幻夜 (集英社文庫)

3.80
  • (1457)
  • (2227)
  • (2059)
  • (253)
  • (42)
本棚登録 : 16451
レビュー : 1300
著者 :
きのPさん 小説   読み終わった 

【感想】
東野圭吾の数ある作品の中で、「悪女ランキング」がもしあるとすれば、ダントツで「新海美冬」を自分は推すと思う。
もちろん「白夜行」の西原雪穂も同じレベルだが、、、桐原亮二が完全合意の元でのパートナーであった点を汲めば、やはりトップは新海美冬だろう。
(もっとも、作中で明言はされていないが、西原雪穂と新海美冬は同一人物だと個人的には思った)
それくらい色んな男を振り回す、抜群の悪女っぷりだった。絶対かかわりたくないわ・・・・

入念な準備の元で周囲の人間を巻き込み、各々の弱みをしっかりと押さえ、己の目的のためには一切の手段を選ばず、そしてすべて自分の思い通りに操作してしまう。
本作品は新海美冬に思いのままに翻弄された人間たちが鮮明に描かれていた。

白夜行同様、新海美冬目線での物語の展開は作中で一切描かれておらず、そのあたりが彼女の冷酷さを更に際立たせていたなぁ。
台詞や動きの描写は勿論沢山あったが、全部が全部彼女の本性じゃないんだろうなと思うと、本当に底知れない非道さを読んでいて感じた。

非常に面白かったが、個人的にはやっぱり「白夜行」のほうが好きかな。


【あらすじ】
阪神淡路大震災の混乱のなかで、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃した女。
二人は手を組み、東京へ出る。
女を愛しているがゆえに、彼女の暗示のまま、悪事に手を染めてゆく男。
やがて成功を極めた女の、思いもかけない真の姿が浮かびあがってくる。
彼女はいったい何者なのか?!

名作「白夜行」の興奮がよみがえる傑作長編。


【引用】
1.美冬の行動を見るたびに、雅也は得体の知れない不安を抱いてしまう。彼女が何のためにそこまでするのか、彼女がどこへ行き着こうとしているのか、それがまるで見えてこない。

2.「ねえ、昼間の道を歩こうと思たらあかんよ」美冬がいった。深刻な口調だった。
「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない」

3.「ええ歳して、結婚に理想を求めてどうするの。結婚はね、人生を変える手段なんよ。世の中で苦労してる女を見てみ。みんな旦那選びをしくじってる」
「あたしが本当に好きなのは雅也だけ。雅也もあたしのことを愛してくれてる。そうやろ?」
頷く彼を見て続けた。
「あたしらには結婚なんていう形式は必要ない。そんなものより、もっと強い絆で結ばれてる。あたしにとって雅也はこの世で信用できる唯一の同志。ただし二人の関係は誰にも知られないようにする」
「美冬は二人の幸せについて考えたことはないんか?こんなふうにこそこそ隠れて会わんでもええ生活、贅沢はでけへんかもしれんけどいつでも一緒にいて穏やかに過ごして行く生活、というのに憧れることはないんか?」
「残念やけど雅也、それは幻想やで」

4.新海美冬はとんでもない女だ。自分の目的のためならば、誰であろうとも容赦しない。誰が不幸になろうとも一向に構わないという考えの持ち主だ。
浜中と曽我、どちらも新海美冬の過去に触れようとした。そして結局、彼女の前からは姿を消すことになった。
今度は俺がストーカーになるしかないかな。
夜の闇に向かって加藤は笑いかけた。

5.彼女は打ちひしがれた姿を見せながら、その内側で綿密な計画を立てていた。
計画の一つは、震災を利用して完全なる別人になりすます、ということだ。

あれが彼女の新海美冬としてのスタートだった。あの時からやり直しのきかない、命がけのストーリーが始まったのだ。
しかし彼女はそのストーリーを一人だけで作り上げようとは思わなかった。彼女は自分の遠大なる野望を実現するためにはパートナーが必要だと考えた。
計画の二番目、それは信用できるパートナー、彼女のために命を捨てられる人間を作ることだった。


【メモ】
p32
なぜあんなことをしてしまったのか。俊郎のことを憎いとは思っていたが、殺すことなど考えたこともない。
下敷きになっている俊郎を見て、死んでいると思った。上着からはみ出ている茶封筒を見て、これで借金の件は助かったと思った。

ところが俊郎が目を開けた。叔父は死んでいなかった。雅也の頭の中で混乱が起き、それは次にパニックとなった。何も考えずに瓦を手にし、振り下ろしていた。

新海美冬は、あの瞬間を目撃したのだろうか?俺が俊郎を殺すところを、あの女は見たのか?


p94
例のビデオテープについて、雅也はまだ何も訊いていない。訊くのが怖いからだ。彼女は全てを知っている。知っていて、彼を助けてくれた。
それはなぜなのか?
暴行されそうになったのを助けたからか?それもあるかもしれない。ただそれだけとは思えなかった。
いや、そもそもなぜ彼女は佐貴子たちよりも先にテープを入手できたのか?


p257
しかし美冬の行動を見るたびに、雅也は得体の知れない不安を抱いてしまう。彼女が何のためにそこまでするのか、彼女がどこへ行き着こうとしているのか、それがまるで見えてこない。

美冬の項(うなじ)にある、二つ並んだ黒子のことを彼は考えた。フクタ工業の職人だった安浦は、おかしな女に引っかかって職を失った。唯一彼が覚えている特徴は、項に二つの黒子があることだという。
まさか、と思う。しかし彼女ならやりかねない。


p269
「雅也」彼が黙っていると美冬が言った。「都合のええ方法なんかはないよ」
「えっ・・・」
「嫌なことを避けて、道を拓くのは無理や」


「ねえ、昼間の道を歩こうと思たらあかんよ」美冬がいった。深刻な口調だった。
「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない」


p307
久しぶりに店にやってきた水原雅也を見て、有子はぎょっとした。すぐに彼だと気づかなかったぐらいだ。それほど変わり果てていた。
「たまにしか会えへん有子ちゃんのほうが、俺のこと心配してくれる。変なもんやな」


p311
「関西に帰ったりもしないの?昔の友達に会うとか」
雅也はふっと笑った。
「帰ろうにも家がない。友達とは・・・もう何年も連絡をとってへんな。みんなどうしてるのかなぁ」
一瞬遠い目をした彼の顔を見て、この人は本当は帰りたいのではないかと有子は思った。しかし、何か事情があって帰れないのではないか?


p357
「ええ歳して、結婚に理想を求めてどうするの。結婚はね、人生を変える手段なんよ。世の中で苦労してる女を見てみ。みんな旦那選びをしくじってる」

「あたしが本当に好きなのは雅也だけ。雅也もあたしのことを愛してくれてる。そうやろ?」
頷く彼を見て続けた。
「あたしらには結婚なんていう形式は必要ない。そんなものより、もっと強い絆で結ばれてる。あたしにとって雅也はこの世で信用できる唯一の同志。ただし二人の関係は誰にも知られないようにする」

「美冬は二人の幸せについて考えたことはないんか?こんなふうにこそこそ隠れて会わんでもええ生活、贅沢はでけへんかもしれんけどいつでも一緒にいて穏やかに過ごして行く生活、というのに憧れることはないんか?」
「残念やけど雅也、それは幻想やで」


p453
「ねえ浜中さん。あんた、もう手を引いたほうがいいよ」加藤が静かに言った。
「あの女はおたくには手に負えないと言ってるんですよ。下手にいつまでも絡んでると、痛い目を見るのは多分おたくのほうですよ」
「私はこのままじゃ引き下がれない。生活のすべてを奪われたのも、元はといえばあの女のせいなんだ。しかも指輪のデザインまで盗まれて・・・黙って引っ込むなんてできません。何としてでもあの女に仕返しをしないことには気が済まないんです」


p460
新海美冬はとんでもない女だ。自分の目的のためならば、誰であろうとも容赦しない。誰が不幸になろうとも一向に構わないという考えの持ち主だ。

気になるのは、浜中が美冬の故郷を訪ねたという話だ。その時に彼女は怒ったという。そしてその後で事件が起きている。
はたから見れば滑稽だが、浜中の行動は理解できなくもない。だがそれが美冬にとっては忌わしいことだったのではないか?

浜中と曽我、どちらも新海美冬の過去に触れようとした。そして結局、彼女の前からは姿を消すことになった。
今度は俺がストーカーになるしかないかな。
夜の闇に向かって加藤は笑いかけた。


p646
彼女は打ちひしがれた姿を見せながら、その内側で綿密な計画を立てていた。
計画の一つは、震災を利用して完全なる別人になりすます、ということだ。
(中略)
あれが彼女の新海美冬としてのスタートだった。あの時からやり直しのきかない、命がけのストーリーが始まったのだ。
しかし彼女はそのストーリーを一人だけで作り上げようとは思わなかった。彼女は自分の遠大なる野望を実現するためにはパートナーが必要だと考えた。
計画の二番目、それは信用できるパートナー、彼女のために命を捨てられる人間を作ることだった。

レビュー投稿日
2019年8月19日
読了日
2019年8月19日
本棚登録日
2019年8月19日
10
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『幻夜 (集英社文庫)』のレビューをもっとみる

『幻夜 (集英社文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

いいね!してくれた人

ツイートする