模倣犯2 (新潮文庫)

3.82
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本棚登録 : 5646
レビュー : 292
著者 :
きのPさん 小説   読み終わった 

【感想】
1巻に引き続き、寝る間も惜しんで読み入ってしまうくらい夢中になりました。

物語自体の進捗は小休止気味で、1巻ラストに遺体となって発見された栗橋浩美と高井和明のエピソードがメイン。
2巻の冒頭、「栗橋浩美が初めて人を殺したのは、彼の満十歳の誕生日のことだった。」という一文で、一瞬で引き込まれた。
(結局、この10歳の時に何があったのか、まだハッキリとした記述はない。ただ、おそらく・・・・)

栗橋博美の猟奇性と自家中毒という一種の病気について、また高井和明の朴訥というか不器用な様子について。
様々なエピソードを交えながら2人を主人公として物語は描かれている。
何故あのような事件に発展したのか?という謎に対する回答は3巻の感想に書くとして、、、
この2人の青年の最期を知っているだけに、読んでいて悲しい気持ちになった。

伏線回収に徹した1冊ではあったが、読んでいて本当に面白かったです。
ただ、まだまだ作中に謎が多く潜んでいる。早く続きが読みたい。


【あらすじ】
鞠子の遺体が発見されたのは、「犯人」がHBSテレビに通報したからだった。
自らの犯行を誇るような異常な手口に、日本国中は騒然とする。
墨東署では合同特捜本部を設置し、前科者リストを洗っていた。
一方、ルポライターの前畑滋子は、右腕の第一発見者であり、家族を惨殺された過去を負う高校生・塚田真一を追い掛けはじめた――。
事件は周囲の者たちを巻込みながら暗転していく。


【内容抜粋】
1.栗橋浩美が初めて人を殺したのは、彼の満十歳の誕生日のことだった。
そのときも「ピース」がそばにいた。ピースが彼に、人殺しのやり方を教えてくれたのだ。

2.これは初めてのことではなかった。栗橋浩美には、こういう趣味があった。
近寄ってくる女の前で、その女が夢想するタイプの理想のエリートを演じてみせ、夢が叶って悦びにひたる女を観察して、密かに大笑いをする・・・という趣味が。
大抵の場合、彼は実にうまく女を騙した。
彼の手練手管にはまってしまうと、女は自身はそれも知らないうちに彼の共犯者となり、自分で自分を騙し始め、そうして夢を紡ぎ始める。
栗原浩美はそれを微笑ましく眺め、時には女の夢を補強してやりながら、機が熟すのを待つ。
女の夢が、充分に壊し甲斐のあるくらいまで強固になるその時を。

3.栗橋浩美自身が、岸田明美が彼に向かって投影している幻想に惑溺(わくでき)し、その幻想に染まりつつあるということだった。彼自身がその気になってきてしまっているのだ。
自分で自分を、一色証券の有能な社員であると、社会の有益な構成員だと、「エリート」だと思いこみつつあるのだ。これは立派な自家中毒だった。
そして、多くの自家中毒患者がそうであるように、栗橋浩美もまだ、自分がそういう状況に陥りつつあることに気付いていなかった。

4.むらむらと、岸田明美は腹を立てた。しかしその立腹は栗橋浩美に向けられてのものではなく、ほかの女の持ち物である男に図々しく寄りついてくる田舎娘への立腹だった。
「早く行きましょう。寒いわ」
栗橋浩美の腕に腕をからめて、女店員から引き離した。対抗心でいっぱいになった心からは、里心も、栗橋浩美への不満も、一時的に消え失せていた。

最後の退路は断たれた。この瞬間に、岸田明美の運命は決まった。あとは、セットされた時限爆弾が爆発するのを待つだけだ。


【引用】
p7
・冒頭の一文
栗橋浩美が初めて人を殺したのは、彼の満十歳の誕生日のことだった。
そのときも「ピース」がそばにいた。ピースが彼に、人殺しのやり方を教えてくれたのだ。


p114
文子はまた、和明と栗橋のあいだには、まだまだたくさんの語られざる真実、秘密の出来事、内緒のつながりがあるんだと、母親の直感で感じた。文子の問いに対する和明の答の余白の部分に、文子には読めない文字で書かれた物語があるのだと。
(だけど・・・)
あの子だってもう赤ん坊じゃない。お尻を叩いて白状させるわけにはいかない。これ以上はもう、自然に打ち明けてくれるまで、様子を見るしか手はないんだ。

そのとき、そんな穏便な道を選んだことを、中学二年生の二学期の我が子・高井和明をつかまえて、叩いて揺すぶって攻め立ててでも真実を吐かせなかったことを、15年後に激しく後悔することになるなど、文子にはまだ想像もつかなかった。


p159
これは初めてのことではなかった。栗橋浩美には、こういう趣味があった。
近寄ってくる女の前で、その女が夢想するタイプの理想のエリートを演じてみせ、夢が叶って悦びにひたる女を観察して、密かに大笑いをする・・・という趣味が。

彼にあるのは、笑いたいという欲求だった。
彼を好みの「エリート」だと勘違いして寄ってくる女たちの、その野放図でお人好しな幸せ気分を、腹の底で笑って笑って笑い倒してやりたいという欲求だった。

大抵の場合、彼は実にうまく女を騙した。
彼の手練手管にはまってしまうと、女は自身はそれも知らないうちに彼の共犯者となり、自分で自分を騙し始め、そうして夢を紡ぎ始める。
栗原浩美はそれを微笑ましく眺め、時には女の夢を補強してやりながら、機が熟すのを待つ。
女の夢が、充分に壊し甲斐のあるくらいまで強固になるその時を。


p168
激怒の発作は、来たときと同じように唐突に去った。こういうことが、最近はよくある。
自分でも何に向かって怒っているのか判らないまま、瞬間的に怒り狂っては冷めるのだ。

そして、「最近よくあること」はこれだけではなかった。明美から電話をもらった途端、鉢植えの件も、カズからたかりとらない限り金欠状態であることもケロリと忘れ、いそいそと彼女を迎えに来てしまった。こういうことこそ、激怒の発作よりもより頻繁に起こっていた。

それはつまり、栗橋浩美自身が、岸田明美が彼に向かって投影している幻想に惑溺(わくでき)し、その幻想に染まりつつあるということだった。彼自身がその気になってきてしまっているのだ。
自分で自分を、一色証券の有能な社員であると、社会の有益な構成員だと、「エリート」だと思いこみつつあるのだ。これは立派な自家中毒だった。
そして、多くの自家中毒患者がそうであるように、栗橋浩美もまだ、自分がそういう状況に陥りつつあることに気付いていなかった。


p198
うんざりだと、岸田明美は思った。
ヒロミにこんなふうに脅かされ、苛められ、虐げられて、なんで我慢しなくちゃならない?あてがはずれた。あんな男だと思ってなかった。なんてしつこいの。なんて話がくどいの。
あたしには、もっと優しくしてくれて、あたしのことお姫さまみたいに大事にしてくれて、敬ってくれる男がほかにもいっぱいいるんだから!
霞んだ鏡に向かって、明美はにこっと笑ってみせた。自信を取り戻しなさい、明美。

(中略)

むらむらと、岸田明美は腹を立てた。しかしその立腹は栗橋浩美に向けられてのものではなく、ほかの女の持ち物である男に図々しく寄りついてくる田舎娘への立腹だった。
「早く行きましょう。寒いわ」
栗橋浩美の腕に腕をからめて、女店員から引き離した。対抗心でいっぱいになった心からは、里心も、栗橋浩美への不満も、一時的に消え失せていた。

最後の退路は断たれた。この瞬間に、岸田明美の運命は決まった。あとは、セットされた時限爆弾が爆発するのを待つだけだ。

レビュー投稿日
2019年7月16日
読了日
2019年7月16日
本棚登録日
2019年7月16日
3
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