明暗 (新潮文庫)

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レビュー : 107
著者 :
koba-book2011さん 電子書籍   読み終わった 

何と言う小説。

水村美苗さんの「続明暗」を読みたいな、と思い再読したのだけど。

 此処に津田という男がいる。主人公である。会社員で、まずは悪くない勤め人で、30前後のようで、新婚である。その妻が延子。
 粗筋で言うと、津田が胃腸らしき病気である。大層ではないが数日入院して手術が必要だ。会社と、世話になっている親戚筋に挨拶して入院。手術する。
 津田の家庭はやや使い過ぎで、毎月の給料では足りない。京都の親が仕送りをくれていたが、仲違いしてそれが途切れた。金策に困る。

 延子は新婚で、津田との愛情、夫婦のあり方にぼんやり不安がある。
 津田の妹、秀子。津田の上司の吉川氏の奥さん。…などが、「延子は、いまいちな嫁ぢゃないか」、と言う。
 津田はプライドと保身だけではっきりしない。ふらふらする。そうして無事に退院する。

 退院したら、吉川の奥さんが、「湯治の旅に行け」、と、言う。津田が独身時代に惚れ抜いて、振られた女、清子。その清子会いに行け、と言う。
 津田はかつて、吉川の奥さんの紹介で清子と交際した。そして、津田は清子に振られた。清子は津田を振って、別の男と結婚した。で、津田もしょうがなく延子と結婚した。延子は、そんなことは何も知らぬ。
 その清子が今、ちょっと病気で、その温泉宿にいる。吉川の奥さんが、津田に「行け」、と言う。なんで振ったのか、聞いてこいと言う。会社は夫に言って、休みにしてやる。金はあげる。延子にはタダの湯治と言え、と。その間に延子には私が「教育」してやる、と。

 津田は情けなく言いなりになる。湯治に行く。清子と再会する。色々会話をはじめる。どうなるどうなる。 東京の延子には何が起こるのか。怖くて不安な心理小説である。

 だが、そこんとこで、漱石は死んでしまう。
 未完。おいおい!!

 というわけで。
 会社員と専業主婦の夫婦が、ちょっとやりくりに困りながら、夫が胃腸らしき病気で入院して退院して湯治に行く、という粗筋(笑)。

 それが、最高に面白い。

 もう、心理描写が全て。
 ヒトというものは、プライドと競争と、人情と依存と見栄と、世間体と愛情に、揺れて揺られて高瀬舟、というマコトに情けなくも可笑しくて、ゾッとするものである、というサスペンス。
 津田が妹と、妻延子の噂をしている病室に、当人の延子が、ガラッと入ってくるところなど、単純に小説的な痛快さ、タマラないカタルシスがある。
 うーん。文章のテンポ、格調、日本語の快楽。心理を解剖して観察するのだが、淡泊端然、偉ぶらず、の諧謔精神。
 好みとしては、至高の小説。

 10代の頃に漱石は、夢中に読破したのだけど、40になって改めて舌を巻く。

(脱線すると、漱石初体験に「我輩は猫」は、最悪。アレは第一章ダケならともかく、通して考えれは漱石最悪の退屈小説です。初めは「坊ちゃん」「こころ」あたりが良いと思う。オモシロイから。)

 25年ぶりくらいの二度目の体験、この歳になってなお更に、愉快興奮な読書だった。
 初の青空文庫。タダっていうのもヘンな心地ではあるけれど。

レビュー投稿日
2013年3月3日
読了日
2013年3月3日
本棚登録日
2013年3月3日
4
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