猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

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レビュー : 531
著者 :
けろ姫さん けろ姫的 名著!!   読み終わった 

 小川洋子氏は実在したチェスチャンピオン、アレクサンドル・アリョーヒンと「背中合わせに生きた人物」として、伝説の天才リトル・アリョーヒンを創りだした。
だがリトル・アリョーヒン自身がチェスを戦ったわけではない。「チェス人形」の狭い狭い空間に身体を押し込ませた操り手として生きたのである。

 生まれながらの異形であるリトル・アリョーヒンは、デパートの屋上から降りられなくなった象や、壁に挟まれて出られなくなった少女を心の友とし、プールのa8の場所に浮いていた溺死体が縁になり、マスターと出会う。マスターは今にも消えてしまいそうだった彼に、チェスという海への航海を教え、「人生」を与えた。だがマスターも異形なまでの肥満体で、そのことがまたリトル・アリョーヒンの心に傷を残すことになる。
 
 リトル・アリョーヒンの人生は、不幸であり幸せでもあった。全うな人生を与えられなかったかわりに、才能を与えられ、心より愛する対象を見つけて生きることができたのだから。彼の痛々しいまでに慎ましく純粋な生き方は、どんなアクティブな主人公よりも私の中に強い印象を残した。

 本当に美しい物語である。小川洋子氏の発想と表現力はさすがで、数学的なシステムへの愛情は、無機的なものを、匂いやぬくもりのある愛すべきものに変えてしまう。その力はもはや魔法だ。

 読みながら私の頭では何度もこの物語がアニメ化された。ベルヴィル・ランデブーのような、四畳半神話大系のような。
シルヴァン・ショメ監督にぜひアニメ化してほしい。実写はダメ。

レビュー投稿日
2013年7月10日
読了日
2013年7月10日
本棚登録日
2013年7月10日
2
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