螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

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本棚登録 : 5145
レビュー : 416
著者 :
kinya3898さん  未設定  読み終わった 

1980年代の初め、村上春樹はロングインタビューで「ピュアな恋愛小説を書きたい」と語っていた。その元となったのが表題作にある「蛍」で、これを敷衍して「ノルウェイの森」が生まれた。ページ数にして40頁程の短篇が空前の大ベストセラーとなるとは本人も予想をしていなかっただろうし、それを機に時の人となり、ストレスフル状態になり日本を脱出する羽目になるとは、まったくもって計算外だっただろう。

本書に収録されている短篇は5篇。
⑴蛍
学生寮に住む大学生の主人公が、偶然車中で高校時代の友人の元彼女に出会い、時々会うようになる。当初のギクシャクした関係も、次第に互いの体温を感じる距離に狭まり恋愛へと発展。でも、ある過去の出来事がふたりの間に影を落とす…。

⑵納屋を焼く
歳の離れた奔放な彼女が長い海外旅行から日本人の彼を連れて帰国。ある日、主人公宅へふたりが訪ねてくる。彼はマリファナを吸いながら「定期的に納屋に放火し、その燃える様を眺めるのが好き」と告白。「近々この近所の納屋を焼きます」と言われ、気がそぞろな主人公は…。

⑶踊る小人
一頭の象から五頭の象を作り出す工場で働く主人公の夢の中に、実に優美に踊る小人が登場し謎めいた一言を残す。その夢を端緒に、主人公の周辺でぐらりと様々なものが動き、揺らめきはじめる…。

⑷めくらやなぎと眠る女
仕事を辞め地元に戻った主人公は、耳の病を持つ、いとこの通院に付き添う。その病院で診察を待つ間、コーヒーを飲みながら物思いに耽り、あることを想起する…

⑸三つのドイツ幻想
東西冷戦時代のベルリンという物理的閉鎖された都市空間を舞台にしたエッセイ風3つの掌編。第1章はエロチックな言葉が溢れ、以後彼の長編に多く見られるセックスシーンの原点なったのかなと思える…

村上春樹の処女短篇集「中国行きスロウボート」以来、おそらく全ての短篇を読んでると思うが共通しているのは、ストンと落ちるオチというかサゲはない。起承転結、序破急というメリハリはなく、ストーリーのつなぎ目は淡く緩やかである。読んでいる途中から、短篇なのに長篇を読み通したような錯覚に陥るぐらい、実に豊かなイメージを持った作家であることを再認識した次第。

「蛍」を初めて読んだ時は19歳。主人公とほぼ同じ年齢であったから、簡単に自身を投影でき、また文章から立ち昇るリリシズムにいたく感動した記憶がある。今回久々に読み、一瞬だけど19歳のあの頃に戻れ、鼻の奥がつんとしてしまいましたがな…。

レビュー投稿日
2019年3月9日
読了日
2019年3月9日
本棚登録日
2019年3月9日
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