師匠、御乱心! (小学館文庫)

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レビュー : 6
著者 :
kinya3898さん 芸能   読み終わった 

今から40年前の昭和53年、東京の落語界を二分する
大騒動が巻き起こった。

その前に東京の落語会システムを簡単に説明。
東京には上方落語にはない「真打ち制度」がある。
真打ちとは文字通り「真を打つ」、つまりお客を
納得させるだけの芸の持ち主を真打ちと認める制度。

この真打ち昇格が分裂騒動の端緒となる。
落語協会会長 柳家小さんが行った「大量真打ち」。
落語ブームに乗り大所帯になった落語協会。
これまでの芸の熟成を待った真打ち昇進の方法では、
時間がかかり、中々真打ちが出てず、❛つっかえ状態❜
が続く。その打開策として現実主義の柳家小さんは
10人をまとめて真打ちに昇進させる。そのことに対し
「粗製乱造の極み!」と真向反対を示したのが落語
原理主義者の三遊亭圓生。圓生は芸に厳しく、
落語協会会長時代は実力の伴わない落語家を真打ちに
させなかった。現実主義者VS原理主義者の
ガチンコ対立のはじまり〜はじまり〜である。

普通なら、理想と現実の齟齬を話し合いを持ち、
妥協するところは譲り、よりよい方向を探って
いくところだけど、圓生はその手続きを取らず、
一門を率いて協会離脱を決意する。
この圓生師匠、名人の誉れ高い圧倒的な芸の力
があるものの政治力はなく、そこに加え一言居士の
性格も災いし不興を買ってしまう可愛くない人柄。
要するに小さんのような包容力もないから、
人も寄りつかない、そんな人がクーデターを
起こしても賛同を得るなんて夢のまた夢。
これを百も承知で御輿に担いだのが立川談志と
5代目三遊亭圓楽(歌丸さんの前に笑点の大喜利
の司会をしていた巨顔馬面の御仁)。

マスコミは「落語協会分裂騒動」とやんや書き
立てはしたが、大勢はあっけなく決着。
当初、新協会に参加予定だった古今亭志ん朝・
月の家円鏡ら大物落語家も次々と元の落語協会へ
復帰となるわ、定席の寄席からは閉め出しを喰らうわ、
圓生の理想とする新団体構想は露と消える。
圓生は協会とは袂を分かち、一番弟子の圓楽とも不仲に。
一方、名人圓生の芸は枯れるどころか独演会は
常に満員、弟子たちを率いて全国を精力的に
落語行脚するも過労がたたり、約1年後に急死。

そんな顛末を、この騒動から6年後に上梓。
本人曰く95%事実であり、登場人物はすべて実名表記。
また、その多くが現役バリバリの落語家ばかり。
世間は大いに驚き、ある関係者は怒り狂い、別のある人は困惑したり無視を決め込んだりしたという、
そこまで言って委員会本。

とりわけ著者が大嫌いな兄弟子三遊亭圓楽についての
筆誅は容赦なく、自身が真打に昇進した際の御祝儀額
まで暴露するわ、いかにやな奴であるかを仔細に執拗に
描く描く。僕もテレビ画面を通じてであるが、
傲岸不遜な人格と睨んでいただけに、裏付けるエピソード
満載で我が意を得た気分。

あくまでもこれは著者から見た「私家版騒動顛末記」。
例えば、お茶碗を横から見れば三角形、上から見れば
円形に見える。それと同じで今回の場合は、その人のことを好きか嫌いかにより描かれる風景は天と地ほどに
差が生じる。

巻末には「三遊鼎談」という、6代目三遊亭圓楽(楽太郎)・三遊亭圓丈・三遊亭小遊三の3人が参集し、40年の時を
経て、当時を語る。楽太郎は「うちの師匠は破ったか捨てた」と言い、小遊三はこの本を読んだ時の印象を「はじめてエロ本を読んだときの衝撃を受けた!」さすがは笑点のレギュラー、名人圓生師匠の抜いた伝家の宝刀譚をエロ本のドキドキ感に例えるととは…、シャレが効いてますわ。

レビュー投稿日
2018年7月13日
読了日
2018年7月13日
本棚登録日
2018年7月13日
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