夜間飛行 (新潮文庫)

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本棚登録 : 3494
レビュー : 283
制作 : 堀口 大學 
Keitoさん 物語   読み終わった 

サン=テグジュペリの初期の作品ふたつ。
危険だと知りながら、命はないものになると知りながら、それでも…と空へと向つていく。
命のやり取りはそれはもう極めて論理的に行はれる。大義名分など彼らにはない。生きるか死ぬか。ただそれだけだ。燃料が尽きれば飛行機は墜ちる。嵐に巻き込まれても墜ちる。航路から外れれば仲間でさへ見つけられない。賴れるのは心もとない電波通信と計器、握つた操縦桿。乗つてしまへば、あとは委ねるより他ない。何に? 空に大地に海に未来に。
この時もはや操縦者は誰でもない。死と隣り合はせの、たつたひとりの「ひと」である。地上では愛する者が仲間が待つてゐるかもしれない。しかし、空では己ひとりで生命の賭け事に飛び込まねばならない。人生は他でもない自分の人生だ。空はそのことを冷酷に、確実に搭乗員に示す。
彼がパイロットとしてあるひは作家としてどのやうな経緯を辿つたのかは知らない。けれど、どこまでも残酷でそして確かな人生といふことに関して、どこかで握りしめたには違ひない。そしてそれは飛行機として身を結んだ。これが海に出ていたとしたらなら、ヘミングウェイであつただらう。
ジッドはその序文で『夜間飛行』を評価してゐる。夜間飛行は、ただひとりのパイロットとしてだけではなく、支配人として命令する、地上の人間をも描ききる。死に赴くパイロットも、それも命令する支配人も同じ人生だ。パイロットだから特別なのではない。何かを選び決定するといふそこに、違ひなどない。それは義務と呼ばれる何かを超えたもの。ひとがひとである何かに根差してゐる。操縦士としてのサン=テグジュペリを越えた、ひとりの作家としてのサン=テグジュペリの目覚めだ。

レビュー投稿日
2018年12月16日
読了日
2018年12月16日
本棚登録日
2018年12月16日
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