垣根涼介「サウダージ」

ヒートアイランド、ギャングスターレッスンに続く第3段。

主人公のアキが、ギャングとして一人前になっていくストーリー。前作のギャングスターレッスンは銃器や車の説明が多く、作者の趣味に偏っていた感じがしましたが、それを読まないとこのサウダージの面白さが半減する気がします。

今回伏兵として登場する耕一は、アキの前にギャングとしてスカウトされたものの、資質不足でくびになっていた人物。その時に仕込まれたギャングの技で食いつないでいる。耕一が愛してやまないのがDDというコロンビア人の売春婦。考えなしでノ―タリンだけど愛だけは人一倍(その表現のしかたがものすごい)。この、耕一とDDの人物描写がとても面白くて一気に引きつけられます。性描写が時にグロいですが、この二人ならこのぐらいはやりそうと思うので、かえってリアルです。
それと同時にアキにもラブストーリーがあり、こちらはギャングである事を隠しながらの純愛。初めて真剣に人を愛する事を知ったアキの戸惑いや苦悩が、これもリアルに描かれています。

先輩ギャングの教えを受けながら成長するアキと対照的にますます排他的な生活を送る耕一。この二人が大きな仕事をして話しが終わりますが、結末がやや取ってつけた感が残ります。もう少し余韻が欲しかった。
でも全体的にこの作家特有のラテン的な明るさの影の暗さが良く表現されている面白いスト―リでした。

2012年6月18日

読書状況 読み終わった [2012年6月18日]
カテゴリ その他

設定が非常に面白いサスペンス。ハードボイルドな部分もあってドキドキ感も楽しめます。

ある公安の事情から親子のふりをして生活を始める、主人公の元公安刑事の中年男と全く関係ない若い男女。生活の場は寂れた貸し別荘。コテージの管理をして働きながら、公安の張ったわなにかかる獲物を待ちます。
コテージには元警察犬らしいド-ベルマンが繋がれていて、それまでいじめられて人間不信になっています。主人公は現役時代、警備犬の仕事もしていたので、この犬を懸命に世話をしてもとの警察犬に戻そうとします。

公安の罠は、とても込み入っていてわかりにくく、ここまで複雑な設定が必要なのかと思いますが、主人公の犬とのふれあいや、家族のふりをする生活の不思議さに救われながら読み進むことが出来ます。
話が佳境に入り、だんだん剣呑な雰囲気になってくると、先の複雑な設定が少しづつ解き明かされて夢中になります。最後は敵味方入り乱れての大乱闘で、かなりスカッとした終わり方。二段刷りの長編ですが、全く長さを感じさせませんでした。

最初は無理がある設定だと思いましたが、読んでいるうちに不自然でなくなり、最後は何でもアリという気持ちになる面白い本でした。

2012年6月4日

読書状況 読み終わった [2012年6月4日]
カテゴリ その他

カエル男の刑事二人が今回も事件を解決します。

オープニングに犯人が出てくるので、これは倒叙小説だとばかり思っているとあにはからんやといった具合で楽しめます。
主人公の弁護士の過去を暴くまではじっくりと進行して、なかなか読みごたえのある内容。裁判でのどんでん返しも面白い。それなのに、その後の犯人披露があまりにもあっさりしてて、拍子抜けします。設定がとても良いだけにもう少し描き込んでほしかった。主人公の過去が山場になってしまった印象だけが残ります。

どんでん返しに次ぐどんでん返しを期待しているとがっかりですが、音楽をキーポイントにして話がガラッと変わるのはこの作家らしい。音楽の造詣の深さを感じました。

☆☆☆半

2012年5月23日

読書状況 読み終わった [2012年5月23日]
カテゴリ どんでん返し

深町秋生「デッドクルージング」

かなりなハードボイルドという触れ込みで読んでみました。
これは、ハードボイルドというよりアクションと言った方がいいかも。とにかく殺し合いの連続です。

日本の近未来が舞台。貧富の差が拡大し、北朝鮮からの移民受け入れを始めてから東京近郊がスラム化し始めている。お金のためなら何でもやる連中が横行し、それを利用する政治家や金持ちが日本を牛耳ろうとしている。
妹を殺された北朝鮮の元女秘密工作員と、黒幕に操られるストリートギャングの一騎打ちが読みどころ。

スピード感があり、相手の裏をかく小気味よさもあるのに何かスッキリしない。殺し合いの凄まじさに対して動機が薄いのが原因かも。ただただ殺し合うのではなく、この作家特有のねちねちした非情さがもっと欲しかった。

2012年5月17日

読書状況 読み終わった [2012年5月17日]
カテゴリ その他

久坂部 羊「第五番」

日本だけで流行する謎の病気。悪戦苦闘する医師が、自身もその病気に侵されてしまう。それと同時に、視診しただけでその人の病気がわかってしまう、ウィーンに住む日本人医師の話が同時進行します。その間をつなげるのが「無痛」に出てきた無痛症の青年と、ウィーンの謎の団体。

ストーリー的にはありそうで無いような、ちょっとオカルト的な要素があって醒める所もあり、ウィーンでの患者の末路も必要なのかなと思いますが、さすがはお医者さん。病気の症状の表現力は生々しく、患者の様子は身につまされることが多く、特に医師自身が病気になった時の鬼気迫る様子は「廃用身」を彷彿とさせます。

理屈っぽくないので、エンターテイメントとして読むなら楽しめますが、内容が病気なので、エンタメとして受け入れにくい部分もあり万人受けしにくいという、実に中途半端な感じ。
私は結構楽しめましたが、好みは分かれるところでしょう。

☆☆☆☆

2012年5月17日

読書状況 読み終わった [2012年5月17日]
カテゴリ 医療

八神瑛子シリーズ第二段。

今回はやくざと一緒に麻薬カルテルに挑みます。
南米のカルテルは報復が残虐なのが有名。カルテルの残忍な殺し屋が日本に潜入して秘密を漏らす仲間を狙いにきます。嫌味な署長の目が光る中、千波組の若頭・甲斐と同盟を組んで殺し屋を追い詰めます。

もうこれだけでハードボイルド色満点。バンバン撃ち合い、バタバタ死にます。久しぶりにわくわくするハードボイルドでした。
でも、私としてはもっと非情さがあってもいいかなと思います。1作目に比べたらかなり過激にはなっていますが、この作家にしたらまだまだ手ぬるい。
特にクライマックスがちょっとあっけない感じ。もうすこし大暴れさせても良かった気がします。

2012年5月1日

読書状況 読み終わった [2012年5月1日]
カテゴリ 警察

一つ一つのカップルのストーリーが入り乱れ広がっていくオムニバス。キーポイントになるのが「薬」。アレルギー薬だったり毛生え薬だったりするのですが、薬をめぐって男女が憎みあいだましあう。
こう書くとなんだかわけが分からないですが、読めば分かる。とにかく良く出来ています。

仙川環の医療物は何冊か読んでいてどれも面白く、女性の医療ミステリー作者としてはなかなかのものですが、これはミステリーというより人間ドラマ。新境地を開拓した感じです。
面白いものを読ませてもらいました。

2012年4月9日

読書状況 読み終わった [2012年4月9日]
カテゴリ 医療

初めて読む作家。せっかくなので新刊を。

主人公の美月が五島列島の田舎から、行方をくらました夫を探して歌舞伎町に赤ちゃん連れで出てくるところから始まります。色々な人と出会い夫とも再会しますが、話はひょんな方向へ転がっていきます。

とても良く出来た群像もの。群像ものは、筆の力がないと安易に関係作りをしてしまいご都合主義な感じになってしまうものですが、さすが吉田修一。人と人の間に全く関係ない人がはさまって、意外な人との関係があぶりだされてくる感じがとても自然で、読んでいてわくわくします。
しかも結末は思っていたのとは全く違う方向に転がって、そしてハッピーエンド。最初から明るい感じのストーリーなので、この結末は納得です。
ダーティな部分もあり、いろんな方向でいろんな人が楽しめる一冊です。

2012年4月16日

読書状況 読み終わった [2012年4月16日]
カテゴリ その他

木内一裕「藁の盾」

この人のデビュー作らしい。

孫を殺した犯人を殺したら10億賞金をあげるというシチュエーションが非常に面白い。奇想天外ではあるけど無くもないかもと思わせる。そこから始まるサバイバルストーリーは、予想をはるかに超えたすごいものでした。スピード感がありダーティで読み応えがありました。

漫画家だけあって細かいディテールにこだわっているところがいい。刑事が持つ拳銃と犯人が持つ拳銃の種類が違うなど、きっと漫画で描く時にこだわって描き分けている部分で、作者の頭の中で映像としてある物を機種名で表現することで、とてもリアルで場面に奥行きが出ていると思う。

主人公は犯人を護送するSP。寡黙で、奥さんを病気で亡くしたことによって世捨て人のようになっている。護送する過程で考え方が少しずつ変化していくのですが、その様子がいまひとつ説明不足で、主人公の気持ちの揺れに読んでいる方が追いつかない。言葉で描ききれないもどかしさみたいなものを感じ、情景描写が新鮮で分かりやすいのとかなり対照的でした。
ただ、この後の作品の「水の中の犬」ではそこが完璧に解消されていたので、作者本人もそこには気付いていたのではないかと思いました。

とはいえ、デビュー作としては文句なく面白い。

2012年4月20日

読書状況 読み終わった [2012年4月20日]
カテゴリ 警察

香納諒一「贄の夜会」

「K・S・P」でとりこになった香納 諒一 のハードボイルドサスペンス。

もう、ほんとに大満足。ハードボイルドとしても、猟奇殺人事件を追う刑事ものとしても最高に面白く、それがひとつになるクライマックスは言いあらわせないほど興奮しました。

主人公刑事を取り巻く人間模様と、やくざに追われるスナイパーの刹那的な人生を、とにかく丁寧に克明に描いている所が一番の読みどころ。とくにお得意のドンパチシーンは何度も「もうだめか!!」とハラハラが止まりません。また、主人公刑事がかなしい過去と事件の葛藤ををひきずって妻に会いに行くシーンは、これがハードボイルドの一部分なのか?と思うほど情愛にあふれ、思わず涙が。。。
そのうえで実際にあった少年による殺人事件を題材に、それが枝葉を伸ばし思いもよらない方向に事件が展開するのは小説という媒体を最大限に生かしたストーリーで、本を閉じると同時に深いため息をつくほどでした。

私が求めている本を書ける作家をとうとう見つけた気がします。

2010年9月8日

読書状況 読み終わった [2010年9月8日]
カテゴリ 警察

今野 敏 「逆風の街―横浜みなとみらい署暴力犯係」

レビュー 久しぶりのマル暴刑事もの。武骨で熱い刑事達がみなとみらいをかけまわります。
情け容赦ないやくざたちとそれに輪をかけてやくざには容赦ない刑事達の抜きつ抜かれつは、ワクワクするし読後もスカッとします。
今野敏特有の同僚愛を前面に押し出しているものの、中に一人だけ曲者がいるというのが次作へのつなぎを感じます。

ただ、主人公の諸橋についてはもう少し状況説明がほしいなと思いましたが、それも続編であかされて行くのでしょう。

2010年8月30日

読書状況 読み終わった [2010年8月30日]
カテゴリ 警察

柚月 裕子「最後の証人」

弁護士と検察官の対決という図式ではあるけど、事件の内容がこの物語の大きな流れになっています。誰にでも起こりうる事件をここまで大きな流れにして、それを裁判という舞台で結末を迎えさせる構成は、中だるみすることなく常に緊張感を漂わせていました。

女性らしい細かい人物描写は、時に臭いと思うところもあるけどとても生き生きして、内容を盛り上げています。デビュー作の頃より色やにおいを感じられるほど表現力が豊かになって、女流作家として楽しみな存在になった気がします。

2010年8月17日

読書状況 読み終わった [2010年8月17日]
カテゴリ 裁判

久坂部 羊「神の手」上下

久々のどっしりとした医療もの。
日本における安楽死(尊厳死)の考え方を、あらためて思い直させるとても深くて意味のある内容。実際に自分だったらどう考えるか、読者にストレートに問いかけています。
「廃用身」や「破裂」のような衝撃は無いものの、じわじわと真綿で首を絞めるような怖さと不安感。政治と医療の複雑な関係。”センセイ”と呼ばれる不気味な黒幕。ぞくぞくするほど面白かった。

主人公白川だけが正気を持ち、最後まで自分を貫いていることが救いです。その白川をも普通の中年男として描かれていることが、全体の生々しさを増長させていてひきつけられます。

長さを全く感じさせない展開の早さ。今年一番のお勧めです。

2010年8月16日

読書状況 読み終わった [2010年8月16日]
カテゴリ 医療

読書状況 読み終わった [2010年8月16日]
カテゴリ 医療

藤崎慎吾「祈望」

娘と妻を少年に惨殺された夫の手記を、その息子が実際にたどるというもの。
少年犯罪とその被害者家族の葛藤を丁寧に書いてある架空のドキュメンタリーと言う感じ。確かにそれはそうなんですが小説として読んだ時、その中から新たな広がりと言うか奇抜な展開をどうしても求めてしまう。
ただ「こうでした。」という終わり方では、実際のドキュメンタリーやルポにはかなわないと思います。
作者が何を書きたかったのか、いまいち伝わってきませんでした。

2010年8月11日

読書状況 読み終わった [2010年8月11日]
カテゴリ その他

緒川 怜(おがわさとし)「サンザシの丘」

一つの殺人事件を通して、犯人のこれまでを丁寧にあばく。

事件自体は派手さはないものの、解決に至るまでの刑事たちの行動を細かく丁寧に書いているのを読むと、実際自分がその捜査本部にいるような気がしてきます。
文章がすべて主人公刑事の一人称で書かれているのもめずらしい。
それなのに犯人が何を考えどういう行動をとっているのかなぜか良くわかり、二人称三人称で書かれているのよりすっきりしてかえってわかりやすい。
こういう丁寧な本は久しぶりに読んだので、とても面白かった。
特に最後の締めの部分が全体の硬質な感じとは違い、センチメンタルだったのが意外性があってよかった。

ただ、やはり殺人時の描写が無いだけにインパクトに欠けるところはあって、全体的に平板になってしまった感じ。とくに2人目3人目の殺人は、必然性を感じさせるためにも描写がほしかった

2010年6月28日

読書状況 読み終わった [2010年6月28日]
カテゴリ 警察

岩井三四二「鹿王丸、翔ぶ」

戦国時代の京都が舞台。
鉄砲の名手で忍びの鹿王丸が、京都を支配する六角勢の武者たちを次々に仕留めていく。

とても血なまぐさく残酷な話をわざと淡々と表現しているところが持ち味なのかと思う。読んでいるとモノクロの画面が浮かび上がり、無表情の登場人物が走り回る。
人間の感情というものをいっさい表に出さず動く登場人物にかえって人間味を感じ、裏の感情がすくい取れるようでストーリーに入り込んでしまいます。

ただ戦国時代の時代背景がよくわからない人が読むと、いまいち意味がわからないところが出てくるところが難点。
そういうところの説明をもう少し丁寧にしてくれるともっと良かったかもしれないです。

2010年6月16日

読書状況 読み終わった [2010年6月16日]
カテゴリ 時代

森 功「黒い看護婦―福岡四人組保険金連続殺人」

珍しくノンフィクション。マイミクさんからいただきました。
知っている人もいると思いますが、4人の看護婦が夫を殺して保険金をだまし取った事件。
主犯の吉田は死刑判決が出ていますが、どちらかといえば全ての原因はこの吉田にあって他の人はだまされて踊らされていた状況です。

読んでいて胸糞が悪くなるのと同時に、妙な虚脱感を覚えました。女はこんなにも浅はかで自己管理能力が無いものなのかと。いくらだまされていたとしても、殺人を正当化できる思考回路は理解できない。
オウムの時もそうですが、考えることをやめた人間に未来はないということを改めて教えてもらいました。

ノンフィクションは事実をそのまま伝えると言うのが目的だと思いますが、解説で犯人の吉田は「サイコパス」(精神病質)と分析されていました。読んでいても吉田の病的なまでの金への執着心に辟易しますが、本文の中でも吉田の精神分析がもう少しなされていると、内容に厚みと面白さが加わったのではないかと思います。

2010年6月9日

読書状況 読み終わった [2010年6月9日]
カテゴリ 医療

貫井徳郎「追憶のかけら」

久々の貫井徳郎。やっぱり面白かった。
特にストーリーの中の手記の気持ち悪さは格別。
訳のわからない怖さや理不尽さを書かせたら天下一品です。
後半どんでん返しに次ぐどんでん返しですが、最初の2回目くらいは「これで終わらせたら貫井の名が廃るだろう。」と思わせます。そうしておいてのさすがの結末は、期待を裏切りません。

文中の手記は旧漢字旧仮名遣いで、慣れない人には読みにくいかもしれませんが、子どもの頃「江戸川乱歩」を夢中で読んだ私には、戦前戦後あたりの独特の言い回しが妙に懐かしく、かなり面白かった。
ただ一つ、最初から引っ掛かっていた「なぜ咲都子が結婚したのか」とう謎が、最後まではっきり解き明かされなかったのが不満です。

2010年6月9日

読書状況 読み終わった [2010年6月9日]
カテゴリ どんでん返し

冲方 丁(うぶかたとう)「天地明察」

江戸時代初期に実在した、御城碁を打つ「碁打ち衆」でありながら数学の天才「渋川春海(安井算哲)」の一生。生涯をかけて神秘の世界にあった暦を計算しつくし、改暦に至ります。

まず、時代考証の素晴らしさに恐れいります。よくここまで調べ上げられたと思いました。
四代将軍家綱の頃、戦国時代をまだ引きずりながら泰平の江戸時代を築いていこうとする武士たちの血気を、時代の流れとともにわかりやすく描かれています。
また、江戸時代の教育の盛んなところにも驚きます。
そういう中で算術の研さんが進み、その頃にはもう√やπ、代数の概念が出来上がっていました。
そんな時代の中、算術が大好きな春海がどういったいきさつで改暦に携わるようになったのか、色々な人たちとの出会いを通してみずみずしく表現されています。

読んでいると人間の想像力の素晴らしさ、努力の確かさをひしひしと感じてきます。こういう人の研究が綿々と受け継がれて、今こうしてカレンダーを見たりパソコンを使ったり出来るのかと思うと、なんだか不思議な気がします。

江戸時代に春海が見た北極星を、現代にも見る。
昨日が明日につながっていることを、改めて感じずにはいられません。

2010年6月2日

読書状況 読み終わった [2010年6月2日]
カテゴリ その他

乃南 アサ「自白―刑事・土門功太朗 」

はじめて乃南 アサを読みました。
いままで、なぜか読む機会がなく一度は手にしたいと思っていました。作品が多いので、読むなら新巻の新シリーズからと思っていたら目にした作品。

とても読みやすく面白い作品でした。
主に逮捕後の取り調べ室での土門と犯人のやり取りが中心。いろんな犯人がいて、あの手この手で自白を促す様子を、軽妙ながら的確な表現力で描かれています。特に土門のキャラクターが、刑事部屋では堅実で信頼できるオヤジさん。お家でも昭和のいいお父さんで、読んでいてなごみます。
また「おとないを告げる」など女性作家としての表現力には、ハッとした後独特の柔らかさを感じてとても魅力的でした。

時代設定が昭和55年前後という微妙さも面白い。
日航機墜落、ホテルニュージャパン火災。その少し後に映画「E.T」公開、東京ディズニーランド開園というその真っ只中にいた私などは、そんな時代考証を読むだけで懐かしさがこみ上げてきました。

刑事ものとしては刺激が足りないと思われる向きもあると思いますが、落ち着いていて無理が無く妙にリアルなのが面白い、お勧めの作品です。


乃南 アサの作品をもう少し読みたくなりました。

2010年5月27日

読書状況 読み終わった [2010年5月27日]
カテゴリ 警察

奥田英朗「無理」

群像三部作の最新刊。

登場人物それぞれの苦悶のシュチュエーションは、前にも増して痛ましいものがあるものの、前二作に比べると緊迫感が薄い。ただそのおかげか、クスリとさせられる場面が多くてそれなりに面白かった。

後半このハチャメチャな状況がどう交錯するのか楽しみだったけれど、意外にスピード感が無く、あっけなく終わってしまったって感じ。もう少しそれぞれが関係し合う状況を想像していただけに、物足りなさを感じました。

一番最初の「最悪」が一番面白かった気がします。

2010年5月27日

読書状況 読み終わった [2010年5月27日]
カテゴリ その他

雫井脩介「殺気!」

初期作品「栄光一途」「白銀を踏み荒らせ」に出てくる、剣道の達人・佐々木深紅(みく)のいとこが主人公。
とはいえ柔道やスキーとは無縁なので、前作品を読んでなくても楽しめる。

自分が不思議な力を持っている事に主人公・ましろが気づくところから物語が始まる。まぁ、こんな力を持っている人がいるというのはあり得ないのだけれど、あったら面白いなと思いながら読んだ。

青春ミステリーストーリーといった趣で、今の普通の大学生の生活が軽妙な会話と描写で表現されていて、くすくす笑いが出てしまう。とくにましろが友達とネイルサロンに行くくだりは、ネイルのこんなことよく調べたものだなと思うくらい。作者の身近に年頃の人がいるのではないかと思います。

合間に読むには軽くて面白いですが、やはり「犯人に告ぐ」みたいなシリアスで重たいものを読みたいです。

2010年5月18日

読書状況 読み終わった [2010年5月18日]
カテゴリ その他

山田宗樹「乱心タウン」

奥田英朗に似た群像もの。

セレブな住宅地に起こる小さな事件が奇想天外な方向に向かっていく。
文章のノリが面白く、そのせいでちょっと現実離れした人物も魅力的になり途中までは面白く読めます。後半山場を迎えてからその軽妙さがあだになったか、スピード感に欠け全体的にウソ臭さが増してしまった。
結末も思ったほど意外性が無く(っていうか何をしたかったのかいまいちわからない)、それまでの面白さがなんだかぼやけてしまった。

設定や構想はすごくおもしろかったから、もっと過激にやっても良かったかなと思う。本の中なんですから。

2010年5月13日

読書状況 読み終わった [2010年5月13日]
カテゴリ その他
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