少年愛文学選 (917) (平凡社ライブラリー お 30-1)

制作 : 高原英理 
  • 平凡社 (2021年4月26日発売)
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感想 : 5
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古本価格が高騰しているので手に入れていないが『無垢の力』をベースにして選ばれた作品群なのだろう。
『無垢の力』を文庫化してほしいなあ。
編者あとがきに《少年が、愛される客体としての性を知ることで、国家的暴力・家長的暴力を批判しうる「美しい弱さ」という価値を発見する》とある。
こんな価値を提示してくれる評論を、読みたいのだ。

単にカワイイなあ(萌)、ということではない。
近代日本文学にこういう脈があったのだ、ということを明示する、意義深い仕事だと思う。
十代で足穂を読んで珍紛漢紛なまま迷宮に憑かれた。
当時の私にこの本を渡してあげたい。(いや二十年かけて我流で読んできたのも、また意義あるだろう、と思いたい。)

■夕化粧 山崎俊夫 1913 ……★陰間の少年ふたりが「青い毒」に犯されきる前に心中。「おとななんかになっちゃほんとにつまらないやねえ」「だから僕はこういううつくしい夢を抱いたまま、だあれも見ないところで死んでしまいたいよ」といった会話の口調が素敵。ツイッターで検索すると山本タカトや甲秀樹の美麗なイラストもヒットして嬉しい。

■口ぶえ 折口信夫 1914 ……★岩波文庫で「死者の書」とセットになっているので気になっていたが、ようやく。これは題材もさることながら、何よりも文体の凄みだ。この文体で描かれるだけで、学校が、水泳が、ひとり旅が、こんなふうに見えるとは。「(前篇終)」というのも夢想を掻き立てられる。……ところで足穂が江美留という主人公の名前を使いたくて「弥勒」を書いたと自註自解していたが、それに匹敵するくらい「漆間安良(うるま・やすら)」という名前は決まっているな。

■乱歩打明け話 江戸川乱歩 1926 ……随筆。既読のはず。不純な性的関係なしのプラトニックな関係の思い出。こういう人だからこそ小林少年を創り出したんだろうな。全集で既読のはず。

■稚児殺し 倉田啓明 1915 ……「わが屍に化粧する ―倉田啓明綺想探偵作品集―」(書肆盛林堂)という2016年の300部限定の作品集に、西村賢太が「異端者の哀しみ」という解説を寄せているらしい。どころか、龜鳴屋(かめなくや)の2003年「稚兒殺し(普及版)」には皆川博子が旧字旧仮名で「華は毒あつてこそ美しいが、倉田啓明にあつては、我が身にありあまる華麗な毒に早々と蝕まれ、世人の属目の的となる前に、まつたき開花を待たずして萎え朽ちたといふべきか。」と序文を寄せているんだとか。……中二病という言葉は嫌いだが、この作品にはどうしてもその言葉を当てはめたくなる。腹を割いた血で手紙を書くとか村山槐多「ある美少年に贈る書」と同趣向で、どうしてこの種の人はこういうことをしちゃうんだろうか、と笑ってしまう。むしろwikipediaの記事のほうが面白い。

■少年の死 木下杢太郎 1916 ……時代を考えれば、かなり映像っぽい描写。詳述される煩悶に対し、死体の描写のあっけなさよ。

■彼 武者小路実篤 1908 ……文体からして、笑っちまうほどの真面目さ。高校当時「友情」を読んだが大仰さについていけなかった、そんな自分を怪しんだが、いまは判る。貴族的な生活あってこその生真面目さは、もはや異国の異文化を読むように読まなければ。しかしこの愚直さが時を経て学生運動の自己批判などに繋がっているのかも。

■RちゃんとSの話 稲垣足穂 1924 ……★既読。というか初めて読んだこの手の小説だろう。高校当時は足穂の小説全体が暗号のようだったが、一連の文化の中に位置づけると、判ると同時にさらに良さが増して感じられる。

■燃ゆる頬 堀辰雄 1932 ……★既読。もちろん本でも読んだが、wisという人の朗読podcastが素敵で、何十回も聞いた。

■沈黙の人 大手拓次 1908 ……尻切れトンボな話で、詩人らしい。

■ある美少年に贈る書 村山槐多 1915 ……★詩? 怪物と自称し、美を吸う悪魔とも自分を見做す者から、こんなラブレターを貰ったら、怖すぎ(笑)

■少年(抄) 川端康成 1948 ……★50歳で全集を出すにあたって19歳当時の日記を断片的にピックアップ。目移りしすぎていて笑う。《清野、小泉……? 私はもっともっと愛に燃えた少年たちとルウムをつくりたい》とか、このヤバさが川端だ。

■夕映少年 中井英夫 1985 ……★既読のはず。創元ライブラリ全集5巻のタイトルにもなっている。田中貞夫の死に付き添って、小説化。素晴らしい挽歌で、中井英夫自身が希求したいわゆる「眠るように美しい小説」になり得ていると思った。

■贖 塚本邦雄 1971 ……たった1ページでこの凄み。男の毒殺屍体を葬り終わって、風が。

■未青年(抄) 春日井建 1960 ……短歌。

■青色夢硝子 高原英理 1987 ……編者自身の。とはいえ、1985年に「少女のための鏖殺作法」で第1回幻想文学新人賞を(本名で)取ったあと、1996年に「語りの事故現場」で第39回群像新人文学賞評論部門優秀作を取ったというから、最初は加藤幹也名義だったんだろう。それにしても1987年に発表した短編を、2018年「エイリア綺譚集」に収録した上で、本書にも収録するとは、そうとう大事な作品なんだろう。30年以上生き続ける作品、それだけで意義深い。加藤幹也名義で、国書刊行会「書物の王国4月」で既読。

(■編者解説 高原英理 ……三島由紀夫の挿話から始めて、用語の整理をしつつ少年愛の歴史。男色。少年愛。衆道。支配と被支配。近代に発生したプラトニック・ラブ。稚児への崇拝。憧憬。念友。念者。稚児。若衆。明治政府の「国家」構築の際に男性は兵や家長になることが望まれた。薩摩武士の男色、女性蔑視。硬派と軟派。「賤のおだまき」。江戸の武士的男色への批判として、文学上の少年愛。愛される自己。無垢の自己を想像的に自己愛。《少年が、愛される客体としての性を知ることで、国家的暴力・家長的暴力を批判しうる「美しい弱さ」という価値を発見する》。明治末から昭和半ばまで。一時期だけ。各作品解説。)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学 /日本海外 アンソロジー
感想投稿日 : 2021年7月20日
読了日 : 2021年7月20日
本棚登録日 : 2021年4月30日

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