の観念から発生する。」そうだ。この本では詳しい論証がないのであるが、そう言われれば何となく分かるような気がする。わたしが気になっていたのも経済学上の貨幣ではなくて、人間存在の本質に関わる貨幣だったからだ。

貨幣は物の交換における媒介形式(間をとりもつもの)であり、法律や道徳的掟は市民生活の媒介形式である。人間の社会関係は、これらの制度になった媒介形式がなければ円滑には進行しない。もしもそれらを無視したり傷つけたりした時は神話的世界が現出し人間は運命の波に翻弄され、罪を犯し、犠牲を要求される。

わたしたちは一見なんの不思議もないように日々の暮らしをおくっているのだが、こういった制度を引き剥がしたと人間の根本を覗きこむと実はとても恐ろしくおぞましいものがあったりするのかもしれない。

例えば、わたしは暑い日中に歩き疲れてビールが飲みたくなって、目についたコンビニに入る。あまりの暑さに頭がおかしくなっていて貨幣という制度をまったく忘れてしまっている。冷蔵庫をあけてビールを掴み飲もうとする。当然店員さんがそれを止めようとする。金を払えと。ところがわたしは暑さのあまりデモーニッシュな力に取り憑かれているので欲望のまま店員さんを振り切り自己の満足を目指そうとする。そして、力ずくでわたしの行為を阻止しようとした店員さんをたまたま持っていたナイフで刺し殺して、わたしは満足気にビールを飲むのである。

このように法や倫理や貨幣などの媒介形式のない神話的な世界は暴力と死に満ち溢れる結果となる。「なんでもあり。」なんてことはない。もし、そうすれば累々とした屍の山が築かれることになるだろう。


Mahalo

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2013年7月25日
読了日 : 2013年7月20日
本棚登録日 : 2013年7月16日

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