アフターダーク (講談社文庫)

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レビュー : 1081
著者 :
knkt09222さん 別格3(春樹 龍 皆川博子 赤江瀑 らも 津原)   読み終わった 

10年ほど前に春樹の長編を集中的に読んで、唯一読み漏らしていたもの。
2時間程度で読めた。
wikiでは長編にカテゴライズされているが、春樹においては中編くらいと言いたいところ。
春樹自身も肩慣らし、あるいは実験のつもりで書いたんじゃないかな。

連想したのは、ロブ=グリエ、マルグリット・デュラス。
そして、デヴィッド・リンチ、デヴィッド・クローネンバーグ。
なぜって、1、カメラ・アイにこだわる手法はヌーヴォー・ロマンと共通するから。
そして、2、暴力の質がリンチの唐突さ(とりわけ「ブルーベルベット」)やクローネンバーグのフェティッシュさに通じるからだ。

カメラ・アイの効果としては、「僕」に限定しないことで別視点を同時進行できること。
そして、眠り姫に対する窃視症的な文体……川上未映子が「村上さんの小説では氷の中に閉じ込められて眠る女性というイメージが頻発しますね」という指摘は、もっともだ。
さらには、自分が知らないところで、ある人が誰かを見ている……視点を替えれば、他者が自分を見ているかもしれない、という感覚。

ところであらすじだけ抜き出すと、マリと高橋の一夜のボーイミーツガールと読まれてしまう可能性もあるが、そういう筋の裏に、たっぷりと高橋の怪しさがが描きこまれているのが、また春樹のエグさだ。
はっきりいって暴力の象徴そのものである白川は、高橋と同一人物なんだろう。
同一人物で言いすぎなら、精神における双子。
あるいは高橋が抑圧している(からこそ本人も無自覚)別人格が別人生を送っていたらという仮定の存在。
白川が中国人娼婦に「わかりやすい」暴行を加えるのに対し、たぶん高橋はエリに「わかりにくい」暴力を加える……薬で朦朧としているエリを「アルファヴィル」に連れ込み、性交することで相手が決定的に損なわれるかもしれないと気づいていながらも「知的好奇心」ゆえに寝る=損ねる。
さらにはそれを悪いことと自覚しているかどうかわからないまま、妹のマリにまで「知的好奇心」を抱き始める。
無自覚の悪魔というか。誰もが悪になりうる・悪をなしうるというか。
セックスが往々にして相手を損なうという感覚は「風の歌を聴け」にも散見されるし、「ノルウェイの森」は全編そのテーマと言えるし、「ねじまき鳥クロニクル」あたりでは性と国家のシステム的な暴力に注目を始めるし、やはり毎度同じテーマを視点をずらしながら掘り下げているという感じ。

あと面白いなーと思ったのは、元女子プロレスラーのカオル。
「海辺のカフカ」のトラックドライバー星野青年と同じく、無駄に知的じゃないし無駄にスノッブじゃないし無駄に示唆的な言葉を吐いたりしない、非春樹的人物。
またコオロギという女性が使う関西弁が妙に偽物っぽくて、いい味になっている。
こういう人物が「1Q84」や「騎士団長殺し」にも出てくれば、登場人物全員春樹の分身、というスノビズムから逃れられたんじゃないかなー。

最後に。姉妹が抱き合って、という妹が姉に抱きついて眠っている、彼女らは家に護られている、という絵は、このうえなく甘美だ。

「多崎つくる」と同じく、大絶賛はできないけれど、どこか引っかかる作品だ。

レビュー投稿日
2019年5月15日
読了日
2019年5月15日
本棚登録日
2012年10月13日
2
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