私の記憶が消えないうちに デコ 最後の上海バンスキング

著者 :
  • 講談社 (2014年11月28日発売)
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★▼「私の記憶が消えないうちに」吉田日出子。講談社。2014年。今は歌舞伎など広範囲の演出家として名高い串田和美さんが率いた劇団、「オンシアター自由劇場」の看板女優だった吉田日出子さんの語りおろし自伝。2007年くらいからだったか、「高次脳機能障害」(だったと思う)という脳の障害を負って、記憶が時折なくなっていくという症状と闘っていることがタイトルにもなっています。

▼どうしてだったのか分かりませんが、1994年前後に「もッと泣いてよフラッパー」と「上海バンスキング」を渋谷のシアターコクーンで観劇しました。そのほかにもその頃にはいくつか(本当にひどい話ですが、食べ物を万引きして食べながらでも)なけなしのお金をはたいて演劇を観に行って、多くの舞台がもう本当に幸せな記憶として残っているんですが。その中でも、「もっと泣いてよフラッパー」と「上海バンスキング」は本当に衝撃だったんです。オモシロかった。そして感動した。笑った。泣けた。
 人生の演劇体験の、ここまでのぶっちぎりの1位2位。というかもう、人生全体の体験でもトップクラスというくらい、全身全霊で魅了されました。そしてそのど真ん中でギラギラと、きらきらと、燦然と輝いていたのが吉田日出子さん。
 もうこればかりは演劇体験の切ないトコロなんですが、あの輝きを(僕はそのかなり終盤をわずか2度見ただけなんですが)観たか観てないかで、もうなんというか分かち合えるものが分断されてしまう。

▼映画「社葬」や、「男はつらいよ・寅次郎の告白」は、実は個人的には「吉田日出子さんが観れる」という楽しみの体験だったり。吉田日出子さんのファンか?と言われるとYESというのはちょっと違和感があるし、なんというか、吉田日出子さんという個人が良い人なのか悪い人なのか、そんなことは分かりません。(この本を読んだ限り、まあかなりエゴの強い(笑)、そして決して誰にでも優しいタイプの人ではなかったように推察されますが(笑))
 ただただ、「うわー、人生ってこんなに素敵な、陶然とするもの、わくわくと感動と出会えるんだ!しかもナマで、温度や空間を共有して、出会えるんだ!」という舞台の中央で。眩しいくらいに演じて歌って踊っていたんですね。それだけで、うーん、上手く言えませんが、道ばたのお地蔵さんに手を合わせるような、そんな感謝の思いを、自分が死ぬまで忘れることは決してない。…と思える人物です。(なんだかそれはそれで、言われた吉田日出子さんとしては表現者としてもの凄く”本望”なのではという気がしますが(笑))

▼そんな思いがあって読んだわけなので、そんな思いが無い人が読んだら(ま、無い人は読まない気がしますが)どう思えるのかは分かりません。
 個人的にはオモシロく怒濤に読み終えました。60年代からの演劇、小演劇の世界の”空気感”の変遷としてもオモシロかったです。

▼あくまでネットで分かることで言うと2021年現在77歳でご存命とのこと。本当に「いるだけ」でいいからまたお芝居を観てみたいなあ、と思いました。

▼あと、1988年に公開された、串田和美監督、吉田日出子主演の映画版「上海バンスキング」。あのDVDを買えるのなら、うーん、2万円くらい出してもいいのだけれども。劇場公開時に駆け付けて観ました。
そして今、記憶が蘇って。そうか、まず高校生のときにあの映画を劇場で観たんだ。そして大感動して、演劇を観に行ったんだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本:お楽しみ
感想投稿日 : 2021年7月18日
読了日 : 2021年7月17日
本棚登録日 : 2021年7月17日

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