笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)

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本棚登録 : 7379
レビュー : 697
著者 :
三条司さん 和書(ま行)   読み終わった 

森博嗣の本を読む度に、いかに自分が平凡でありふれた人間なのかをありありと認識させられる。彼の本を読んだ後しばらくはまだその余韻を覚えているのだけれど、ともすればそれすらも忘れてしまうお気楽な脳みそなので、読む度に再認識する、の方が的確かもしれない。
毎回、似たようなことを書いているような気がして、それはつまり、毎回、似たようなことに感動・感嘆しているからなのだけれども、でもやっぱり書かずにはおられない。
この内容を、96年に文庫として発表するという彼の前衛的な考え方。シャープなもの、特に思考は年月などの影響を受けず、その先端は尖ったままでいられるのだなと。
これを初めて、まだ黒っぽい表紙で読んでいたときの私は、恥ずかしながらすっかり犀川先生の虜になっていて(今でもそうだが)、犀川先生みたいになりたくて、彼みたいに振る舞いたくて、彼に興味を持ってもらいたくて、彼の世界に行けない自分が、彼と同じ土俵に存在しない自分が歯がゆくて、それを軽々とやってのける西之園さんが羨ましくて仕方がなかった。犀川先生と一緒にタバコを吸ったり、心配してもらって探しに来てもらったり、一緒にドライブに行ったり、一見意味不明の冗談で笑い合ったりしている彼女に本気で嫉妬していたらしく、今回二度目の読書でまったく彼女について覚えていない自分に愕然。彼女、色々と微笑ましい葛藤があったのですね。
天王寺博士も、覚えていた以上にスタイリッシュで、今の森作品にも通ずるような曖昧さが素敵。しびれます。
あの頃思っていたよりも、ずっと丁寧に人々は描かれていて、理系=冷静で頭が良い、だけでない性格や感情の機微がとても繊細に観察されていて、あらためて森博嗣というひとの視野の広さにひれ伏したくなる思いです。
読む度、ああ、なんて自分は凡庸なのだ、と頭を抱えたくなる。一生、あのひとが見ている景色は私には見えないのかもしれないと悲しくなる。
でも、それでも、彼が生きているこの時代に、彼の書いた本を読んで感動できるくらいには、自分には知性の欠片があるのかもしれないと幸せな気分にもなったり。
誰がなんと言おうと、森博嗣という人間は、私にとって特別中の特別です。冷静さを欠ける相手がいるのも、幸せ。

レビュー投稿日
2014年5月7日
読了日
2014年5月7日
本棚登録日
2014年5月7日
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