水底フェスタ (文春文庫)

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本棚登録 : 1344
レビュー : 140
著者 :
きいろいるーぺさん  未設定  読み終わった 

良くも悪くも辻村さんらしくない作品。中盤からの内容はかなりぞっとさせられた。

前半は主人公の広海(村の旧弊的な性格を嫌い、俗物的な母や友人の門音をどこか冷たい目で見るような人物)が、村に帰ってきた女優の由貴美の、妖しい魅力に前のめりになり、彼女が語る復讐を、真意がわからぬまま「今手に入れた彼女と自分が引き換えにできるものがあるなら、何を投だしてもいいから、この人が欲しい」という一心で手伝うことになる。


そして物語が中盤に差し掛かったところで、由貴美から、村の村長選でお金の絡んだ不正が行われていること、それが彼女の母を苦しめた事、そして復讐はその母の弔い合戦である事を明かされる。広海の父は現村長であり、その不正に関与しているかもしれないという由貴美の話に広海は困惑する。

その話を境に物語は「復讐によって繋がれた恋愛物語」から、一気に「共同体に潜む閉塞的な闇の部分に切り込んだ作品」へと変貌します。不都合な事は見て見ぬ振りをして、有象無象がその隠蔽まがいな行為を"何か"に結びつけて正当化する…
そんなことが当然のように行われている睦ツ代村は読んでいてあまりにも不快で、暗くて、怒りすら湧いてきました。

でも、読み終わって冷静になって考えてみると、それは睦ツ代だからとか、あるいは巻末解説に書かれているような「オメラスから歩み去る人々」のオメラスだから起こっている特異な事柄なのではないということに気づいてしまい恐怖します。
いじめッ子といじめられる子、それを可哀想だと思っている"傍観者"。ここにも陸ッ代という共同体が成立しています。
「みんなやってるから」そういう悪意のないごくありきたりな感情で、どんな場所でも陸ッ代になり得るし、どんな人でも陸ッ代村の村人になり得るのだろうと思いました。なんだか一瞬でも自分と陸ッ代の村人を別だと考えていたことに辟易しました…

なんだか辻村さんらしくない読後感のドンヨリした作品でしたが、広海が最後に由貴美との関係を「由貴美も広海もともに厭うような、平凡な恋の一つに過ぎなかったと、認めてもいいのではないか。」と振り返っている部分はなんだかこっちまで救われたような気分でした。

個人的な感想として、読んでいてかなり疲れた作品ではありましたが、中盤から終盤にかけては引き込まれるような面白さがあるし、テーマ性も強い作品なので是非読んでほしい作品の一つです。

レビュー投稿日
2019年2月23日
読了日
2019年2月19日
本棚登録日
2019年2月19日
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