模倣犯 (1) (新潮文庫)

  • 新潮社 (2005年11月27日発売)
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感想 : 760
5

【感想】
多くの方に薦められていたものの、中々手出ししなかった宮部みゆきの代表作「模倣犯」にようやく着手。
これまで「火車」「レベル7」等、色々と宮部みゆきの作品を読了したが、読み終わってみて本作「模倣犯」が宮部みゆきの作品の中で1番と評される理由が物凄く分かった気がする。
(とは言っても、まだ5巻中1巻を読み終えたにすぎないが・・・笑)

勿論、宮部みゆきの作品にはハズレがないというのは大前提として、、、
ジャンルとしてミステリアスな作品が多いにも関わらず、宮部みゆき著の他作品にはどこか「おふざけ」というかユーモラスな台詞であったり箇所が多く存在している。
だから、ある程度は朗らかに読めて息抜きの出来る、どこか滑稽なシーンも多いのが宮部みゆきスタイルだと思っていた。
しかし、本作品「模倣犯」はそういった「ユーモラスさ」が今のところ殆ど見受けられない。
読み進めていて心に響くのは、絶望感と恐怖だけだ。
同作家の作品とは思えないほどに、見事に他作品と一線を画し、かつ異彩を放つ作品だと読んでいて肌で感じた。

本作品は、残虐な連続誘拐殺人がテーマである。
被害者の心情の移り変わりやや事件解決に手間取る警察の焦燥感、そしてコイツは愉快犯なのか?と疑うくらいの犯人の人物像とその手口。
勿論、この事件と(現時点では)直接関係のない登場人物も多く出てはいるが、この本を通して共通して言えるのは「世の中には自分や世間の価値観とこうも異なる人間が一定数は存在する」という事実である。
フィクションではあると充分承知の上で尚、この世の中は本当に何を考えているか分からない人が多くて怖いなと改めて実感し、戦慄したなぁ・・・・

また、5巻中の1巻と思えないくらいに次々と急展開していく話の構成には、読んでいて鳥肌が立つ。
・冒頭、公園のゴミ箱から切断された腕が発見されたシーン。
・TV番組での犯人との2回目の通話時に、「こいつ、人が変わっていないか?」と武上が気づくシーン。
・巻末畳みかけるようなストーリーのスピードの中で、ガラっと急展開するような、容疑者2人の遺体発見シーンなどなど・・・
中でも特に、個人的に衝撃が走ったのは、やはり古川鞠子の遺体発見シーンだ。
何の進捗もなく膠着状態が続き、1週間という時間がただただ流れていったような描写からの「古川鞠子の遺体が出た。」の一文。ある程度覚悟していた状況ではあったが、本当にゾっとした。。。

というわけで、寝る間も惜しんで読み終えた1巻目だったが、個人的に消化不良の気が強い。
回収されていない伏線だらけだし、そもそもまだまだ明かされていない謎が多いし、1巻の呆気ない終わり方が故に続きがとても気になる!!
そして、宮部みゆきならではの、「凝ったタイトルに対する伏線回収」がまだされていないではないか!!
1巻を読んだ限りでは、タイトルである「模倣犯」の理由すら分からない。それが1番の消化不良の原因だ。

とにかく、すぐにでも続きを読みたい!!!!


【あらすじ】
墨田区・大川公園で若い女性の右腕とハンドバッグが発見された。
やがてバッグの持主は、三ヵ月前に失踪した古川鞠子と判明するが、「犯人」は「右腕は鞠子のものじゃない」という電話をテレビ局にかけたうえ、鞠子の祖父・有馬義男にも接触をはかった。
ほどなく鞠子は白骨死体となって見つかった――。

未曾有の連続誘拐殺人事件を重層的に描いた現代ミステリの金字塔、いよいよ開幕!



【内容抜粋】
1.思わず顔をしかめた真一は、キングの強い顎に噛みしめられ、紙袋から引っぱり出されたものの正体を、まともに目にした。
人間の手だった。肘から下。指先が真一の方を向いていた。こちらを指さし、差し招くかのように。訴えかけるかのように。

2.武上をデスクとして有能たらしめている所以は、実はこの記憶力にもあった。
映像的というより、どちらかといえば活字的な記憶力ではあったが、多くの事象が彼の頭の中にコンパクトにたたまれて収納されており、彼はそれらを一瞬で引き出すことができる。
誰かが質問に来ることも多いが、武上はすぐに答える。そして堆く(うずたかく)積み重なっているファイルの中から目的の調書を取り出し、相手の目当ての言葉が述べられているページをすぐに開いて差し出す。
相手が驚きつつそのファイルのページをめくり始める頃には、武上はもう次の仕事にかかっている。

3.それから一週間後のことである。
進展のないままの一週間、すべてが水面下の一週間、膠着状態でありながら瞬く間の一週間、(中略)
マスコミ方面においても、犯人が再び有馬家に電話してきたという事実の衝撃もいくらか薄らいだその一週間の後ーー
古川鞠子の遺体が出た。

4.この世に満ち溢れているのは、みんな犠牲者ばっかりだ。真一は考えた。それならば、本当に闘うべき「敵」は、一体どこにいるのだろう。

5.ふたりのやりとりを聞いていて、唐突に、ふと寒気が走るような感覚と共に、武上は思いついた。
こいつ、人が変わっていないか?
こねている理屈に変化はない。事件関係者やマスコミに対する斜(はす)に構えた姿勢も同じだ。そして同じきいきい声だ。言葉遣いも変わっちゃいない。
だがしかし、何かが違う。微妙だけれど、決定的に違うような気がする。コマーシャルに邪魔されたことで怒って電話を切った人物と、今ここで評論家とやりあっている人物が同一人物だとは、武上には思えないのだ。

今までの奴は、余裕たっぷりの様子をつくろいながらも、いつだって自分かま一番熱くなってしまっていた。確かに頭は悪くないが、ちょっとしたことですぐカッとなり、言葉遣いも乱れた。
しかし、このきいきい声の主は違う。今までの奴よりもずっとーーそう、ずっと「大人」だ。

6.犯罪者に限らず、ある種の事件を起こし易いタイプの人間をして事件の方向へ向かわしめるのは、激情でも我執でも金銭欲でもない。「英雄願望」だ。
酔っ払って喧嘩の挙句他人を殴り殺してしまうのも、銃器を手に強盗に入った先で必要もなく人質を撃ち殺してしまうのも、(中略)すべては英雄願望のためだ。
自分は英雄だ、ほかの連中とは違う、俺は英雄なのだ、きっとそうなのだ、その俺様に向かって注意をするとは何事だ、盾突くのは生意気だーー。



【引用】
模倣犯

呆気ない終わり方が故に、つづきがとてもきになる!!
タイトルは??




p19
思わず顔をしかめた真一は、キングの強い顎に噛みしめられ、紙袋から引っぱり出されたものの正体を、まともに目にした。
人間の手だった。肘から下。指先が真一の方を向いていた。こちらを指さし、差し招くかのように。訴えかけるかのように。

キングの飼い主が、早朝の空気を切り裂くような鋭い悲鳴をあげ始めた。棒立ちになったまま、真一は反射的に手をあげ、耳を覆った。
これと同じような出来事が、ほんの一年ほど前にもあった。
同じことがまた繰り返される。悲鳴と、血と、そしてただ呆然と佇むだけの俺と。


p149
武上をデスクとして有能たらしめている所以は、実はこの記憶力にもあった。
映像的というより、どちらかといえば活字的な記憶力ではあったが、多くの事象が彼の頭の中にコンパクトにたたまれて収納されており、彼はそれらを一瞬で引き出すことができる。
誰かが質問に来ることも多いが、武上はすぐに答える。そして堆く(うずたかく)積み重なっているファイルの中から目的の調書を取り出し、相手の目当ての言葉が述べられているページをすぐに開いて差し出す。
相手が驚きつつそのファイルのページをめくり始める頃には、武上はもう次の仕事にかかっている。


p177
数年前に幼女連続誘拐殺人事件が起こったとき、「そうか、ついに日本でもこういう事件が起こるようになったか」と社会は悟った。
そういう社会の身構えるような雰囲気に呼応して、またそういう空気があるからこそ、この手の犯罪者が出て来るのではないかと武上は思う。
誤解を恐れずに言うならば、犯罪もまた「社会が求めている」形でしか起こり得ないものだからだ。


p362
「あの女の子は」塚田真一は話し始めた。
「樋口めぐみっていいます。本当は高校二年生なんだけど、今は学校をやめてる。やめざるを得なかったんだって」
「樋口秀幸はね、僕の親父と、おふくろと、妹を殺した犯人なんです。めぐみはそいつのひとり娘なんですよ」

樋口秀幸は、社員たちの信頼を集めていた。それなのに会社を倒産させてしまい、自分を頼っていた彼らとその家族を路頭に迷わせてしまったことに、痛切な責任を感じていた。
銀行も公共の金融機関も、むろん樋口にはにこりともしてくれない。景気も傾いてゆく一方だ。
時代の大津波にあっという間に財産を飲み込まれた樋口は、失ったものを一度に、手っ取り早く取り返そうとしたのだ。


p433
それから一週間後のことである。
進展のないままの一週間、すべてが水面下の一週間、膠着状態でありながら瞬く間の一週間、(中略)
マスコミ方面においても、犯人が再び有馬家に電話してきたという事実の衝撃もいくらか薄らいだその一週間の後ーー
古川鞠子の遺体が出た。


p459
ふと、真一は考えた。この事件の犯人、いつかは捕まるのだろうか。
捕まってほしい。でも捕まったときには、きっとまた、こいつをかばう人たちが登場するのだろう。犯人もまた、社会の犠牲者だと。それに反論する声は、小さくてか細くてかき消されてしまう。
この世に満ち溢れているのは、みんな犠牲者ばっかりだ。真一は考えた。それならば、本当に闘うべき「敵」は、一体どこにいるのだろう。


p517
ふたりのやりとりを聞いていて、唐突に、ふと寒気が走るような感覚と共に、武上は思いついた。
こいつ、人が変わっていないか?

こねている理屈に変化はない。事件関係者やマスコミに対する斜(はす)に構えた姿勢も同じだ。そして同じきいきい声だ。言葉遣いも変わっちゃいない。
だがしかし、何かが違う。微妙だけれど、決定的に違うような気がする。コマーシャルに邪魔されたことで怒って電話を切った人物と、今ここで評論家とやりあっている人物が同一人物だとは、武上には思えないのだ。


p521
「Tさん、本当によろしいんですか?」
田川はまた座ってしまう。それでもたけがみには、彼がきいきい声の言った「一部分でも英雄になった方が」という言葉に引きずられつつあることが手に取るように判った。

犯罪者に限らず、ある種の事件を起こし易いタイプの人間をして事件の方向へ向かわしめるのは、激情でも我執でも金銭欲でもない。英雄願望だ。
酔っ払って喧嘩の挙句他人を殴り殺してしまうのも、銃器を手に強盗に入った先で必要もなく人質を撃ち殺してしまうのも、(中略)すべては英雄願望のためだ。
自分は英雄だ、ほかの連中とは違う、俺は英雄なのだ、きっとそうなのだ、その俺様に向かって注意をするとは何事だ、盾突くのは生意気だーー。


p522
今までの奴は、余裕たっぷりの様子をつくろいながらも、いつだって自分かま一番熱くなってしまっていた。確かに頭は悪くないが、ちょっとしたことですぐカッとなり、言葉遣いも乱れた。
しかし、このきいきい声の主は違う。今までの奴よりもずっとーーそう、ずっと「大人」だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年7月10日
読了日 : 2019年7月10日
本棚登録日 : 2019年7月10日

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