戦争と平和(二) (新潮文庫)

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レビュー : 34
著者 :
制作 : 工藤 精一郎 
koba-book2011さん 本:お楽しみ   読み終わった 

「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」
「ハチミツとクローバー」「3月のライオン」
「天然コケッコー」「まんが道」
「リアリティ・バイツ」「卒業」
「北の国から」「ふぞろいの林檎たち」

そんな名作たちを、ぎゅっと濃縮したような味わい。

#

あれから、たったの数年…10年も経っていない。

若く、世間を知らず、獏とした不安と、根拠のない傲慢に包まれて。
家族や友人を中心とした狭い人間関係が、世界の全てだと思っていて。
傷つきやすく、すぐに無邪気な幸せと笑顔に戻れた、軽やかに危なっかしく踊りながら、てぶらで疾走する。そんな若者たちが。

社会に出る。社交をする。新しい人間関係。変わっていく仲間。変わっていく自分。老いていく親。

人を愛して、愛されて、愛されず、孤独と金銭と地位とに悩まされ。居場所を見つけたり、居場所を探したり。享楽に溺れ、自堕落に目をつぶり、「わたしはまだ、本気出してないだけ」。取り返しのつかない失敗と、消えない傷を負って。
「こうありたい」と思った自分が、「そうなれない」ことにぶつかって。あがいて、受け入れて、いじけて、立ち直り。

親と、上司と、ぶつかり、あるいは離別して。
永遠の友情と思ったものが、ただの甘えた馴れ合いだったことを思い知らされて。

そして、深い闇を、ヒトの悪意を知らされて。自分の悪意も見つけてしまって。

裏切り、裏切られ、比べられ、順位をつけられ、金や地位や美貌という暴力に侵されて。

つるつるしていた輝きを失い。手で触れる全ての醜さと無秩序さと不条理さを思い知り。
その代わりに、目に映る全ての愛おしさと美しさを再発見して。

そうして重く苦しく、おずおずと怯えながら、それでも立ち上がって前を向いて歩き出します。若かったあの日には、知ることも無かった大きな勇気を、ポケットに入れて。

そしてもう、あの日のように、だらだらと毎日のように会うことはなくなった、数少ない本当の友人との想いを胸にして。

#

うーん。なんて豊穣な「戦争と平和」。第2巻。
もうこれで全編の半分が終わってしまっただなんて、寂しい限り。
ずーっと読んでいたいような小説。

かつて「戦争と平和、世界最高の小説」と簡潔に評したのが、確か井上ひさしさんだったか。

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以下、長々と、完全に自分のためだけの備忘録。
当然ネタバレです。

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第1巻の終わりは、アウステルリッツの戦いでした。
主人公は大まか、3人の若い男たち。

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ピエール・ベズウーホフは、庶子からまさかの財産相続を経て、夢見がちで不器用で女にもてない青年だったのが、一夜にしてロシア有数の資産家になった。
翌朝から彼の周りには手のひら返しのチヤホヤモード。
全ロシアが、全ヨーロッパが彼に敬意を払い、彼を賞賛し、彼との婚姻を望んだと言っても過言ではなく。
その中で、ひときわ名門で美貌なエレンと結婚。それも、周囲に状況を作られて押し切られたような。
本人は、彼女を愛しているつもりだったけれど、遊び好きでパーティ好きでイケメン好きでプライドの高いエレン。結婚は上手く行くはずもなかろう…という感じで1巻終了。

アンドレイ・ポルコンスキイは、貴族の長男で軍人で、知的でイケメンで実務家で、ピエールの親友。
ありきたりな妻との結婚生活と、社交界に倦み、戦場のリアリズムを求めて司令官付きの優秀な副官として従軍。
アウステルリッツの戦場で勇戦、だが敵弾に倒れて捕虜となる。
信じていたロシア軍の大壊滅とともに倒れた彼が見つめたアウステルリッツの青空は、アンドレイに全てが虚しく儚いという幻滅を味合わせてしまう。

ニコライ・ロストフは、同じく貴族の長男。より若くより活動的で、より知的ではない。お坊っちゃん。素朴な憧れとプライドで従軍すると、初陣で何もせぬまま馬を撃たれ落馬負傷。だが、「奮戦した名誉の負傷」と他の多くの将校と同じように嘘をついて去勢を張っている。

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1805年のアウステルリッツの敗戦後、欧州の国際政治状況は混迷の末に、大まかに言えばロシアは敵だったフランス・ナポレオンと同盟することに。
そして、かつて同盟してナポレオンと戦ったイギリスを敵に回す。
ナポレオンが宿敵イギリスに向けた経済戦争、「大陸封鎖」に加わります。
それから5〜6年の間に、トルコなど各地でロシアは戦争を続けながら、皇帝アレクサンドルは、今風に言うと「民主化政策」を選択します。

ルソーは1700年代に既に言論界に共和制、民主化の1石を投じています。フランスは1789年〜ナポレオンの治世に至るまで、共和制、封建制の打破を進めています。イギリスはいち早く産業革命を成し遂げ、植民地を効率的に搾取する経済政策優先の為に、自主的に王権制を形骸化させています。その植民地の中でアメリカは1776年に独立宣言、「王のいない国」を披露しています。

物語の1805年〜1810年は、欧州の大勢はまだ王様がいる封建制、ロシアは農奴で溢れていましたが、知的な進歩派、特に若者たちの精神は共和制を眩しく見上げていたんですね。

と、言う1805年〜1811年くらいかな、が、第2巻の時代背景です。

若者たちは、それぞれに傷ついて。

愛情。恋愛。暮らし。結婚。家計。仕事。家族。

などなどのリアリズムの茨に絡め取られもがいて。
血を流しながら、否応なく大人になっていきます。

200年後の、日本という国でも、全く変わらない若者たちの物語。

そして、どうやら第3巻から、1812年のロシア戦役。
70万の兵を率いた軍事天才ナポレオンを迎え撃ったロシア軍が、100万を超える死者を出し、モスクワを燃やし尽くした果てに、冬将軍と共に、不敗神話を誇るナポレオン軍を壊滅させた、悲惨な戦争に突入していくようです…。

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ピエールは、兵役からも仕事からも貧乏からも、自由な身の上。
社交界の女王に君臨する美しき驕慢な妻とともに、連日のパーティに社交に馬鹿騒ぎに明け暮れます。
ですが、根が真面目なピエールは、そこに染まりきれず。
常日頃、人生とロシアと人間の真実について右往左往して悩み明け暮れています。
今風に言えば、「飲み会でノリが悪い面倒な生真面目男」なのです。

更に若くして巨万の金持ちになってしまったので、なんでも周りがやってくれます。彼には、何もやることがないのです。そして、現実的な政治や外交の泥水に身を投じるつもりもさらさらないんです。
なんて純粋で、なんて心優しい、そしてなんて面倒くさい実務能力がゼロの青年なんです。

そして、あっというまに妻と心はバラバラになります。
妻エレンは、難しいことを考えるのは好まず、社交界に君臨し、悪ノリと虚栄と華美と色恋と肉欲に、あくなき飢餓を持てる人なんです。

エレンはどうやら、色男と浮名を流し、ピエールは俗悪な社交界では、ひそひそと、「知らぬは亭主ばかりなり、あの変わり者の大金持ち」と蔑まれるポジションに。

ピエールがまだ財産を持たない青年だったころの、バカ遊び仲間であるドーロホフが、どうやらエレンと乳繰り合って、彼のことを笑いものにしている。
ピエールは、頭に血が上ると止まらない激情家。とあるパーティで勝手に激怒してドーロホフに決闘を申し込む。

決闘の日。ピエールはもう、自分も含めて全てが愚かに感じ、虚しくなっています。それでも、決闘は行う。
ドーロホフは、ピエールとは逆タイプ。ちょいワルで、クールで、危険な女遊びも朝飯前。決闘も何度もしたことがあります。
どう考えてもピエールが死ぬだろう。
ところが偶然、ピエールが遠距離から適当に打った1弾がドーロホフに命中。重傷のドーロホフが至近距離から打った一撃は、当たりませんでした。
(この場面では、ドーロホフ側の立会人としてニコライ・ロストフがいます。瀕死の手傷を負ったドーロホフがニコライに、母と妹のことを話す場面が、泣けます。ピエール側から感情移入して読んでいた読者は、ドーロホフが憎くてたまらないのですが、ドーロホフにはドーロホフの人生とドラマがあるんだ、と意外な背負投をかけられた気分。小説家トルストイ、半端ないです。圧巻です)

ピエールは、財産の半分を放り出して、妻の下を去ります。
そして、人生の真実と生きがいを求めて、「自分探し」の放浪の末に…。新興宗教に走ってしまうのと同じように(笑)、フリーメーソンに入会します。

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フリーメーソンというのは、発祥は色んな説がありますが、中世から存在した「キリスト教に縛られない秘密っぽい友愛組織」なんですね。巨大な陰謀組織みたいな説もありますが、恐らくそれは面白おかしいワイドショー的な誤解です。何より、基本はその町や村の地域単位でしかありません。

教義はご立派です。そして、ある種の秘密結社であることが謳われます。ですが、実態はまあ、今で言うとロータリークラブとかライオンズクラブとか、商工会議所とか青年会と似たようなものですね。
ジョージ・ワシントンとかアメリカの独立の騎士たちがほぼ全員フリーメーソンだったそうですね。
江戸時代、西郷隆盛さんの時代から鹿児島にあった青年会組織とか。そういうのは日本でも各地に必ずあります。
それから、例えば海外ドラマの名作「アボンリーへの道」では、近代初期のカナダの田舎町でも、青年男子限定の秘密結社というのが出てきますが、秘密の儀式があっても要は大人のお遊びで、一種の自治組織、同好会みたいなものです。

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ピエールはフリーメーソンの活動に熱中して、綺麗事の教義に基づいて、自分の農地の農奴を解放しようとしたり、色んな制度改善や慈善事業に熱中します。

この興奮と理想を高らかに謳い描きながら、やがて彼はそれに飽きていきます(笑)。そして、取り巻きがバキバキとそれを有名無実化して適当に誤魔化していきます。でもお坊っちゃんピエールはそれに気づきません。「ああ、自分は素晴らしいことをした」と思いながら、自分で何も手がけないのですぐに飽きてしまいます。

やがてまた、俗物な妻エレンも合流して、振り出しに戻ったような無為で虚しい酒と馬鹿騒ぎとパーティ三昧。ちやほや取り巻きに囲まれ、「俺はまだ本気出してないだけさ」と独りごちる明け暮れ。

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ニコライ・ロストフは、「軍」という社会に自分の居場所を見つけます。そこでは、あまり難しいことを考えることもない。苦しいことも辛いことも怖いことも、仲間とわいわいと楽しめます。金を使う暇も無く、社交に疲れるわけでもなく。戦闘以外の時間(実はこの方がずっと長い)は、マッチョな男子校的な悪ノリの遊び、ゲーム、ギャンブルの馬鹿騒ぎ。軍の規律は団体心理の美学に酔わせてくれます。

これはもう、完全に職場グループに居場所を見いだせた、ある種、幸せな若手マッチョ男性会社員の生活なんですね。

なんですが、いくつかの問題が、幸せなニコライにも訪れます。

大好きだったマッチョ上司は、組織の細かい規則に揚げ足を取られ、失脚します。

たまに休暇で実家に帰ると、従姉妹のソーニャが彼を愛して、ラブラブ光線で永遠の愛を求めます。だけど、モラトリアムを楽しんでいるニコライは煮えきらず結論を先延ばしにします。
(ソーニャはどうやら両親を亡くして財産も後ろ盾も持っていません。ニコライの実家に寄生しているんですね)

そして、ニコライの実家、ロストフ家は、商品経済の緩やかに波に対応できず、昔からの杜撰な経営で、資産が先細りなんです。なんですが、ニコライの父はもう老いて、贅沢できらびやかな生活を何も変えることができずに、頭を抱えるばかり。

そう、両親は、金と財産のために、息子のニコライに、資産家のお嬢さんと結婚してほしいのです。寄生している一文なしの従姉妹ソーニャとの結婚に反対です。
(ここのところで、人の良い両親は、「自分たちの金のために」とははっきり言いたくなくて、言えないんですね。まず自分自身を騙して、色んな理由を言います。その卑劣さ、惨めさ、ずるさが、すごく人間くさい…痛い…)

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そして、ピエールと決闘して負傷した、ドーロホフ。
ドーロホフは恐らくそこそこの財産のあるそこそこの貴族で、軍人。ニコライ・ロストフの軍人仲間なんです。
負傷の癒えたドーロホフは、ニコライの実家、ロストフ家に出入りしているうちに、なんと。
ニコライに一途な愛を貫く、資産の無い従姉妹ソーニャに、惚れしまうんですね。結婚を申し込みます。
ドーロホフは遊び人のイケメンだけど、悪人ではないし、社交界の、貴族会の、れっきとして一員。資産の無い孤児ソーニャには、「良い縁談」なんです。

ところが。
ニコライへの愛を貫くソーニャは、断ってしまいます。

そして、ニコライとドーロホフの友情も終わります。ドーロホフは得意のトランプ賭博で、復讐のようにニコライを大負けさせます。

ここの場面、ニコライが意地とプライドからずぶずぶと、足元が崩れ落ちるようにギャンブルに飲み込まれていくありさま、これも圧巻です。レフ・トルストイさん、絶対、ギャンブルで破滅寸前までいったことがあるんだろうなあ…。

実家の窮状を見てみぬふりをして、軍での暮らしを謳歌してきたニコライ。
ですが、両親から「このままでは破滅だから、家計、領地の経営をみておくれよ」という泣きが入って。長期休暇で実家に帰ります。

ここでは、傾きゆく実家の中で、ニコライ、妹のナターシャ、従姉妹のソーニャの3人を中心に、家族の温かい時間が描かれます。
偶然のノリで盛り上がってしまう仮装パーティー。無邪気で温かい時間。そんな中で、ニコライははっきりと、「ソーニャを愛している」ことに気づきます。そして、プロポーズ、婚約。
この場面も、執拗な描写の積み重ねで、「大人になりたくない青年ニコライが、なにげない時間の中で、大人への階段を一歩上る」という穏やかな感動が、物凄く鮮烈でした。

しかし。ニコライがソーニャと結婚するということは。
ロストフ家の家計としては、唯一破滅から救われる可能性、「長男坊の立派な軍人ニコライが、資産家の娘と結婚する」という手段を失うことを意味します。老いた両親は、狂乱のように反対します…。

#

アンドレイ・ポルコンスキイ。
アウステルリッツの悲惨な敗戦で行方不明になったアンドレイ。
長男坊の帰還を待つ、実家。名門貴族。
老いた厳格な元軍人の父。容貌が醜く生涯独身を覚悟して、キリスト教の信仰に生きる妹マリア。そして、妊娠中のアンドレイの妻。
皆、「ああ、どうやらアンドレイは戦死だ」という、言葉に出来ない絶望の中で、アンドレイの妻の出産を迎えます。

そして、赤ん坊が、男の子が生まれ落ちた夜に。
長く捕虜生活を送ったアンドレイは、実家に帰還します。
喜びもつかの間。その同じ夜に、長男を産み落として、妻は死んでしまいます…。

アウステルリッツで地獄を見て、全てに虚しくなったアンドレイ。
領地に引っ込んで、公務を最低限に拒否。
戦場で負った傷を癒やしながら、赤ん坊の世話と領地経営に淡々と暮らします。それまで、ロシアを背負って立つような、スーパーエリートだったのに。

そんなアンドレイの下を、「永遠の自分探し」にさまよう、親友ピエールが訪れます。数年ぶりに抱擁しあうふたり。人生について、愛について語り合い、議論します。夢想家のピエールを鼻で笑いながら、ピエールの無垢な心と、温かい友情に打たれたアンドレイ。

アンドレイは徐々に人生に前向きさを取り戻します。

笑っちゃうのは。
ピエールが大騒ぎして立ち上げながら、竜頭蛇尾の尻すぼみに挫折した、「自分の領地内の農奴を解放し、福祉を充実させ、それでも収穫を落とさず、むしろ経営を上向きにする」という、先進的な共和主義風の大事業。
これを、ピエールに触発されたアンドレイが、自分の領地内で、サックリアッサリと成し遂げてしまいます。イケメンさんな上に、実務的な処理能力、政治感覚、禁欲さ、自律心、リアリズム、全てにおいて、「デキる男」なんですね。

徐々に、人生に前向きになっていくアンドレイ・ポルコンスキイ。

#

ここから、3人の主人公、3つの一族。ベズウーホフ家、ロストフ家、ポルコンスキイ家。3つの世界が絡み合って。
第2巻の怒涛の終盤戦が始まります。

アンドレイ・ポルコンスキイは。たまたまロストフ家を訪問した際に、(このとき、ニコライは不在でした) ニコライの妹のナターシャと出会います。

第1巻ではまだ12歳くらいだったやんちゃな娘っ子は、美しい思春期の女性になっています。活発で無邪気で明るくて美しい。みんなに愛されて育ち、聡明で、大胆で、ダンスが上手くて、歌が上手くて、世間知らずで、すれていない。

そんなキラキラしたレモンジュースみたいな(笑)、ナターシャと出会い、アンドレイは恋に落ちます。愛し合います。
プロポーズします。
(多分ですが、ナターシャが17歳、アンドレイが30歳とか、そんな感じだと思います)

アンドレイは、立派な一門の長男で、出世を約束された秀才で、クールでイケメンで、妻を亡くしたちょっと影のある男やもめ。社交もトークもダンスも礼儀も、全て一流の男なんです。(ピエールとは違って)。全ロシア社交界でも、「娘を嫁にやりたい立派な男リスト」の上位に入るんです。

ロストフ家はOK。ナターシャ本人もOK。
ですが、アンドレイのポルコンスキイ家は、ナターシャのロストフ家より、名門らしく。老いた頑迷なアンドレイの父が、「一年待って、戦場の傷を外国の保養所でちゃんと治して来い。一年後でもお互い気持ちが変わらなければ、認めよう」と…。
(脇筋ですが、アンドレイの妹のマリア。不美人で生涯独身を覚悟して信仰に生きる、そして家族への愛に生きる人です。アンドレイの息子の面倒も見ています。このマリアが、「自分と正反対の個性を持つナターシャのことが、生理的に好きになれない」という、どろどろした内面と戦います…。この辺りの描写も、唸ってしまうくらい、深い…)

言いつけ通り、海外に去るアンドレイ。
あみん、ぢゃないですが「わたし、待つわ」と健気なナターシャ。
ところが。この1年が、悪魔の歳月でした。

酸いも甘いも味わい尽くし、戦場の死の恐怖、結婚の幻滅、虚無からの再生、妻の死、孤独な捕虜生活… 色んな状況を生き抜いて、騙し騙され、人の世の美醜を知ったアンドレイは、良いんです。

10代のナターシャには、この1年が不毛で辛い。
無為で悲しい。
手紙だけでは満足できない。
疑心暗鬼になる。躁鬱になる。

そして、たまたまなことで、社交界デビューもしてしまう。
若い、美しい、自信家で、恋に恋するお嬢様は、悪い狼たちの甘い餌だったわけです。

ピエールのベズウーホフ家。その妻の驕慢享楽家、エレン。
その兄のアナトーリというのが、この兄にしてこの妹あり、という、身を持ち崩したヤクザな遊び人なんですね。
高級貴族の出身で、一応軍務にもついていましたが、不良。ドンファン気取りで女遊び、火遊び。社交界では崩れた爛れた若者として有名なんです。父親からは名家の令嬢との結婚を強要されていますが、のらりくらり。そして隠していますが、かつてポーランドで地元娘と遊んで、結婚したことがあるという、脛に傷持つ身。教会的な、正式な離婚はしていないんです。無論、妻のことは投げ捨てて、独身として悪い仲間と日々遊んでいます。金がありますから。

現代風に言うと、勝ち組の息子で、名門の大学生で、サークルの悪友とレイプ寸前というか、実質レイプのような女遊びとかしてゲラゲラ笑っているような不良くんです。

この不良くんのアナトーリが、「あのナターシャっていうの、俺が絶対、騙して落として妻にして弄んでやるぜ」みたいな計画を立てます。

この悪党の心理も、トルストイさん、ぞっとするほど克明に描くんです。恐らく、きちんと家族から愛されたことがない。自分のことも愛していない。どこか刹那で破滅的。女遊びの冒険が、マッチョさが、自分のプライドなんです。それについて、周りがどれくらい傷ついて不幸になろうが、「知ったことか」と悪魔的に高笑い。
どこか、破滅願望なのか。長い歳月の先行きなんか、計算していない。気にしていない。最後には親に頼ればなんとかなる。

二枚目で美しく優雅な不良くん、アナトーリ。純情な恋に落ちた青年を演じて、ナターシャに言い寄ります。

「許嫁?知りません。あなたが美しすぎます。返事を下さい。イエスか、ノーならば、哀れな僕は死ぬしかありません。僕は今まで不良でした。今はあなたの愛の奴隷です」

心打たれるナターシャ。のりで、キスまで許してしまいます。アンドレイとも、キスまでしかしていないナターシャ。おぼこです。ウブです。スキンシップにすぐ動揺します。

「ああ、なんて素敵なアナトーリ」。

影で悪友とせせら笑っている、アナトーリ。

もうこの辺、心配で心配でたまりません。

周囲に知れます。
ナターシャの親友ソーニャ(ニコライ・ロストフの許嫁)、親戚などが、大反対します。「あいつは名うての不良、遊び人だよ。騙されているんだよ」。

ところが、このあたりが、なんだか異様にリアルっていうか凄いなあと思うのが。
ナターシャは、ブチ切れで意地になるんですね。
「みんなあの人のことを誤解しているのよ。あの人は心のきれいな人よ。あたしは知っているわ。あたしだけが」
(実際は、三回くらいしか会ってないんです)

暴走して意固地になる、10代後半の若者の愚かさ。
ざらざらした不吉な手触り。
すごい、リアル。

さあ、不良のアナトーリ、ここまでは思い通り。
悪友たちと、ナターシャを拉致して(本人の協力の下に)、田舎か海外に逃亡してそこで弄んで、場末の教会で結婚して、一生をめちゃくちゃにしてやろう、と駆け落ち計画を立てます。

そして暴走するナターシャはそれに同調し、アンドレイに宛てて「アナトーリを愛しているから、あなたとの婚約は破棄します」という決定的な手紙を出しちゃいます。

駆け落ちの夜。もうドキドキです。
ところがこれは、察した親戚の叔母さんの堅実なブロックで、未遂失敗に終わります。
でも、ナターシャは愛に盲目、家出寸前です。

ここで登場するのが、社交界の異端児、心のきれいな無用者、我らがピエールです。
ピエールは、ふらふらしていますから。アナトーリは義理の兄弟に当たるし、アナトーリの不良具合はよく知っているんです。若い頃は一緒にバカをやっていた間柄。

ピエールは以前から、純粋なナターシャのことが可愛くて、大好きで。ナターシャも変わり者のピエール、許嫁アンドレイの親友ピエールのことは好きなんです。事態を知ったピエールが登場。アナトーリの悪行を明かします。他ならぬピエールの言葉。ようやくナターシャは自分が遊ばれていた、笑われていたことを悟ります。そして、アンドレイに物凄く侮辱的なことをしてしまったことに気づきます。

ピエールは不良アナトーリに激怒して、街から出ていけと宣言。
金持ちの義理の兄弟の言葉に、アナトーリは従って、街から去っていきます。

危機は回避されましたが、汚名は残ります。
社交界では、駆け落ち未遂の話は広まります。
健全で美しい美少女ナターシャの名前は地に落ちて、笑い者。
婚約者を奪われてフラレた、アンドレイも屈辱的な評判になります。

そして、その頃に、外地での保養を終えて、アンドレイがロシアに戻ってくる…。

激怒。憤怒。

当然、婚約破棄を受け入れて、ナターシャと絶交。

ナターシャは、取り返しのつかない愚行を悔い。アンドレイの顔に泥を塗った罪悪感に苛まれ。自殺未遂…。

そんなげっそりしたナターシャの手を握って、ピエールが言います。

「僕がこんな僕ぢゃなかったら、今すぐあなたにプロポーズしたいくらい、あなたは素敵な人です。人生はこれからです」

※ピエールは、破綻しているとは言え、立派な妻帯者。

そんなピエールの言葉に、微かに微笑んだようなナターシャ…。

#

と、これで、第2巻終了。

レビュー投稿日
2016年11月25日
読了日
2016年11月25日
本棚登録日
2016年11月25日
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淳水堂さん (2016年11月25日)

koba-book2011さん

コメントありがとうございます!
読むのはやい!
二巻は人間描写が見事ですよね。
良くも悪くも人生を生きてきらめいている。

しかしやっぱり政策や大陸情勢分からないと理解は半分だったかもしれないf(^^;)

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