夢枕獏氏が1986年、月刊誌『小説現代』に連載した怪談集「奇譚草子」を1988年に単行本化したものを、1991年に文庫化したもの。
「奇譚草子」だけでは、単行本一冊には分量が足りなかったのか、一冊の後ろ半分は、1981年から1985年に発表された“掌篇小説”を集めて収録しています。
夢枕獏氏がショートショートではなく、掌篇小説としているのは、「ある雰囲気だけの積み重ね」「オチにこだわったというものは少ない」ということからだと、「あとがき」にあります。
オチらしいオチがある「ヒトニタケ」以外は、確かに物語性の少ない、イメージ重視の作品ばかりで、逆に怪談を集めた「奇譚草子」のほうが、因果関係が全く不明の話ばかりながら、話の流れに起承転結をつけようとしているあたり、エンタメ小説家らしさを感じさせます。
夢枕獏氏の書く語り口調が、ちょっと自分の好みではないからか、残念ながら印象に残った話が怪談にも掌篇小説にも無かったですね。
怪談のほうは、タイトルだけは秀逸なので、読んでみて、なあんだ、それだけのことか、となってしまうことが多かったです。
以下は簡単に各作品に一言↓
一本多い手の話
生き霊を飛ばされた男のシンプルな話です。
二階で縫い物をしていた祖母の話
これも生き霊のシンプルな話です。
こっちこいこっちこいの板の話
山小屋で金縛りに会うシンプルな話。
この作品も含めて、どうも秀逸なタイトルを付けて、かなりシンプルな話を綴っていく作品のようですね。
トンネルで振り返ったミチオの話
トンネルに何が現れたのか、全くわからないのに、イヤーな読後感を与えるなかなかいい話です。
盆踊りに郷ひろみが来た話
何のことはない、不思議な夢の話です。
手に映ったサムライの顔の話
幽霊ご出る家の話ですが、怖いというよりもファンタジックな雰囲気があります。
何度も雪の中に埋めた死体の話
山小屋の怪談。超自然現象なのか、そうではないのか、ファンタジックな結末です。
夜になるとやってくる小人の話
坊主の小人が登場するファンタジックな怪談です。
ちょうちんが割れた話
お盆に、死んだ家族の気配が感じられるという話です。
走ってゆく足跡の話
目には見えないものの、雪を踏む足跡だけが見える、という、山の不思議な怪談です。
おいでおいでの手と人形の話
タイトル通り、襖から右腕だけ、もしくは外国製の青い目の人形が現れる、という話です。
おとうさんの“おい、こら”の話
金縛りになっている間、不思議な音が聞こえていた少女が、死んだお父さんの一喝が聞こえた途端に不思議な音が消えた、という、ちょっといい話です。
続・何度も雪の中に埋めた死体の話
「何度も雪の中に埋めた死体の話」で、「ぼくが、いったいいつどこでしこんだのかという記憶がまったくない」と筆者が書いていたが、読者からの手紙で、その答えがわかった、という話です。
二階のお客さんに出す食事の話
タイトル通り、だれも訪ねて来ていないのに、客が来たと、二階の自室に食事を運ぶ女性の話です。
心の病か、幽霊か、結果的にわからないところが、妙に気味悪い話になっています。
二ねん三くみの夜のブランコの話
夢枕獏氏が学生時代に、宿直のバイトをしていた学校の怪談ですが、夢枕獏氏自身の体験談ではありません。
シジミ成仏の話
これは、怖い話ではなく不思議な話。スピリチュアル感もある、ためになる話です。
夜になるとやってくる男の話
デートで夜の墓場に行った女性が、憑かれる話です。謎が解けて終わりますが、そのせいか、怖さは半減します。
手で歩いてきた女の子の話
タイトルは電車に轢かれた女の子、という意味です。こんなこと、本当なのかな、という感じ。
階段の暗がりから睨んでいたばあちゃんの話
肉親の幽霊の話は、大概、心暖まる話ですが、これは怖ろしい話です。
眼に見えない生き物の話
「奇譚草子」の最終話としては、だいぶ弱い話ですが、なんとなく、この後に夢枕獏氏が書くことになる『陰陽師』の予告編的な内容ともいえます。
↑ここまでが「奇譚草子」
逆さ悟空
指一本くらいの大きさの孫悟空が登場する、可愛くて不思議な話です。
おくりもの
ショート・ショート、というよりは、シャンソンの歌詞のような、そんな、愛の言葉です。
暗い優しいあな
これは、ストーリーよりもイメージ重視の一編。一応、少年の性の目覚めを書いているのでしょうか。
せつなくん
刹那、という観念を文章化したもの。物語、というものではないですね。
異形戦士
お釈迦様の、修業に出るちょっと前の出来事を書いた、ショート・ショートというよりは仏教説話。
輪廻譚
お釈迦様が、旅の途中で出会った生まれ変わりの不思議話です。これは仏教説話ではなく美しい詩のような一編です。
ヒトニタケ
山岳ミステリー+怪奇ミステリー、といった感じの、ショート・ショートらしいショート・ショートです。
ふりんのみち
先に収録された「おくりもの」同じタイプで、死の直前の瞬間を、独白スタイルで描いています。
ふたりの雪
これも、独白スタイルで描かれているので、てっきり、最後に誰かが死ぬのかと思っていたら、結局、誰も死なない。そういう意味では意外な結末。まあ、死の予感的なものは、あるといえばある。その程度です。
- 感想投稿日 : 2020年3月23日
- 読了日 : 2020年3月23日
- 本棚登録日 : 2020年3月23日
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