上京する文學 (ちくま文庫)

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  • 筑摩書房 (2019年9月10日発売)
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本書は〈春樹から漱石まで〉という副題にあるように明治から現在に至るまで「東京を目指し、故郷を後にした作家になる前の作家たち」、「そんな若者たちを描いた作品を『上京者』という視点で読み解いた」文学案内。

登場する作家は総勢18名。
夏目漱石・斎藤茂吉・石川啄木・菊池寛・山本有三・室生犀星・江戸川乱歩・宮沢賢治・山本周五郎・川端康成・太宰治・林美智子・寺山修司・五木寛之・松本清張・井上ひさし・向田邦子・村上春樹…錚々たる面々。

ただ「現在までの上京譚」と謳うも一番若いのが村上春樹で、上京したのは昭和43年(1968年)⁈全共闘華やかかりし、あの時代。東海道に新幹線が走り出してまだ4年で、「夢の超特急」という冠コピーがまだまだ燦然と煌めいていた頃だから、現代とくくるのはいささか強引では(苦笑)。

とはいえ、昭和をよく知る者にとっては郷愁も手伝い、あの頃の上京って、伊勢正三の「なごり雪」の世界そのもの。旅立ちと別れには、鉄道は1セット。だから、ある程度の距離感が不可欠。スカイマークなら早割使えば東京8,900円では、あまりにも味気ない。

著者は18人の上京後の「足取り」を様々の著作物から渉猟し、作風の成り立ちが「故郷(生い立ち)と上京後の東京との暮らし」に大いに根差しているのでは…という仮説から導いた論考は興味深く、また作家が自作品の中で描いた東京の街を実際に歩く。例えば『ノルウェーの森』に出てくる主人公が住む高台の右翼色の濃い男子寮(和敬塾)界隈の活写はさながら「文学散歩レビュー」としても読める。

18もの上京パターンを一気読みしたので、「上京の変遷」と「東京の街の成熟ぶり」を知ることができ、一冊で幾重にも読める労作。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2019年11月23日
読了日 : 2019年11月23日
本棚登録日 : 2019年11月23日

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