倫理学 2 (岩波文庫 青 144-10)

  • 岩波書店 (2007年2月16日発売)
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 なぜ、和辻哲郎なのか。どうして「倫理学」なのか。和辻が近代日本で「最も包括的な哲学体系を築き上げた」(苅部直)思想家であり、『倫理学』は「日本人としての能力の極限を示す」(金子武蔵)作品だからである。
 文庫版では4分冊(既刊2冊)となる『倫理学』は上中下3巻として出版された。上巻は1937年、中巻は42年、下巻は49年と終戦をはさんでいるが、グローバル化が進み、国家の枠組みが問われている今こそ、この書を読み直す意義があると思われるのである。
 和辻倫理学の最大の特色は、倫理学が人間学であるという点にある。デカルト以来西洋哲学の核心にあった個人主義的人間観を厳しく批判。「倫理学を『人間』の学として規定しようとする試みの第一の意義は、倫理を単に個人意識の問題とする近世の誤謬から脱却すること」(序論)だからである。
 人間とは個性と社会性という二重の性格を有し、この両者を「弁証法的に統一した存在」である。人間の存在とは人と人との「間柄」にあり、間柄は時間性と空間性によって段階的に分けられ、夫婦、家族、地縁共同体、国家と拡大する。中でも国家は最高の「人倫的組織」である。
 このように和辻倫理学は展開されていくが、哲学書にありがちな抽象論ではなく、あくまでも日常的な事実によって説明しながら論を進めているところに大きな特徴がある。
 国家主義への傾斜など和辻批判には根強いものがある。しかし、内外の学者による『甦る和辻哲郎』(ナカニシヤ出版)を読めば、和辻の作品が世界的にも先駆的なものであったこと、アジアの近代化を考える場合に有益であることにも気付かされる。
 文庫版の各巻には、熊野純彦東大助教授による渾身(こんしん)の解説が付けられている。和辻との格闘の跡が生々しいまでに感じられ、「解説」のあるべき姿を示しているように思う。
 ◇わつじ・てつろう=1889〜1960年。元東大教授。主著に『古寺巡礼』『風土』など。
評・橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

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カテゴリ: 哲学関係
感想投稿日 : 2007年3月12日
本棚登録日 : 2007年3月12日

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