羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)

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mioooさん  未設定  読み終わった 

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誰かが言っているように、手間さえ惜しまなければ大抵のことはわかるものなのだ。



彼女はいつも同じ席に座り、テーブルに肘をついて本を読み耽っていた。歯列矯正器のような眼鏡をかけて骨ばった手をしていたが、彼女にはどことなく親しめるところがあった。彼女のコーヒーはいつも冷めて、灰皿はいつも吸殻でいっぱいになっていた。本の題名だけが違っていた。ある時にはそれはミッキー・スピレインであり、ある時には大江健三郎であり、ある時には「ギンズバーグ詩集」であった。要するに本でさえあればなんでもいいのだ。店に出入りする学生たちが彼女に本を貸し与え、彼女はそれをとうもろこしでも齧るみたいに片っ端から読んでいった。



街について話そう。
我々の生まれた街ではなく、べつのいろんな街だ。
世界には実に様々な街がある。それぞれの街にはそれぞれのわけのわからないものがあって、それが僕をひきつけるんだ。そんな風にして、僕はこの何年ものあいだにずいぶん多くの街を通り抜けてきた。
いきあたりばったりに駅を下りると小さなロータリーがあって、街の案内図があり、商店街がある。どこだってこれは同じだ。犬の顔つきまで同じだ。街をとりあえずぐるりと一周してから不動産屋に入って安い下宿を紹介してもらう。




こういう生活が自分にぴったりしたものかどうかは、まだよくわからない。放浪的な性格というものが普遍的に存在するものかどうかもわからない。誰かが書いていたように、長い放浪生活に必要なものは三つの性向のうちのひとつであるのかもしれない。つまり宗教的な性向か、芸術的な性向か、精神的な性向かだ。そのどれかがなければ、長い放浪は存在しないということだ。でも僕がその三つのうちのどれかに適合すると思えない。





このあたりはさっきも言ったようにおそろしく静かだ。他に何もすることがないから毎日本を読んで(ここには十年かけても読みきれないほどの本がある)、FMラジオの音楽番組やらレコードやら(ここにはずいぶん多くのレコードもある)を聴いている。こんなにまとめて音楽を聴いたのは実に十年振りだな。ローリング・ストーンズやビーチボーイズがいまだに活躍しつづけているなんて驚くほかはない。時間というものはどうしようもなくつながっているものなんだね。我々は自分のサイズにあわせて習慣的に時間を切り取ってしまうから、つい錯覚してしまいそうになるけれど、時間というのはたしかにつながっているんだ。
ここには自分のサイズというものがない。自分のサイズにあわせて他人のサイズ誉めたりけなしたりするような連中もいない。時間は透明な川のように、あるがままに流れている。ここにいると時々、自分の原形質までが解放されてしまったような気がするんだ。つまり僕はふと自動車に目をやるんだが、それが自動車であると認識するまでに数秒かかることがある。もちろんある種の本質的な認識はあるんだけれど、それが経験的な認識とうまく交わらないんだね。そういうことが最近すこしずつ多くなってきた。たぶん長いあいだ一人ぼっちで暮らしているためだろう。




「もちろんあります。苛立ったり、不快になったりすることもあります。特に急いでいる時などはどうしてもそうなりますね。しかし全ては我々に課せられた試錬であると考えるようにしてるんです。つまり苛立つことは自らの敗北です」
「ずいぶん宗教的な交通渋滞の解釈みたいに聞こえるけれど」



ゆっくりビールを飲み、ゆっくり夜景を眺め、灰皿の上でゆっくりと爪を切り、もう一度夜景を眺め、爪にやすりをかけた。そのようにして夜は更けていった。僕は都会における時間のつぶし方にかけてはベテランの域に達しつつあ



そして電話が切れた。あと味の悪い電話の切れ方だった。僕はあと味の悪さを消すために腕立て伏せを三十回と腹筋を二十回やってから食器を洗い、三日ぶんの洗濯をした。それで気分はほぼもとどおりになった。気持の良い九月の日曜日だ。夏はもううまく思い出せなくなった古い記憶みたいにどこかに消え失せていた。






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む、むらかみはるき、おもしろい…!と気づいてしまった一冊。
DFで発見、メヒコで読む

高校の授業でむらかみはるきはあるこどくやさみしさをもった人が惹かれる作品である(うろ覚え)みたいなことを読んで、だったらむらかみをおもしろいと思えないわたしラッキーくらいになんならおもっていたのに(中学のときにねじまきで挫折、高校でエッセイはいいよね、でも小説はね、とか思ってた)のに、のに、のに
いまではとてつもなくすきな作家になってしまった
いまの生活速度ともあってるんだろーなぁ

レビュー投稿日
2013年8月27日
読了日
2013年8月27日
本棚登録日
2013年8月27日
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