模倣犯(五) (新潮文庫)

3.95
  • (682)
  • (673)
  • (676)
  • (37)
  • (11)
本棚登録 : 5193
レビュー : 420
著者 :
きのPさん 小説   読み終わった 

【感想】
宮部みゆきの長編小説のラスト1巻!!代表作という前評判に違わぬ作品でした。
かなり長かったが、そんなのが気にならないくらい面白かった。

最終巻では、真犯人Xこと網川浩一の生い立ちに関するエピソードや、彼目線でのストーリーも描かれていた。
このサイコパスがどのように育ってきたのか、また今まで分からなかった謎についてもきちんと書かれていたので面白かった。
ただ、個人的には網川浩一の煽られた際、打たれ弱すぎるなーと少し笑えた。
現代で同じことを行なうと、2ちゃんねらー達に一瞬で煽られ負けちゃうんじゃないのか?笑

網川浩一は、なるほど確かにスペックが高く天才肌ではあるが、目立ちたがり屋で同じくらいプライドが高すぎるので、付け込むスキがあるすぎる。
あんなにTV出演しちゃって・・・声紋を調べられたら一発アウトなんじゃないのか?と疑問に思った。
要するに彼はただのバカでは一切なくて、逮捕されるリスク以上に自分の能力の高さを世に披露せしめたいだけの人間なのかなと思った。

終わり方が少し簡単すぎるような気がしてスッキリしなかったが、なにはともあれ、評判に違わぬ名作でした!


【あらすじ】
真犯人Xは生きている――。
網川は、高井は栗橋の共犯者ではなく、むしろ巻き込まれた被害者だと主張して、「栗橋主犯・高井従犯」説に拠る滋子に反論し、一躍マスコミの寵児となった。
由美子はそんな網川に精神的に依存し、兄の無実を信じ共闘していたが、その希望が潰えた時、身を投げた――。
真犯人は一体誰なのか?
あらゆる邪悪な欲望を映し出した犯罪劇、深い余韻を残して遂に閉幕!


【引用】
1.人殺しが酷いのは、被害者を殺すだけじゃなくて、私やあんたや日高さんや三宅さんたちみたいな、残った周りの人間をも、こうやってじわじわ殺してゆくからだ。
そうして腹立たしいことに、それをやるのは人殺し本人じゃない。自分で自分を殺すんだ。こんな理不尽な話はない

2.「真犯人Xにとって、危険って何かしら?そもそも警察に捕まるこのを、彼は危険だと考えているかしら」
「犯罪を犯しているという認識はあるだろうから・・・」
「犯罪」また、大声で読み上げるように言う。「それもどうかな。彼、つまり真犯人Xのことだけど、これを犯罪だと思ってないかもよ、お父さん」

3.網川は面白がっていた。
真一はそれを、ほとんど手に触れることができるくらいにはっきりと感じた。彼の愉悦を。彼の喜びを。彼の快楽を。
こいつは俺の怒りを、俺の混乱を、俺のぶつける言葉を玩具にして遊んでいる。

こいつは、最初から、この状況を期待してここに来たんだ。
真一は足元がすうっと寒くなるような感覚を覚えた。
こいつは全部計算してるんだ。

4.グリーンロードでの栗橋と高井の事故死。2人がいっぺんに片付いて、網川の手間を省いてくれた。しかも幸運に幸運が重なり、網川は完全に事件の圏外に逃れた。
そのまま放っておいて、忘れたって良かったのだ。そうすべきだったのだ、きっと。
だが、何か物足りなかった。何か不満足な感じが残った。社会がこれだけ騒いでいる事件に、もう少し関わっていたかった。

5.デタラメではありません。すべて、この本に書いてあることです。
事実なんですよ。10年前、いえ、正確に言うとこちらの事件が起こったのは11年前のことです。アメリカの、メリーランド州でね。
ですからわたしは、わたしたちが抱えている今度の事件の犯人も、この11年前の事件を知っていて、それが日本で広く知られていないのをいいことに、そっくり真似たんじゃないかと思うのです。
サル真似ですよ、サル真似。大がかりな模倣犯です。読んでいて、わたしの方が恥ずかしくなるくらいでした。



【メモ】
p102
有馬義男はゆっくりとパイプ椅子から立ち上がると、真一に近寄ってきた。そして、すぐ傍らに一緒になってしゃがんだ。
「人殺しが酷いのは、被害者を殺すだけじゃなくて、私やあんたや日高さんや三宅さんたちみたいな、残った周りの人間をも、こうやってじわじわ殺してゆくからだ。そうして腹立たしいことに、それをやるのは人殺し本人じゃない。自分で自分を殺すんだ。こんな理不尽な話はない」


p138
「網川さんが注目を浴びてること、Xは面白く感じていないと思う。めちゃくちゃ不愉快なはずよ。だってさ、事件の主役の座を、今のところは、すっかり彼に奪われちゃってるものね」
「しかし、迂闊に動けば我々にその存在を確信させちまうことになるぞ。黙って隠れ続けていれば、アホな警察は栗橋・高井共犯説で事件に蓋をしてくれるかもしれないんだ。わざわざ危険な橋を渡ることはあるまい」
「危険」法子は台詞でも言うように大声で、台所の天井に向かって言った。
「真犯人Xにとって、危険って何かしら?そもそも警察に捕まるこのを、彼は危険だと考えているかしら」
「犯罪を犯しているという認識はあるだろうから・・・」
「犯罪」また、大声で読み上げるように言う。「それもどうかな。彼、つまり真犯人Xのことだけど、これを犯罪だと思ってないかもよ、お父さん」


p215
網川浩一とは、そもそも何者なのか?
栗橋浩美と高井和明の幼馴染で、和明の汚名を晴らすべく立ち上がった好青年。
会った者をひとしなみに惹きつける魅力を有し、頭の回転が速く、弁も立ち、ハンサムで姿勢の良い若者。
それらの「形」を見て、それに接するだけで気が済んでしまって、今まで誰も素のままの網川浩一を追求しようとはしなかった。

遊んで暮らしていかれるほどの金持ちの御曹司が、何故に、栗橋浩美と高井和明と同じ、公立の小中学校に通っていたのだろう?
今現在、彼はどこに住んでいるのか。彼の両親はどこにいるのか。
彼の子供時代は、本当に彼が語っている通りのものなのか?


p248
有馬義男は網川をさえぎった。「あんたが覚悟を決めるのは勝手だが、私がそれに付き合わなきゃならない義理はない。それは、この妹さんだって同じだよ」
この場を包み込んでいた、見せかけだけの平和的雰囲気の「箱」は、完全に壊れた。
一瞬だが、網川は明らかに怒ったような表情をした。有馬義男は涼しい顔で見返していた。それは、これまで網川が出演してきたどんなテレビ番組でも、どんなインタビューでも、けっして生まれることのなかった「場」の誕生だった。


p291
ほんの数瞬のあいだだが、さっき園内を歩いてくる網川を一方的に観察した時と同じように、真一は網川の「隙」を見た。
そして、そこから驚くべきものを感じ取った。

網川は面白がっていた。

真一はそれを、ほとんど手に触れることができるくらいにはっきりと感じた。彼の愉悦を。彼の喜びを。彼の快楽を。

こいつは俺の怒りを、俺の混乱を、俺のぶつける言葉を玩具にして遊んでいる。

こいつは、最初から、この状況を期待してここに来たんだ。
真一は足元がすうっと寒くなるような感覚を覚えた。
こいつは全部計算してるんだ。


p371
栗橋は自分では相当の頭脳の持ち主だとうぬぼれていたが、中身はてんでバカだった。カッとなると、その場の思いつきでとんでもないことをやりかねなかった。
だから、差し障りのない範囲内では、時々本人の好きなようにさせた方がいいと思っていた。それでもコントロールが利きにくくなってきたら、もう切り捨てるしかない。
事が拡大し始めてからは、できるだけ早いうちに栗橋を「処分」してしまおうと、網川はずっと考えていた。
とりあえず高井に罪を着せて、ほとぼりが覚めたらひっそりと栗橋を自殺させようかと考えていた。
ところが現実はあんなふうになった。グリーンロードでの栗橋と高井の事故死。2人がいっぺんに片付いて、網川の手間を省いてくれた。しかも幸運に幸運が重なり、網川は完全に事件の圏外に逃れた。

そのまま放っておいて、忘れたって良かったのだ。そうすべきだったのだ、きっと。

だが、何か物足りなかった。何か不満足な感じが残った。社会がこれだけ騒いでいる事件に、もう少し関わっていたかった。
そんな折に、テレビで前畑滋子を観たのだ。彼女のルポを読み、彼女は世間から注目を浴びたが、網川浩一に言わせれば、あんなものはただの作文でしかなかった。
腹立たしかった。イライラした。自分だったらもっと上手くやれると思った。どこかで聞いた覚えがあるような言葉を並べなければ何一つ書けないようなあの女に、彼のドラマを横取りされて、どうして黙っていられるだろう?
取り返そう、そう思った。ドラマをこの手に。


p438
なるほど彼は大したものだ。彼のやったことは前代未聞だ。空前絶後だ。
自分で散々人殺しをしておいて、その罪を他人になすりつけて、いけしゃあしゃあとその無実の人の遺族の味方をしてみせる。こんなことをやる人間を、誰が想像するだろう?だからこそ彼はこれまで隠れおおせてきたのだ。
人々の想像の及ばないところでプランを練り、筋書きをつくり、それに沿って演出をした。それは見事な手際だった。

これほど独創的な筋書きは、今までどこにも存在していなかった。彼が創り出したのだ。物真似じゃない。根っこのところからオリジナル。
ふと、滋子の頭の隅を、誰かとかわした会話がかすめた。
(人間なんて、みんな誰かの真似をしてるんだよ、シゲちゃん。)
網川浩一の犯罪に、手本などなかった。すべて彼の独創。思い切って斬新な独創と独演だった。


p456
「デタラメではありません。すべて、この本に書いてあることです。事実なんですよ。10年前、いえ、正確に言うとこちらの事件が起こったのは11年前のことです。アメリカの、メリーランド州でね。ですからわたしは、わたしたちが抱えている今度の事件の犯人も、この11年前の事件を知っていて、それが日本で広く知られていないのをいいことに、そっくり真似たんじゃないかと思うのです。サル真似ですよ、サル真似。大がかりな模倣犯です。読んでいて、わたしの方が恥ずかしくなるくらいでした」


p458
石のような目をしていた。それは生前の栗橋浩美が恐れ、ピースのなかの不可解な謎として敬遠していた、あの目だった。
今、前畑滋子はそれを目の当たりにしていた。かつて栗橋浩美が見たもの。高井和明が見抜いていたもの。
「冗談じゃない!僕がそんな真似をするものか!僕がやったことはオリジナルだ!すべてが僕の創作だ。僕が、僕の、この頭で考えて、一人でやってのけたんだ!」

「僕はケチな模倣犯なんかじゃない!前畑滋子、おまえこそ模倣犯じゃないか!サル真似はあんたの方だ。
(中略)
僕は自分で考えたんだ!全部自分で考えたんだ!何から何まで!すべてオリジナルなんだ!栗橋だってただの駒だった。あいつは筋書きなんか何も考えられなかった。ただ女どもを殺したいだけだった。高井和明を巻き込む計画だって、全部僕が考えたんだ。僕が筋書きをつくって実行したんだ!手本なんてなかった!サル真似なんかじゃない!僕は模倣犯なんかじゃないぞ!!」

レビュー投稿日
2019年7月29日
読了日
2019年7月29日
本棚登録日
2019年7月29日
6
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『模倣犯(五) (新潮文庫)』のレビューをもっとみる

『模倣犯(五) (新潮文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

いいね!してくれた人

ツイートする