母の遺産 - 新聞小説(上) (中公文庫 み 46-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2015年3月20日発売)
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感想 : 19
4

2012年に単行本で出た際に、読んでいるんです。
2017年現在からみると、たったの5年前。
最近、電子書籍で再度購入。

「母の遺産」水村美苗さん。中公文庫、上下巻。

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50代の女性がいて、結婚していて子供はいない。
父はもう亡く、老いた母がいる。
この母が、色々面倒ばかりかけ、たいへんにしんどい。

コレという判りやすい被害がある訳ではないけれど、とにかく気持ちに負担をかけてくる。手間暇をかけさせる。

ただでさえ自分も体調が悪いのに。重ねて、介護の手間が厚塗りされる。地獄のような疲弊感。誰とも分け合えない苦労。誰も褒めてくれない重労働。

そして、夫が不貞をしていたことが分かる。若い女と。匂い。証拠。確証。
それも、浮気と言うより、本気。離婚を切り出されそう。

そんな、日常の着物を一枚めくると、すれ違う誰もが抱えていそうなスリルとサスペンスと、げんなり感。

母との、愛憎。


そして、ようやくの、母の死。ほっとする。

やっと、死んでくれた。

そして後半は。
夫とどう向き合うか、今後の人生をどうするか、という流れになっていくのですが...。

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5年前に読んだ時も、今回も同じく面白かったんです。

水村美苗さんは、とにかく文章に持っている品格と言うものが。触れなば斬れん妖刀村正...と言う感じ、水際立った背筋の伸び方。
さしずめ、大正時代からの老舗の喫茶店で、物静かでシュッとしたワイシャツ姿のマスターが入れてくれるアイスコーヒーのような。それを、うだるような灼熱の午後のひととき、適度な冷房の中で味わい、上等な氷がカランと音を立てるようなココチ良さ。
「日本語が滅びるとき」「續明暗」なども、僕は本当に大好きです。

なんですが...
30代で読んだ時は、「面白いなあ」だったことが。
40代の今回の再読では「痛い...怖い...苦しい」。
正直、特に老いた母が死ぬまでは。

(唐突に1986年の日本映画「人間の約束」を思い出しました。あれも凄い映画でしたね。三国連太郎と佐藤浩市の共演。)

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そんなわけで、下巻に入って、母が死んでくれたあとは、正直大変に読み易くなりました(笑)。
夫と向き合う、人生の再出発を考える主人公、というのは、つまり、なんというか、どこかしら、

「ひとごと」

として楽しめている自分を感じましたね...恥ずかしいことですが。

比べて前半は...。

親の老い... 介護...
人の、人生の、終わり方...

みたいなことを、コレデモカと、首根っこを押さえつけられて、目をひん剥かされて直視させられるような。

自分の親がどうこう、ということもですが、「自分のときは」みたいなことを、よぎっては身の毛もよだつ...。

「ひとごとや、あらへんなあ」

だったんでしょう。5年前に比べて(笑)。


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村上春樹さんが、「ある年齢になってから、昔読んだ本の再読が増えてくる」ということをどこかに書いていたような。

そんなことに、心中、同意してしまう。
再読もまた、愉しからずや。

でも、水村さんの新作、出ないなあ...まだまだ何か書いてほしいなあ...小説ぢゃなくてもいいから...。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 電子書籍
感想投稿日 : 2017年7月13日
読了日 : 2017年7月4日
本棚登録日 : 2017年7月4日

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