信長 (新潮文庫 あ 39-2)

著者 :
  • 新潮社 (1999年11月1日発売)
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本棚登録 : 156
感想 : 18
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信長凡人説や常識人説が言われる昨今ではありますが、本書は徹底した信長天才論で通しています。そして1582年に近づくにつれ、その記述は信長を神がからせていきます。
当時のパラダイムからひとり信長がシフトしていたことについて繰り返し説明されます。激情家だったのでしょうが、同時に新しい天下像に相容れないものを見極める冷静な眼を持っているように描かれます。
しばしば叡山焼き討ちや長島一向一揆殲滅などの派手で残虐な事例は、信長の性格や政策を示す格好の例とされます。しかし、むしろ佐久間信盛や林通勝ら重臣たちの地味な切り捨てこそ、新しい天下創造の決意表明として注目してしかるべき出来事だと思います。本書では佐久間親子らの追放が当時の常識に比べいかにイレギュラーだったか述べる一方で、新世界を築く信長の立場からすればいかに当たり前の処置であったかが述べられます。つまり新世界創造に突き進む信長の前では、外見的な敵も味方も等しく同じ地平に立たされているということです。まさにこのボーダレス感こそが、信長の天才性を示す好例だと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年3月20日
読了日 : 2017年3月20日
本棚登録日 : 2017年3月20日

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