演劇実験室天井桟敷の劇作家出身の岸田理生さんの初小説集。単行本は1986年に刊行。
天井桟敷出身ということですが、寺山修司氏の影響が色濃いことも、演劇的なこともなく、ストレートに、伝奇、SF、というジャンル小説になっていました。
収録作全7編のうち頭の2編が伝奇小説スタイルで、そのあとの5編はSFスタイルです。
眠ることを禁じられたディストピア小説「不眠の街」の、不条理な展開を見せる後半が、やや演劇的でしたね。
どの作品も、多かれ少なかれホラーな味付けがされているのが、角川ホラー文庫から再刊行されている理由でしょうね。
以下は作品ごとに簡単な感想を↓
柔らかい卵
人間の男と、人外少女の、出会いと別れを描いたファンタジー。
ホラーという感じではないですね
故事、神話、という感じの物語を現代を舞台に再現させています。
父の血の……
夢の中で犬になって肉を喰らった男が、自らの出生を辿る物語。
これも故事を現代に甦らせたような、ファンタジックな一編。
不眠の街
これは、先に収録された2作とは、全く違った雰囲気です。
作者の岸田理生さんは、演劇実験室天井桟敷の劇作家出身ですが、この作品には、天井桟敷っぽさ、寺山修司っほを感じます。
眠りを禁止された世界を描いたディストピア風SFから、不眠をし象徴的に用いて途中『田園に死す』のような演劇的で不思議な世界へと急展開するのが幻惑的です。
楕円球体
地中から黒い楕円球体を発掘した一人の考古学者が体験する、不思議な出来事を描いた一編。
「土中の奥深く」「いつの時代に?」という描写で、著者がおそらく地層という概念が全く無いのであろうということがわかります。
その時点でかなり興醒めですが、考古学者の義兄が連れてきた不思議な少女と考古学者の姉が産み落とした赤子との不気味な雰囲気は良かったです。
だからこそ、赤子が生まれるまで、よりも、赤子が生まれてから、の物語をもうちょっと長く読みたかったですね。
鏡世界
鏡に映されたものが、実際とは違う、という怖さを描いた一風変わった作品。鏡に映る何者かが怖い、ではないところが変わってるんですよね。
最初は、髭を剃ったはずなのに、鏡に映る顔にはまだ黒いものがある、というちょっとユーモアを感じるものですが、徐々に大事になっていき、パニックホラーな雰囲気になっていきます。
最後の子
20年間、人間に子供が生まれなくなった世界を描いた一編。
終末感漂う設定は、なかなか魅力的でした。
終末SFだと思っていたら、突然侵略SFになるのですが、その変化が鮮やかではないので、とってつけたような展開に思えてしまったのは、ちょっと残念です。
この作品集の表題作であり、この作品集で最もページ数が多い作品ですが、やや冗漫な印象も受けましたね。
記憶のまちがい
超能力を持つ家族を描いた超能力SFであり、強い能力を持った息子に怯える母を描いた怖い子供ホラーでもあります。
タイトルの、記憶のまちがい、は、その息子の父親が誰だったのか、という、母親の記憶のことだとは思うのですが、それは物語の要素として、あってもなくてもよかった要素です。
- 感想投稿日 : 2021年4月8日
- 読了日 : 2021年4月8日
- 本棚登録日 : 2021年4月8日
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