巻末の鈴木庫三年賦を見ていただきたい。小学校卒から19歳までの空白の期間を経てその後30歳に日本大学に入学するまで、学校教育をほとんど陸軍内の学校で受けている。格差が激しく本人の経済的に恵まれない出自の中で相当な努力をもって地位を築いていったことに大変驚く。貧しくとも実力のある若者にとっての軍が上級学校の役割を担っていたという話をよく聞くが、その典型的なパターンを鈴木庫三が踏襲していたことがわかる。
そのような鈴木の思想信条は公平な社会の創造であった。貧しいものと富めるものとの差異を意識せざるを得なかった。だからその解消のために教育を重要視するし、資本主義の手先である出版社に手厳しい。個人的に鈴木に抱いたイメージは残された皇道派だった。ただし社会変革を求めていることに変わりがないが、暴力ではなく組織から社会から変えて行こうという意思を強く感じる。それは大学を主席で卒業したり、東京大学で学んだりしてきたことと無縁ではないのだろう。
戦後に出版界は散々鈴木を指弾してきたというが、プロレタリアの視点から公平な社会を目指す鈴木像を全く無視すれば無視するほど、まさに出版社の戦前の行いについて自己正当化の誹りを免れることはできない。
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- 感想投稿日 : 2014年10月23日
- 読了日 : 2014年10月23日
- 本棚登録日 : 2014年10月9日
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