1941年12月の開戦直後、政府は戦争の目的と経緯を大川周明によるNHKラジオの12回の連続講演で説明した。それは速記によって記録され、『米英東亜侵略史』として上梓されベストセラーになった。その全文とテキストを他の思想家と比較検討しながら読解していく。様々な視点があるが、日本の外交の閉塞状態をいかに打破するかが本書の書かれた意図である。忘れ去られた大川周明という思想家の思想への最良の入門書であり、自虐史観という呪縛を解き放つものでもあるが決して右翼的内容ではない。良書。戦前の知的水準の高さに驚いた。


大川周明(1886-1957) 思想家。極東国際軍事裁判でA級戦犯として起訴されるが精神障害を疑われ不起訴となった。佐藤氏によると日本を「教育」する場で逆に英米の悪事を暴かれるのを怖れたためだという。「米国東亜侵略史」ではペリー来航から始め、日本がアメリカと戦争することになった経緯を語る。また「英国東亜侵略史」ではイギリスの植民地政策、インド植民地化と中国の半植民地化への過程を述べ、日本の戦争の大義名分は中国、インドの解放にあると訴える。世界史的読み物としても興味く読めた。

戦前の国民は軍部に騙されていたというのは戦後アメリカによって作られた神話だったらしい。戦争に至る経緯と目的を国民に向けてきちんと説明しているからである。また開戦当時の政府はなるべくアメリカとの戦争は回避しようとしたが追い詰められやむを得ず開戦になったというのが真実のようだ。実践はなかなか難しいが与えられた情報を鵜呑みにするのでなく自分でも広く情報を集めることの大切さを改めて知った。

現在は第二次大戦前の帝国主義時代へ逆行しているらしい。哲学的にはキリスト教型の普遍主義から脱却し、ライプニッツのモナド型の並列主義に移行しなければ様々な問題の根本的な解決は難しいということらしい。グローバリスム、イスラムのテロ、パレスチナ問題などもそうなのだろう。

2014年8月31日

読書状況 読み終わった [2014年8月31日]

私は怒りを感じる。〈車や大砲や飛行機やコカコーラがないからといって、彼らを滅ぼす権利があるとでもいうのだろうか?〉宣教師たけでなく民俗学者も悪だ。彼らと共に生活し、ジガバチが芋虫に産みつけた卵から孵る幼虫のように彼らの内部から破壊するのだ。マチゲンガ族はロマのように放浪する民。しなやかな強靱さをもつ。語り部は物語る、世界の生成、月と太陽、善き神と悪魔、死者の国、タブーなどを。顔に傷のあるカシリの偽りの光ではなくタスリンチに息を吹き込まれた真の光だった。密林から呼ぶ声がする。マ・ス・カ・リ・タ…

〈聖書、二言語の学校、福音の指導者、私有財産、金銭の価値、商業、洋服…それらがすべて向上に役立つと言えるだろうか?自由で独立的な《未開人》から西欧化の戯画《ゾンビ》への道を進みはじめてしまったのではないか?〉これはマチゲンガ族だけの問題ではなく、北アフリカを除くアフリカやオーストラリア、オセアニア、東南アジアなどにも当てはまる。民族自決とはヨーロッパにだけ適用されるもの。ダブルスタンダードだ。なぜ彼ら自身に選ばせないのか。自分たちの経済システムに組み込み、収奪するためにほかならない。

生物多様化、進化論が正しいとするならば太古の昔から生命は常に進化してきた。ならばなぜ進化の頂点とされる人類に一元化されないのか。それは多様化により様々な環境に適応し、分科することにより絶滅することを防いでいるのではないかと思う。人類も居住範囲を拡大し、環境に適応して多様な文化を築いてきた。大航海時代より近代社会への転換をせまられるようになった。現代はさらに経済システムまでもグローバルスタンダードの名の元に一元化されようとしている。それは人類の滅びへの道ではないのか。

マチゲンガ族は決して怒るなと言う。〈《大切なことは、焦らず、起こるべきことが起こるにまかせることだよ》と彼は言った。《もし人間が苛々せずに、静かに生きたら、瞑想し、考える余裕ができる》そうすれば、人間は運命と出会うだろう。おそらく不満のない生活ができるだろう。だが、もし急いて苛立ったら、世界が乱れるだろう。〉これが彼らのしなやかな強靱さの秘密だ。西洋哲学や仏教などに勝るとも劣らない哲学ではないだろうか。

ストーリーと語り部の物語が対位法により交互に語られる様はバッハのトッカータやフーガのようだし、フィレンツェと密林もまた対応関係にある。『ドン・リゴベルトの手帖』はこの発展系かもしれない。さりげなく?カフカを織り込んであるのも見事。ダンテやマキャベリにも言及されそれぞれ照応関係にあるようだ。カルペンティエル『失われた足跡』と読み比べてもおもしろいかもしれない。『緑の家』とも関連があるようだ。

2014年8月13日

ファシズムとナチズムは違う。ナチズムはゲルマン主義、反ユダヤ主義、反デモクラシー、反人道的、反キリスト教、反ボルシェヴィキズムで浅薄な寄せ集めの思想に過ぎない。ドイツ精神の破壊と闘闘争と戦争を目的としていた。第三帝国の歴史、世界観、宣伝機構、退廃芸術と民族主義的芸術、主観的科学、人種的教育、法の絶滅、裁判制度、ユダヤ人立法、強制収容所、最終解決などの様々な文献を引用しまとめたもの。読んでいると精神が荒廃してくる。


国防軍、突撃隊、親衛隊、武装親衛隊、ゲシュタポ、クリポなどナチスの組織には機能が重複した組織が多いのは、あえて互いに監視させ合うためだったらしい。組織の中で、組織を超えて足を引っ張り合い、出し抜こうとするナチ党員たちは子供番組の悪の組織のようだ。『HHhH』の主人公の一人、ハインリヒもヒムラーの懐刀でありながら全く信用されておらず、警戒されていたようだ。

2014年8月12日

読書状況 読み終わった [2014年8月12日]
カテゴリ 歴史

ひとは愚かだと言うかもしれない。でも愛してくれるひとよりも愛したひとに愛されたいのだ!2つの大きな愛とたくさんの小さな愛。51年9ヶ月と4日間の片思いはマコンドの100年よりもずっとずっと長かった。若かったあの頃、ほんの少し勇気があれば…。終りよければすべてよし。最高のラヴロマンス。鬱蒼と茂るバナナの木にたわわに実ったマンゴーの木々、むせかえるようなオレンジ、クチナシ、ジャスミンの花の香り、クァバの味。ヒースの茂みや大理石や石畳で出来た街や紙と木で出来た街では紡ぎだせない物語。作者の眼差しが暖かい。

打算で始まった夫婦愛が日照りや嵐に合い、座礁しかかっても無事に航海を終えるところも見所だ。フロレンティーノ・アリーサと肩を組んでいる身としては辛かったけど。〈記憶は悪い思い出を消し去って、いい思い出だけをより美しく飾りたてるものであり、その詐術のおかげで人は過去に耐えることができるのだ〉


〈つかの間の恋を楽しむ相手と腕を組んで散歩しながら、焼き栗のどこか懐かしい薫りをかぎ、物憂いアコーディオンの調べに耳を傾け、オープン・テラスで飽きることなくいつまでもキスをしているカップルのいる、黄金色の午後ほど純粋な喜びをもたらしてくれるものはほかにないと考えていた。〉では華やかなパリが思い浮かび、〈船の手すりから、コロニアル風の地区のある白い岬や屋根の上でじっと動かずにいるクロコンドル、バルコニーに干してある貧しい人たちの洗濯物を目にしたとたんに、〉でカリブ海に一瞬で引き戻される。これもマジックか。

2014年8月11日

ザンギリ頭を 叩いてみれば 文明開花の 音がする / 立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は 百合の花 /都々逸(どどいつ)なるものが日本文学に出てきてもわからなかったが、江戸末期、都々逸坊扇歌という芸人が寄席で三味線片手に流行らせたもの。ちょっと前まではお座敷で唄われたとか。/惚れさせ上手な あなたのくせに あきらめさすのは 下手な方/いやよいやよと いわれてやめる そんなあなたが もっといや/古今の都々逸に紫文が合いの手をいれたもの。それがまた面白い。/和歌は雅よ 俳句は味よ わけて都々逸 心意気

『新編どどいつ入門』という本と両方借りてみたけどこっちのほうが面白かったな。柳家紫文の寄席、聞いてみたい。

2014年8月9日

読書状況 読み終わった [2014年8月9日]

放浪のユダヤ人作家ロート。5篇の短篇の主人公たちも放浪する。故国を遠く離れて。ナポレオンはヨーロッパをかき混ぜ、第一次大戦はヨーロッパの枠組みをぶっ壊してしまった。民族自決という名の下にバラバラになったオーストリア帝国。行き過ぎた民族主義はユダヤ人に対する憎悪を引き起こす。ヒトラーを予見させる『蜘蛛の巣』と亡き帝国の挽歌である『皇帝の胸像』は鏡像のようだ。せつない愛の物語2篇もいい。表題作は作者そのものらしい。淡々とした筆致で書かれた物語たちは甘さのあとにくるほろ苦さのようなものを含んでいた。


『聖なる酔っ払いの伝説』でもアプサンの代用酒でペルノーを飲んでるけどヨーロッパではアプサンがそんなに飲まれてたのかな?アプサンはたしか毒物だったはず…。

2014年8月9日

読書状況 読み終わった [2014年8月9日]
カテゴリ ドイツ文学

夏芙蓉の甘い薫りが漂うと金色の鳥が甘い蜜を吸いに来る。熊野の山は烏天狗が舞い、天女が羽を休めにくる。龍は天へと昇っていく。鶯の声、梟の声が聞こえ銀色の川が流れる。蓮の池の上につくられた浄土は路地という。四民平等に憤り竹槍で刺されるは落人狩りをした土民たちの再現か。千年もの長きに渡って受け継がれてきた澱んだ血の所為か先祖が歌舞音曲に狂った報いの為の仏罰か。歌舞伎役者のような男振りに淫蕩、盗人は澱んだ血の為せる業。百年も千年も生きていたオバ。産婆と毛坊主の生と死を司る夫婦。非業の死を遂げる男衆たち。

紀州熊野の山村を舞台にした連作短篇集。ゾラのルーゴンマッカール家の遺伝を彷彿とさせる中本の血、マルケスのマコンドのような生者と死者、怪異が一体となった混沌とした世界観、有島武郎の『カインの末裔』のような土臭さ。面白い。中上健次は初読みだったが気に入ったので「紀州サーガ」をもっと読みたい。


〈どうせこの世がうたかたの夢で自分一人どこまでも自由だと思っても御釈迦様の手のひらに乗っているものなら何をやって暮らしてもよいと言いたかった。〉〈生きながらえ増え続けボウフラの如く生命がわきつづける事が慈悲なら空蝉のように生れて声をかぎりに鳴いて消える生命も慈悲のたまものだった。〉

2014年8月5日

読書状況 読み終わった [2014年8月5日]
カテゴリ 日本文学

ギリギリと力の限り弓を引き絞る。放たれた矢は的に向かってゆっくりと確実に飛んでゆく。1942年5月27日午前10時過ぎ、プラハ郊外での出来事だった。歴史小説はどんなに資料を集めても虚構である。足りない部分は作者の想像で書くしかないからだ。著者は事実をありのままに記述しようと資料を集め、同じテーマの他の書籍を読み、映画を観る。これは歴史的事件の物語であると同時に物語る作者の物語でもあるのだ。著者はフランス人だがチェコを愛している。その愛が素晴らしい。虚構であればどんなにか結末を変えたかったことだろうか。

「書くこと」をテーマにした作品は金井美恵子をはじめいくつか読んでいるが、ここまで物語とうまく合致した小説はないのではないだろうか。物語のクライマックスの表現(マトリックスのよう!)、サスペンスのようなドンデン返し(伏線はある)に手に汗を握った。バルガス=リョサも手放しで絶賛したという。翻訳もこなれていて読みやすかった。

事件について世界史には出てこないので知らなかったし、ナチスについてもあまりにも知らなかったことに愕然とした。ラインハルト・ハイドリヒ、第三帝国でもっとも危険な男、プラハの死刑執行人、虐殺者、金髪の野獣、山羊、ユダヤ人ジース、鉄の心臓を持つ男、地獄の業火が創造した最悪のもの、女の子宮から生まれたもっとも残虐な男、ヒムラーの右腕、親衛隊のナンバーツー、国家保安部(RSHA)長官、突撃隊とゲシュタポの責任者、チェコの総督代理だった男。この男がホロコーストの元凶だったこと、ロンドンのチェコ亡命政府、レジスタンス。チェコ人とスロヴァキア人3人はチェコの英雄だ。

作中に出てきた作品、ジョナサン・リテル『慈しみの女神たち』、フローベールの『サランボー』、サルトル『自由への道』、ユゴー『ノートルダム・ド・パリ』、クンデラ『笑いと忘却の書』、ジョルジュ・サンド 『ジャン・ジシュカ』、そして〈『慈しみの女神たち』は「ナチにおけるウエルベック」なのだ。〉

〈僕はたえず、あの〈歴史〉の壁にぶちあたる。その壁には、見るからに手ごわそうな因果律という名の蔦が這いまわり、けっして留まることなく、さらに高く、さらに剣呑に生い茂っている。〉

チャーチルの下院での発言は洞察力と偉大さにおいて傑出している。「われわれは全面的かつ絶対的な敗北を喫した」
チャーチルの名を不朽のものにする交差配列語法「戦争か不名誉か、そのどちらかを選ばなければならない羽目になって、諸君は不名誉を選んだ。そして得るものは戦争なのだ」チェンバレンでなくチャーチルが首相だったら世界大戦はなかったかもしれない。

2014年8月2日

どこにでもあるようなありふれた日常生活も目を見開いて凝視し続けていくと見えてくるものがある。それは神経をジワジワと冒す狂気のようなもの。夢とよばれるものかもしれない。素潜りをするように日常の海の底へ向かって潜り、息継ぎのために浮上し、また潜っていく。何かが喉の奥で粘りつき、ひりつくような感覚を覚えながら。エッセイと小説の狭間を揺れつつ私小説風に集束していくようだ。年代順に並べられた十篇。「先導獣の話」「椋鳥」「陽気な夜まわり」「眉雨」「髭の子」がよかった。再読するとよさそうだと読みながら思った。

2014年7月26日

読書状況 読み終わった [2014年7月26日]
カテゴリ 日本文学

鬱蒼と茂った木々から燦々と零れる日の光。キラキラ輝く湖面には水鳥が遊び、湖畔には百合の花が咲き乱れ蜜蜂が飛び回る。湖の小島は幸せなカップルたちのデートスポット。でもじつは墓地。首吊りでも事故死でもまるで生きているかのように活力あふれた姿に再現する遺体処理師と化粧師。〈心安らぐ死を半ば愛して〉焼かれ、退色する束の間の芸術作品。文学に死はありふれたテーマのひとつだが、遺体や葬儀をテーマにした作品は珍しい。イギリス人らしいブラックユーモアだ。英詩人たちやポーの詩の引用もよかった。

2014年7月20日

読書状況 読み終わった [2014年7月20日]
カテゴリ イギリス文学

究極のラヴストーリー。嵐でも消せない愛の灯火。我が唯一の望み。パラダイス。アダムとイブ。バラバラになったジグソーパズルはLEGOブロックのように組み上げられ、時間も人も空間も曖昧になり霧散してしまう。目の前の9枚のカードをめくると官能的な描写と共に絵画、小説からの引用、芸術論、エロティシズムの考察、文明批判が盛り込まれていて熱湯と冷水を交互に浴びせられるかのよう。幻惑され翻弄される、まさに魔術的リアリズムだ。書き写したいセンテンスがたくさんあって、早く先が読みたいのに読めないもどかしさを再び味わった。

幸福でありながら不幸、平手打ちをしてキスしてやりたい、賞賛と羨望と嫉妬の三すくみの感覚、左右に引き裂かれるような矛盾し、相克する感情表現はすごい。この物語を貫くキーワードは〈屈折した空想、偏執性、誘惑の力〉『継母礼讃』が光ならこの作品は影、または太陽と月のようなものかも。もしくは息子の物語と父親の物語。


〈人間の自由を卑しめ、毒し、切り捨てるあなたがいなければ、自由のありがたみはなくなるし、わたしの想像力は高くは飛翔しないし、わたしの欲望は切迫したものではなくなるだろう。というのは、自由も想像力もすべてあなたにたいする反逆、自由で感受性のある人間の感性と、自由意思を否定するあなたにたいする反発をバネとして生まれてくるからである。〉
〈幸福とはつかのまのものだよ。例外的なことさ。平凡とは対照的な。でもときどき幸福を掻き立ててやらなければならない。消えてしまわないように。焔を吹いてやらなければ。〉

2014年7月9日

読書状況 読み終わった [2014年7月9日]
カテゴリ 南米文学

在原業平は華やかな元服を経て女性遍歴を重ねるが、女に冷たくされたり、逃げられたりすることもあった。友や親族、女に対してやさしかった。やがて翁と呼ばれるようになり、生涯を振り返り〈124 「思ふこといはでぞただにやみぬべき我とひとしき人しなければ」〉と思い、〈125 昔、男わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ、「つひにゆく道とはかねてききしかど昨日今日とは思はざりしも」〉と終わる。皇族に生まれ臣籍に下り、不遇をかこつも嘆くことなく歌と女を愛した貴公子の物語は読者の想像力の数だけ存在するのかもしれない。

2014年7月3日

読書状況 読み終わった [2014年7月3日]
カテゴリ 古典文学

どこまでが演技でどこまでが本気なのか。男と女の恋のシーソーゲームのバランスは難しい。『Oの物語』と比べると男女差を、『痴人の愛』と比べると狩猟民族と農耕民族の差を感じる。サドには哲学があるが、マゾッホは知的だが狂おしい情熱だけである。かつてヴェルヌが思い描いた空想が現実になったようにマゾッホが空想で描いたこの物語と実生活がまるで同じになったというのに驚いた。名前までもヒロインと同じ名前、ワンダだった。内容はともかく作品としては重要で様々な文学の土台となっている。アナイスの日記にも出てきたので読んだ。

2014年7月3日

読書状況 読み終わった [2014年7月3日]
カテゴリ 文学

文学の面白さを3回に渡って語り下ろしたもの。文学エッセイ?チェーホフ、シェークスピア、ベケット、カフカ、ドストエフスキー、クンデラ、セルバンテス、プルースト、漱石、ウルフなど。バフチンやコリン・ウィルソン、ホイジンガなども出てくる。最近、小島信夫が読んでみたくて図書館で探してたらこの本を見つけたけど、自分の小説のことも書いてあり、芝居を観る前に舞台裏を覗いてしまった感じ。でも取りあげられている小説が無性に読みたくなった。

2014年6月30日

読書状況 読み終わった [2014年6月30日]
カテゴリ 文学

別になりたかったわけじゃないけどたまたま書いてみた小説が新人賞の候補になって作家ということになった大学生の主人公もその家族もまったく共感できず、『文章教室』の面々も再登場するが相変わらずで登場人物たちは魅力がないけどあとがきで書いてるように毒の塊のようなところや今まで読んできた金井作品に共通する書くことや文章についての考察や映画とか文学が物語に絡んでたり他の作品のパロディがあったりするところがすごく魅力的でイヤなやつらばかりなのに思わず引き込まれてしまう。目白4部作のラスト。続編の目白シリーズも期待大。

2014年6月28日

読書状況 読み終わった [2014年6月28日]
カテゴリ 日本文学

美しい金髪の巻毛の無邪気な青い目をしたクピドは長い睫を震わせ、耳朶を咬みながらアモーレと甘く囁く。注ぎ込まれる甘美な毒。ウェヌスは夏の太陽と熱い砂浜を夢見て、血管を流れる葡萄酒のような熱い血に酔い痴れる。6枚の絵が紡ぎ出す幻想、美しい女体、純真無垢な悪意、粘液質の欲望はベッドの〈魔術的空間〉で絡まり合い、至高の快楽へ変わる。美と醜、聖と性が対比され、美しい旋律を紡ぎ出す。『ロリータ』の倒置だ。《おまえは…おまえはだれなのだ?》トランプの城は壊された。クピドは堕天使ルシフェルとなり夜空に飛翔する。

〈彼は睫をふるわせ、訴えるような目つきをした。泣きべそになって口をゆがめ、えくぼのある頬をぴくぴくさせて哀願した。〉

巻頭の6枚の絵画。
ヤコブ・ヨルダーエンス「カンダウレス王寝室のギュネス」
フランソワ・ブッシュ「水浴の後のディアナ」
ティツィアーノ・ベルチュリオ「ビーナスとキューピッドと音楽」
フランシス・ベーコン「頭部1」
フェルナンド・デ・シシェロ「メンディアータ10への道」
フラ・アンジェリコ「受胎告知」

日本語訳も美しくて書き写したくなる表現がたくさんあった。訳者あとがきによると原文はナボコフやジョイスのような言葉遊びにあふれているらしい。川端の淫靡なエロさに対してリョサは開放的なエロさだ。

カバーの絵はアーニョロ・ブロンツィーノ「愛のアレゴリー」。原題はBromzino,Allègorie avec Vènus et Cupidon 直訳すると多分、ウェヌスとクピドの寓意。なんで愛のアレゴリーなんだろう?解説にもあるようにこの絵がこの物語を全て表している。

2014年6月28日

読書状況 読み終わった [2014年6月28日]
カテゴリ 南米文学

どこまでも続いている広大なバナナ園を右手に駅を降りると村唯一のホテルがある。八月の焼けつくような太陽は肌を焦がし、透きとおるような青い空には禿鷹が舞う。涼しげな巴旦杏の木陰のそばの焼けつくような反射熱でゆがんだ通りを歩いていくと玉突き場がある。蓄音機から流れてくる音楽。男たちの溜まり場だ。酒を飲みながら玉突きをしたり、女とダンスを踊る。この短篇集もそんなマコンドの話だ。『悪い時』や『百年の孤独』に出てくる人物たちは玉突きの象牙の玉のようなものではないか。8篇の珠玉の短篇集。

解説がまた素晴らしい。「火曜日の昼寝」「土曜日の次の日」あたりを読むと『百年の孤独』の雰囲気がつかめるかもしれない。

2014年6月21日

読書状況 読み終わった [2014年6月21日]
カテゴリ 南米文学

ガボのバイブルというべき本。ガボが好きな人はもちろん読んだことがない人も手にとってほしい。『百年の孤独』について、作品に登場する人物たち、ガボ流の表現、ガボの〈ものはずくし〉、枕草子のようにモノやコトを列挙して考察、マコンドの様々な風物詩、ガボとガボにまつわる様々な話、ガボ年譜、ガボの邦訳作品、邦語参考文献、そして「架空都市マコンド絵地図」、地図を見るだけであのエピソードが脳裏に蘇る。作品を読む前に予備知識を仕入れてもいいし、読んでから該当箇所を読み返すとニヤリとできる。これも読んだわけでなく紹介のみ。

2014年6月21日

読書状況 読み終わった [2014年6月21日]

静寂な朝は一発の銃声に破られた。熱気を孕んだ暑い空気に腐敗臭や動物の臭い、香水の匂い、オーデコロンの残り香が漂い、教会の鐘の音、映画の音楽、トランペットが響き渡る。政府が変わっても変わらない、戒厳令、夜間外出禁止令、鼠のようにしぶとい反政府ゲリラ。銃弾で吹き飛ぶ軽い命。大佐は何のために戦ってきたのだろう。小さな村の歴史を短篇のように鮮やかに切り取った中篇だが凝縮された密度は長篇に匹敵する。バルザックやゾラの物語群と同じくガボの描く他の物語群の一部のようだ。今日もマコンドを思い出させる小ぬか雨が降る。

ミスター・ブルームはダブリンでよかったと思う。ここだったらすぐに土手っ腹に風穴を空けられていたはずだ…。

血の滴る肉厚のレアステーキを頬張った感じでした。バルザックやゾラは霜降りで脂っこいから1冊でしばらくお腹いっぱいだけど、ガボはオージービーフみたいに何冊でもいけそう。さすがに『百年の孤独』を読み終えた時はしばらく放心してほかの物語も読めませんでしたが。

2014年6月21日

読書状況 読み終わった [2014年6月21日]
カテゴリ 南米文学

初めはナンダコレ、バカジャネーノ?なんて思いながら読んでたけど、「食味評論」からハマった。ささいな日常生活のあれこれをオジサン目線で書いてあってプッと吹き出してしまう。金井いわく線がいろんな感情を表している一コマ漫画がまた面白い。オール讀物連載の「男の分別学」を改題し、昭和59年9月号から61年12学掲載分から選ばれたもの。秀逸なのは10年物の焼酎(度数は50度以上だが何度だかわからぬ)を飲んだ時の描写。〈「ムグ」「カッ」「ゲボゲボ」「ムハー」「ガックリ」「ミズミズ」〉想像を絶する代物だったとか。

「春のお出かけ」「服飾」「食味評論」「温泉」「テレビ・ウォッチング」「待つ」「自動車教習所教官の反論」「洗濯」「おじさん症候群」「カニ」「三行広告」「ガイジンの日本人感」「清涼飲料水」「八丈島」「スポーツの持つ病」「夏の終わりの民宿」

2014年6月16日

読書状況 読み終わった [2014年6月16日]
カテゴリ エッセイ

アイルランドといえばまず首都ダブリン、東部のゴールウェイ地方、アラン島が思い浮かぶ。司馬遼太郎『愛蘭土紀行』がそうだった。この本は紙数の関係か駆け足になるがほぼ全ての地方と主要な都市を紹介している。英領北アイルランドまであって興味深い。また2012年に書かれているためアイルランドの今がわかる。都市の紹介、歴史、映画、文学、アイルランド神話、アイルランド出身のミュージシャンなどが散りばめられている。イェイツやワイルド、ジョイスなどの作品の一節が訳出されていて、特に『ユリシーズ』の雰囲気を味わえるのもいい。

北アイルランドといえばIRA(北アイルランド共和国軍)。アイルランド共和国との統合を旗印に北アイルランドやロンドンでテロを行っていた組織だ。イギリスとの連合を主張する〈ユニオニズム〉とアイルランド共和国との統合を望む〈ナショナリズム〉があり、互いに爆弾テロを行っていた。1998年4月10日に結ばれたベルファスト和平合意で終結するかと思いきや、和平合意に反対したRIRA(真のIRA)が無差別爆弾テロを行った。U2はそれを受けて作曲した曲、「地には平和」http://youtu.be/JcDNilZbZg8

タイタニックが3姉妹だったとは知らなかった。タイタニックは次女。長女はオリンピック。客船として、戦時中は兵員輸送船として活躍し、無事引退したらしい。三女はブリタニックで病院船として使われたが、第一次大戦中、ドイツ軍の機雷に当たって沈没。

2014年6月16日

読書状況 読み終わった [2014年6月16日]
カテゴリ エッセイ

読み方というかリズムというか、ちょっと慣れてきた。『オデュセイア』で近づく者を歌声で誘惑し、破滅させるセイレーンに対応した、セイレーンの章と人喰いの一つ目の巨人キュクロプスに対応する、キュクロプスの章がよかった。セイレーンは全体が音楽のように、叙事詩のように流れ、音楽記号で交響曲のように強弱や速度が変わる。キュクロプスは取り立て屋の語りにいろいろな文体のパロディが挿入され、バロックの対位旋律のよう。しかし長い。王女ナウシカアの章の当時の女性向け小説の文体はキツかった。ブルーム氏はまたここでもやらかす。。

2014年6月16日

読書状況 読み終わった [2014年6月16日]

本名夏子。芸者の子に生まれた。芸者といっても地方の温泉芸者だ。小学校では芸者の子は肩身が狭い。でも担任の先生はかばってくれた。憧れの先生であり初恋だった。芸者にはなりたくなかったけど芸者になった。芸名小夏。小夏は落籍れ妾となるが、旦那に死に別れ、別の旦那の妾になる。舞台は52年に軽井沢が返還されたとあるので戦後間もない頃から物語は始まるようだ。日本版『ナナ』だろうか。本人は自覚がないが可愛らしくいい女のようだ。深く関わる男にとっては宿命の女。露骨な描写はないが行間から匂い立つエロスが素晴らしい。

ピタピタと手に吸いつく、肌理の細かい肌のような読感。解説を読むとこないだ読了した『花柳小説傑作選』に入れられなかったので1冊として刊行されたらしい。また、谷崎と同時代で生い立ちも似ているようだ。まるで歌舞伎の女形のように女性心理や女の描き方が上手い。大正風にいえばモダンガアル、戦後の解放された新しい女性像を描いているのかもしれない。芸者同士の張り合い、洋装の時のファッションチェックなど女性はどう思うんだろうか。

2014年6月16日

読書状況 読み終わった [2014年6月16日]
カテゴリ 日本文学

丸谷才一が最後に編纂したアンソロジー。花柳小説といっても幅広く、あまり花柳とは関係ない、バーのマダム、女給、私娼も含まれている。そのような花柳小説は明治以後の日本文学に多いが無視されている。日本文学史の再評価の為に編んだ、らしい。吉行淳之介は安定の面白さだが、初読みの作家が多かった。島村洋子、永井龍男、里見弴、永井荷風が面白かった。特に島村洋子「一九二一年・梅雨 稲葉正武」「一九四一年・春 稲葉正武」は衝撃的!永井荷風「妾宅」は和風『さかしま』の趣があり、里見弴「妻を買う経験」は読んで納得。

2014年6月16日

読書状況 読み終わった [2014年6月16日]
カテゴリ 日本文学
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