奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

4.11
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本棚登録 : 1576
レビュー : 144
著者 :
きのPさん 小説   読み終わった 

【感想】
「日本版ヘレンケラー」という感じの小説。

今まで色んなイイ小説を読んできた手前、この本を「今まで読んだ本の中で〇番目」と断定することはできないが、少なくとも今まで読んだ本の中で、「読んでる途中に一番泣いた本」であることは間違いない。
安の使命感とれんの成長、その2人が試行錯誤しながらも奏でる物語は、読んでいて何回涙したことか・・・
ただ、自分のページを繰るスピードが上がってしまったのもあるが・・・ストーリーが終盤はちょっぴり駆け足気味で、れんと安の成長や触れ合いについて、もう少し長く詳しく書いてほしかったなぁと読んでいて思った。

まぁ、総合的に評価すると、300ページの本にしてはかなり綺麗にまとめられており、全体的に完成度が高くて奥が深いイイ1冊だった。
なにより、最初から最後まで物語自体の濃度が高く、色んな展開があってハラハラしつつ、最後はしっかりハッピーエンドで締結できていたね。
本当に読んでいて何度も涙ぐんだし、心が温かくなりました。

最後に、、、この本のタイトルでもある「奇跡の人」という一つの言葉について。
物語を読んでいく中で、キワ・れん、そして安という3人の主要人物が出てきて、「奇跡の人とは、一体だれを指しているんだろうか?」と思いましたが、なんてことはありません。3人とも奇跡の人なんですね。

温かい気持ち、優しい気持ちになりたい人に、オススメの1冊です。


【あらすじ】
旧幕臣の娘である去場安は、岩倉使節団の留学生として渡米した。
帰国後、日本にも女子教育を広めたいと理想に燃える安のもとに、伊藤博文から手紙が届く。
「盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女」が青森県弘前の名家にいるという。
明治二十年、教育係として招かれた安はその少女、介良れんに出会った。
使用人たちに「けものの子」のように扱われ、暗い蔵に閉じ込められていたが、れんは強烈な光を放っていた。

彼女に眠っている才能をなんとしても開花させたい。
使命感に駆られた安は「最初の授業」を行う。ふたりの長い闘いが始まった―。


【引用】
ヘレンケラー
「その顔を、いつも太陽のほうに向けていなさい。あなたは、影を見る必要などない人なのだから。」


p20
このさきあの音を失うとしたら、それは僕らの国のもっとも佳き芸術の一つを失うことになる。
けれど、残念なことに、あの音は、確実に失われていく音なんだ。
あの人には、後継者がいない。あの人のように、あんな音を出せる人は、日本どころか世界中もうどこにもいない。
あの人が生み出す音を、つまりあの人こそ、僕は、この国初の「生きた人間の文化財」にしてやりたい。


p29
小野原は、しばらく黙ってキワを見つめていた。
どうにかキワの心に降り積もった雪を解かしたいと願うように。
やがて、思いのこもった声で、小野村は言った。
「あなたの三味線を私に紹介してくださった人物が、、、もう一度聴きたいとおっしゃっても?」
その一言に、キワが顔を上げた。
「・・・あのお方だか?あのお方は・・・生きておいでだか?」
小野村は、もう一度うなずいた。そして、ごく短く答えたのだった。
「ええ、生きておいでです。・・・あの『奇跡の人』は」


p190
吉右衛門と、れんとの、一期一会。
失敗に終われば、介良男爵や辰彦の怒りを買い、れんは、このさき一生を北の蔵から脱することなく終えてしまうかもしれない。
危険極まりない出会いの演出。が、安は、れんが生まれ持つ運の強さに賭けた。

熱病に冒され、失いかけた命を奇跡的に取り留めた。
その後、「三重苦」に苛まれながらも、それに屈することなく、のびのびとした魂を持つ子として成長した。
そして、はるか東京から自分をここまで引きつけた、強力な磁力。
この少女はただものではない。将来、世の中をあっと驚かせるような天賦の才を持ち合わせている。
人間としての魅力も。そして強運も。


p236
なんて強い子なのだろうか。
夜ならば、やがて朝がくる。小鳥のさえずりも聞こえてくる。
けれど、あの子は永遠に続く闇の中を、真夜中よりも深い無音の世界を、たったひとり、手探りで、ここまで歩んできたのだ。

いかなる境遇をも乗り越えるまっすぐな魂と、ひたすらに生き抜く強さとを、あの子は持って生まれてきた。
なんのために?ーー知るために。
この世界を生きる限り、闇を照らす光があることを知る権利が、あの子にはある。
人として生まれてきた限り、人に愛される資格が、あの子にもある。
そして、いつかきっと、人を愛する気持ちが、あの子にも芽生えるはずなのだ。


p294
介良れん、このとき7歳。
「女ボサマ」狼野キワ、このとき10歳。
運命的な出会いの瞬間は、こうして訪れたのだった。

レビュー投稿日
2019年5月13日
読了日
2019年5月13日
本棚登録日
2019年5月13日
10
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