ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)

3.65
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本棚登録 : 5076
レビュー : 519
制作 : 野崎 孝 
Keitoさん 物語   読み終わった 

サリンジャーは本当に意地悪なひとだと思う。かなり、変わっている。
バナナフィッシュからはじまる一連の物語の不可解さ、不思議さ。なのにでも、どこかひきつけられた暖かい。
始めは、出来事の順序や時間といった因果関係がつながっているようで壊れていて、困惑した。出来事と行動を結びつけることが拒まれている。なんだこれは。
テディまで読んでようやくわかった。出来事に因果関係など、はじめから彼は持たせていなかったのだ。彼はことば以前に立ち戻って語ろうとするために、因果関係を拒絶するような飛躍をしているのだ。テディのことばを借りれば、エデンのリンゴを吐き出して、ということだろう。
どうしても理由や意味をもとめたがってしまう。シーモアはなぜ自殺したのか、とか。今目の前にいる愛らしい口元の目は緑の奴は何者か、とか。なぜコネティカットのひょこひょこおじさんはあんなにも涙したのか、とか。ド・ドーミエ=スミスはあの晩何を見たのか、とか。はっきりいってそういったことを求めるのはナンセンスだと思う。わかるわけないのだ。はじめから意味や理由を持たせていないのだもの。ただ、在るようにしかない。バナナフィッシュはバナナフィッシュであって、それ以上の何者でもない。どんな形でどういう色でとか、海にバナナって何なのか、そんなものない。そうとしか、言えない。そうとしか言えないように、しているのだ。たぶんプラトンへの敬愛が彼にあるんだと思う。
そうすると、バナナフィッシュになったり、眼鏡を頬にこすり付けて泣いたり、脱腸帯を締めてるマネキンになったりするのだ。こういう意図的にナンセンセンスなものが書けてしまうというところが、ものすごく変わっている。哲学者ではこうはできない。
そして、そのことを最後に10歳の少年に堂々と語らせて、見事に落ちまでつけて幕引きさせるのだから。まるで今までの8編での取り組みのほどを確認するかのように。相当イケズだと思う。
解説によると、彼は自分の略歴や作品への解説を許可していないようだ。戦争がどうとか、家庭がどうとか、人物像や彼の表す象徴の解釈を作品に持ち込んでもらいたくないのだ。そんなものなくても、彼の書いたものを自力で理解できなければ、リンゴを吐き出してものを言えない。いや、理解というよりはもはや体感といった方がいいかもしれない。
彼の作品に登場するのは若いひとだと言うが、年齢というよりは根源的というところなんだと思う。いくら年がいっていても、根源をいつでも見出せるひと、それが若さなんだと。10歳でも何歳でもいいのだ。常に古く、常に新しく、ひとは根源に至ることのできる可能性を持っている。

レビュー投稿日
2015年2月4日
読了日
2015年2月4日
本棚登録日
2015年2月4日
3
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