要するに、男女の物語なんだなー、というか、夫婦の物語なんだなー、と。
更に言うと、男女、あるいは夫婦、ということを考え悩む男性の物語、というべきか。
中巻も、するすると読み終わりました。
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何だか微妙な感じになっていた、妻・クミコがある日、帰らなくなって。
呆然としていると、仲の悪い義理の兄に呼び出されて、もう別れろと言われたり。
そうこうしていると、妻から手紙が来て、不貞の告白とお別れの手紙。
なんとも、内側から爆破されたような、木端微塵な主人公。全然疑っていなかったんですね。
どうせ無職だし、イヤなことばかりだし、誘ってくれる女性もいるから、海外にでも行ってしまおうか。
…と、思うんだけど、
なんとなくそれでは逃げのような気もするし。
やっぱり妻のことは愛しているし。気になるし。
どこか釈然としない。
その上、最近かかってきていた、いたずら電話のような謎の電話が。
「あ、あれは、妻の声だったんだ」と気づいて。
何かしらか妻の側のSOSサインだったんだなー、ということなのか。
なんとも理屈で論理的には言えないけど。
不信と断絶とすれ違いばかりに思えた世界が。
まだ何か闘って勝ち取るべき、守るべき何かがあるんじゃないか、と。
どこかしらか、タラの大地に誓うスカーレットのように決意した主人公であった。
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という感じなんです。
そう書くと、なんだかどうにも私小説的な箱庭四畳半な近代日本ブンガクのようですが。
上記は、
「ほんとに煎じ詰めれば」
と、いうことなんですね。
それに、
●ノモンハン事件の生き残りの体験談とか、
●その体験談をなぞって、主人公が井戸に入って餓死しかかったり。
●新宿で10日くらいひたすら人々を眺めていたり、
●目が覚めたら全裸の美女が寝ていたり、
●高校生の少女に殺されかかって、更にその子と交流して抱擁したり、
●夢の中で妻と、そして謎の美女と性的なことになって、壁を通り抜けてしまったり。
もう、とにかく、パーツパーツとしては、実に予断の許さない、ジェットコースターな奇妙な展開。
なんですけど、結局は、男女であり夫婦であり。
そういうことに代表される、自分と、自分以外の人、みたいなことのもだえ苦しむお話なんだよなー。
…と、言う感じで。
そういう、何ていうか、「そういうテーマだから面白い」っていうことでもないんですが、
煎じ詰めれば、文体と文章で。
でもそれが紡ぎあげていくお話自体、色んな突込みがありつつも、飽きさせずに読ませてくれます。
そして、実際には、スカーレット・オハラに起こるようなドラマチックな事件がある訳ではないのです。
けれども、この第2巻の終盤で。
絶望とか不信とか無感動とか断絶とかっていう気分から、忽然と熱く立ち上がる主人公の思いが、正直、ちょっとグッっと来るんですよね。
そこまでに積み上げてきた世界観があるからなんですけどね。
そこでグッと来ちゃったら、まあ、もうそれだけで読む甲斐があった、愉しき読書だった、ということなんですね。
しかし、ここまでの感じとしては。
タイトルも、相変わらずSF風だし。
仕掛けの数々が当然あって。奇妙な夢やら、加納マルタ・クレタというヘンテコな名前の謎の美女やら、いろいろ見せてくれるんですが。
そんな飾りというか、転がしの数々はありますけど。
結局のところは、割と狭く深く、深い心理の物語っていうか。
そして、暴力的な現実、という素材っていうか、観点っていうか。
「ちょっと村上春樹作品としては、救いっていうか、ファンタジック風味が足らなくない?」
そういう味わいの挑戦。
暴力的で理不尽で不条理な世界。
そこでともすれば、バラバラの孤立と不信と孤独に、台風に晒される華奢な樹木のような個人が、どうやって顔を上げていくのか。
そんな風に味わうこともできるなあ、と思ったりしています。
そこのところで、最終的な風景が、そこそこ男の子的な、闘いの物語な旋律すらしてくるくらいですね。
もちろん、全ては、半ば観念的であって。
半ば観念的なのに、物凄く読み易い平易な文章であって。
平易な文章であると同時に、実に多彩なたとえと機知に富んだ、飽きさせない語り口。
(ま、癖があるとも言えるし、気障とも言えるので。野菜や魚と同じで、好き嫌いはあると思いますけど)
文章と語り口。そして語る内容なりテーマ。
全てがなんていうか…、半ば戦略的にして技術的に完成度が高いなあ、と思います。
(でもそれが、半ば、でしかなくて。残りの半ばは、
「書きながら展開を決めているんじゃないか?」
と、いうような。
ある種のフラというか、不定形さとか瑞々しさに満ちている。
そんなバランスこそが、小説を書く人として、最も戦略的なんじゃないかなあ、と思います)
面白いですね。僕にとっては。
下巻も一気に読んじゃいそうです。
- 感想投稿日 : 2014年8月6日
- 読了日 : 2014年8月6日
- 本棚登録日 : 2014年8月6日
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