サザエさん旅あるき

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2001年7月1日発売)
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感想 : 16
5

多くの旅エッセイにありがちな、
(あるいは、旅の報告SNSにありがちな...)
「旅は辛いし大変なんだけど、私ってほら、日本でずーっといるのは、できないような人なんですよねえ。
なんていうか、旅に生きるっていうの?ねえ?
なんていうか、こうやってさすらって、世界を見るのって、価値のあることだよねえ」
というような、読む側からするとゲンナリするような(笑)。
そういう臭みが、イッサイない、ふわふわした素敵な一冊。
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昭和62年に新聞連載されたマンガ、というか漫画風エッセイ。1987年ですね。
長谷川町子さん「サザエさん旅あるき」。朝日文庫。
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名著「サザエさんうちあけ話」もそうですが、この場合の「サザエさん」とは、最早、漫画「サザエさん」世界内のフグ田サザエさんのことではありません。
まあ、ほぼ意味のない枕詞というか、要は「長谷川町子さん」という意味ですね。
長谷川町子さんは、1920年生まれで、1935年になんと15歳でプロ漫画家デビュー。
1946年、26歳から「サザエさん」連載開始。
1949年、29歳。「サザエさん」は朝日新聞に連載の舞台を移します(それまでは地方紙だったようですね)。
ま、つまり、色々ご苦労はあったでしょうが、30歳くらい以降は押しも押される日本を代表する漫画家さん。
ご結婚を一度もされてないので、言ってみれば、
戦後最大にして最初の、細腕一本、完全自立の、高額所得な職業婦人だった訳ですね。
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その長谷川町子さんが、1987年ですから、67歳の頃に連載した、「いろんな旅について、あるいは、人生や老いを旅に見立てて描いた、軽いタッチのマンガエッセイ」です。
実に色んな海外に行かれています。
それはつまり、自由業で、お金もあるし、夫や子供と言う拘束も無いでしょうからねえ。
なんですけど、長谷川町子さんの作家としての個性なんですが、金持ちだから、自由だから、職業婦人だから、
文化教養があるから、というような、「プライド」や「見下し」、といった「臭み」が、ほんとにない。
なんというか、生臭さが無いんですね。
お刺身ぢゃなくて、藪の蕎麦をつるっと食べたような後味の良さ、エグさの無い歯ごたえ。
(ああ、藪の蕎麦、長らく食べてないなあ。行きたいなあ。でもちょっと、お高いんだよなあ。)
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どこに行っても誰に会っても、
「とんでもない悪人だ!酷い場所だ!」
とののしることはなく。かといって、
「これこそ素晴らしい!日本は、日本人は、こうなるべきだ!」
とのたまうこともなく。
はたまた、冒頭挙げたような、自己陶酔系の、自己愛表現に陥ることも、無い訳です。
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で、なにがあるかっていうと、つまりは、
「どーでもいい、あははなオハナシ」
なんですね。
●詰まらぬものを買ってしまった。
●宿でこんな失敗をしてしまった。
●こんな変わった人がいた。
●こういうリスがいて、可愛かった。
みたいな。
何にも考えずに、ぼーっと読んで、きっちり軽く、きっちり楽しい。
でも、何の役にも立たないし、感動に撃たれてしばし唖然とするようなことも、ゼッタイありません(笑)。
言ってみれば、オチはあっても、意味はない。教訓な人生訓なんてものはイッサイない(笑)。
そんな素敵な本。
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でもこれって、すごいことだと思います。
「どーでもいい、あははなオハナシ」
のつもりで、書き手の側は書いていても。
読み手の側で読むと、なんだか結局、自慢げな自己愛文章になってたりするんですね。
そこンところが、ホントに長谷川町子さん、すごいです。
長谷川町子さんの、エッセイ風漫画と言うか、漫画風エッセイというか、まだまだ読んでみたいものです。
(でももう、あまり無いのかなあ)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画:お楽しみ
感想投稿日 : 2016年7月30日
読了日 : 2016年7月30日
本棚登録日 : 2016年7月30日

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