むらさきの女とは「ある特定の個人」を指す言葉ではなく、「ある立場の人間」を指す言葉なのではないか。
読後に私はそう感じずにはいられませんでした。
出てくる人出てくる人、自分のことしか考えていない。それが妙にリアルで、「ああ、現実ってこんな感じだよな」と思う。それは些細な情報から尾ひれをつけた噂だったり、自分の立場を守るための言い訳だったり、自分の興味・怖い物見たさを満たすための自己満足のためだったりするけれど、現実社会の人間というものをこんなに鮮明に見せることが出来るのか、と驚きました。
表紙のイラストがむらさきのスカートではないところも少し気になるポイントで、このスカートなのか、一枚の布なのか、なんなのかわからないドット模様の下から、二本の足が生えている。それがどうにも不気味で、いろいろなことを想像させて来ます。たとえば二人羽織だったり、一つの体の中に同居する二人だったり、舞台がホテルであることを加味すれば、派手なシーツに見えなくもないですが、それは想像が過ぎるでしょうか。
背表紙のイラストは黒いリンゴ。ぽっと色のついた箇所が二か所あって、片方は赤、片方は紫のように見えます。リンゴと聞いて浮かぶものは原罪。それに物語の中で出てきた、ゲスト用のリンゴです。
話自体にまったく新しいという感じはありませんでしたが、そこから想像が膨らむ倍率というのか、膨らむ広さが強い作品だと感じました。
あと、これは読む前に少し聞いた前情報ですが、むらさきのスカートの女を描写している「きいろいカーディガンの女」の存在も際立っていますよね。
この人を中心に考えようとするなら、「あっ、きいろいカーディガンの女だ!」のくだりは妄想と自己顕示欲が混ざり合った、彼女の本心が垣間見えた瞬間と言えなくもないですよね。
不思議で面白い本でした。
また時間を置いて再読してみたいです。
- 感想投稿日 : 2020年10月21日
- 読了日 : 2020年10月21日
- 本棚登録日 : 2020年10月21日
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