【概略】
「なにかあったら浅見さんを頼るのだよ」という言葉を中学生の愛娘に残し、カメラマン浦本智文は一路、大分県へ。そして帰らぬ人となった。その舞台は大分県の姫島。浅見光彦は、浦本より生前、やはり姫島で起こった島民の死亡事件を調べるよう提案を受けていた。悔恨の想いを胸に抱き、浅見光彦は再び姫島へ。イザナギとイザナミが12番目に創ったとされる神話の地・姫島で、巨大な陰謀渦巻く事件に、浅見光彦は立ち向かう。
2024年10月29日 読了
【書評】
読了した直後、「ふぅ」というため息がでた。純文学を読み込んでいない自分だから、その感性が正しいものかはわからないけれど、推理小説を読んでいるよりは文学作品に触れているような、そんな感覚に襲われた。
それの情感を醸すことに成功したのは、(推理小説だからネタバレしないように 笑)須藤隆という登場人物と主人公・浅見光彦の「正義とは?」という見えない命題を下敷きにしたやりとりから結末に辿り着く導線がそうさせたのだと思う。純粋な、しかしその純粋さに未成熟さを感じている浅見光彦に対して、現実の全てが漂泊されたものではなく、その泥の中から純粋で無垢な何かを掴み取ろうとした須藤隆の問答が、いいのですよ。浅見光彦が、たじろぐ・・・という表現が適切かはわからないけれど、「うん?そうだよな、たしかに」という空気感に包まれる瞬間があったりする。悩むのですよ、浅見光彦が。
そして浦本智文というキャラクターもまた、味を出していて。正義を振りかざすのですよね。たとえば基地問題であったり例えば環境問題であったり。その正義が浅見光彦には少し辛かったりして。現実の世界でも、右だろうが左だろうが、自身の正義を押し進めるために犠牲になっていく、または口を閉ざしていく者達がいて。でも作中、浦本智文は、ただただ自身の正義を押し付けるだけの顔を見せるのではなく、市井の人達が持ちうる普通の顔ももっていて。大きな主語であったり、組織や集団というマスの視点から見える「色」と、もう少しズームアップして個々の部分にフォーカスを当てると見えてくる「色」が違うこと、あるよね。暴走族という存在に対しては毛嫌いするけれど、その中の一人に触れてみると、案外といい子だった、みたいな。浦本が大きく振りかざした正義とそれに伴う行動と、そうではない日常の浦本という部分の対比が、単なる謎解き小説という作品ではなくなっている要因にもなったと思うなぁ。
やはり登場人物のキャラクターが立ってたり、また心情が彩り豊かに描かれている物語は、感情移入にブーストかかるね。
- 感想投稿日 : 2024年10月30日
- 読了日 : 2024年10月29日
- 本棚登録日 : 2024年10月30日
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