明仁天皇と平和主義 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2015年7月13日発売)
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感想 : 9
4

今の天皇陛下のことは、けっこう好きです。
好みの問題なんでしょうが。

見た目とか、そういうことではないんですが、
昭和天皇が亡くなって、今の天皇、明仁天皇さんになってから、
報道で流れる天皇の姿と、天皇の発言を見ていると。

無論の事、ある程度、パターンだし、良くある言葉でしかないのですが、
その向こうに物凄く強固な「リベラル志向」を感じるんですね。
もっと具体的に言うと、

●第2次世界大戦、太平洋戦争。それを、きちんと日中戦争まで含んだ「十五年戦争」と把握するべきだ、という志向。

●その過去について「日本は悪くなかったもんね」というニュアンスを一切、許さない雰囲気。

●といって、自虐的になりたいだけではなくて、「何があったのか」という事実を学ぶ重要性の上で、「同じようなことを繰り返さない」ことだけを強調する姿勢。

●はしばしで「今の日本国憲法を変えるなんて、ぜんぜん理由がわかりません」という空気感。

●「自分が死んだら大喪の礼は簡素に」「とにかく災害現場に行き、低姿勢で話を聞く」「奥さん(美智子さん)を大切にしている感じ」などから匂う、「マッチョ嫌い」「権威権力嫌い」。

と、言うようなところでしょうか。

もっと言ってしまえば。
安倍政権が、大手マスコミをも委縮させる権力を振い、
新聞は人々に見放され、ネットとテレビの刹那な情報が猛威を振るい、
野党が求心力を失って、選挙制度が自民党有利に固定されてしまっている現在、

「潜在的な精神として「アンチ安倍」を醸し出しながら、凛とした姿勢も失わない、日本で最も影響力があり有名な人物」

というのは、実は天皇陛下なんぢゃなかろうか。


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という訳で、何か一冊、今の天皇さんについての本を読んでみようかなあ、と。

どうやら、学習院関係の学者の方が書いた新書です。

緩やかな、明仁天皇の伝記、でした。

食い足りない部分としては、伝記としての執拗さがあまりなく、かなりな部分は過去の新聞記事と小学生のころの文章から推論しているだけ、みたいなお手軽さはいまいちでした。
まあでも、分量そのものが軽い本なので、そこはまあ、そういうものかなあ、と。
ブックレットみたいなもの。

そして、冒頭からとにかく「明仁天皇ってさ、いやあ、素晴らしいですよね」という立場が明確に貫かれちゃってるので、その辺のこう、若干、提灯記事のような軽さもありますね。

ただ、面白かった部分もありました。

やっぱり、明仁天皇の発言をそれなりにトレースしていくと、とってもよく勉強して、そして考えてはるなあ、と。

●象徴天皇って、どういう役割をして、どこまでしていいのか。政治的でないところに立ちながら、とってもクリエイティブに、考えながら「天皇像」を作ってらっしゃる。

●多くの問題について、学者さんに聞くなどして、ホントに勉強してはる。3.11.直後に、地震や救援や原発について、ものすごい勉強してはった。

●実は、いろいろな公務で相当に日常的に忙しい。それに加えて、「自分で希望した仕事」を積み上げている。そしてそれを、びっくりするくらい美智子さんと分かち合って共同作業している。

●当然ながら「天皇制そのものの是非議論」「かつての戦争の責任の、天皇の有無議論」についても、「当然、議論はあってしかるべき」という、タブーを作らない姿勢。はっきりと、「言論の自由は大事である」と明言されている。

●戦時中に既に、少年の明仁さんが軍人に「どうして特攻作戦をとるのか」と素直に質問した挿話は面白かった。


と、いうような細部がちょこっと勉強になったのは、面白かったです。

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ご高齢なので、今と同じ活躍が長くはできないでしょう。
生前退位云々のありますが、希望としては、きっと、お子さんたちにも想いを共有しておられることですね。

この先も、日本の社会の右傾化、ナショナリズムの暴走を止める最大の勢力に、天皇家がなってくれるのでは、という、素敵な皮肉が真実にならずに済むと良いのですけどね。

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昔、10年くらい前に、一度だけ、車の中で通過する「生天皇夫婦」を見た事があります。
沿道の僕らに微笑みながら申し訳なさそうに頭を下げておられました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 電子書籍
感想投稿日 : 2016年7月27日
読了日 : 2016年7月27日
本棚登録日 : 2016年7月27日

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