弁護側の証人 (集英社文庫)

  • 集英社 (2009年4月17日発売)
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本棚登録 : 3104
感想 : 421
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見事に著者の思惑に引っかかりました。
騙されたのに悔しさが全くない。
むしろ、こんなすごいものが昭和30年代に書かれていたとは!という驚きの方が勝りました。

私たちは書かれたものから、背景を読み取り理解していくと思うんですね。その時に自らの経験、情報を基に推測しながら読み解いていくと思うのです。
この本はまさにそれを利用したトリックとも言えるのではないでしょうか。
読者に与える情報を著者が上手くコントロールして、読者が見える景色をごまかします。
そのテクニックがとにかくすごい。
正解はAなのにBと思わせ、ストーリーが進むとCなのではないか?とまで思わせ混乱させる。
単純な事件なのに、よくこんなにも遠回りさせるよなぁ。
何もかもしてやられた感があるのです。

ラスト、途中まで推測していた自分の推理がガラガラと音を立てて崩れていきます。(この絶望たるや……)
が、崩壊と同時に素早く新たな推測を組み立てている自分がいました。

”とくに、この事件のような、一見単純と見える性質のやつは、見る者にしばしば大きな誤謬を植えつけるものでしてな”(抜粋)

まさにその通り。事件自体はホントに単純なのです。
語り方一つでこんなにも見え方が違ってくるとは!
読者の視点の置き方がポイントになってきます。(それがラストまで分からないからすごいのです、このミステリは)

ここまで素晴らしいと、騙されたほうも悔しさとか怒りとか全く出てこない!笑
むしろ芸術性の高さに痺れます。

こちらの書籍は一度絶版になったミステリとのことです。復刻するだけの価値は十分にある!
巡りあえてよかった。
稀書復刻とはこの本のことですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2023年12月1日
読了日 : 2023年11月30日
本棚登録日 : 2023年11月25日

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