岡本かの子 (ちくま日本文学)

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レビュー : 12
著者 :
koba-book2011さん 本:お楽しみ   読み終わった 

脳内の想像というスクリーンに、唐突に極彩色の「美」が無限に広がっていく感じ...。
紙に言葉が書いてあるだけなんですけどね。すごいですねえ。

「金魚繚乱」が、読書会の課題で、この本を読んでみました。
岡本かの子さんは、名前だけ知っていて、全く読んだことがなく。「げーじゅつは爆発だ」の岡本太郎さんのお母さん。
戦争で日本全体がぐだぐだになってしまう直前、昭和14年(1939年)に、50歳で脳の出血か何かで急逝したそうです。
小説を書く、という意味では晩年の3~4年間だけだったそうですね。
ただ、その前から、文化的タレントさんではあったようです。
もともとご主人がその時代に有名な漫画家さんだったそうで、文壇人とも付き合いがあって、小説を書く前から、なにやら「仏教を語る文化人」として本は出していたようです。
それから、短歌も。

この本は、ちくま日本文学シリーズです。安野光雅さんの装丁が好きです。
内容は、

「鯉魚」「渾沌未分」「金魚繚乱」「みちのく」「鮨」「家霊」「老妓抄」 (ここまでは基本的に短編)

「河明り」「雛妓」 (これはけっこう中編で、割愛。読んでいません)

「短歌」 (ちゃんと読んでません)

「太郎への手紙」 (読みました)

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「濃ゆいなあ」という印象。「良く出来てるなあ」とも。
芥川龍之介、川端康成、谷崎潤一郎...
そんなあたりの影響があるなあ、と思いました。
(そんなときにいっつもつい、泉鏡花ってオリジナルで凄いなあ、と思ってしまいます。オリジナルっていうか、江戸と近代文学をヌエのように合体させてるセンスっていうか。以上脱線)

上手く書けています。一生懸命書いている。言葉の使い方に、センスがある。

一方で、作品によっては、ちょっとなんというか...アマチュアっぽい。ゆとりが少ない。ユーモアが少ない。
なんていうか...肩の力が入りすぎている感じ...

作品によりますが、書き手のニンゲンの、妄執的な「芸術至上主義」。耽美。ちょっと強迫観念。
だから、恐れずに言うと、「岡本かの子」という変わったヒトのドキュメントとして、面白かった。

そして、そういう方向性で言うと、「太郎への手紙」がいちばん面白かったかも。
これはつまり、母親として、かの子さんが、青年・岡本太郎さんに送った私信です。セキララです。こんなお母さんがいたら、いやあ、普通はなんていうか、食傷してげっぷがでそう...。
とっても日本人離れした直情的で感情ゆたかな物言いに、身も蓋もない母としての執着と、まるで友に恋人に話すような自分のエゴのさらけ出し。
これは、すごかった。

ネタバレしながら、備忘録的に各編。

●「鯉魚」...室町時代。禅寺。青年僧と、落魄放浪中の貴族娘の許されない恋。見つかって責められる。老師の優しさで、禅問答でひたすら「鯉魚、りぎょ」と叫んで許される。
===とっても芥川龍之介っぽい短編。芥川の、「古典に依拠した短編シリーズ」に似てます。ただ、なんとも耽美で生っぽい男女のあたりとか、個性だなあ、と。
面白いなあ、と思って読みました。

●「渾沌未分」…執筆当時の現代。東京。なにやら水練の師匠筋の娘。ままならない家庭経済、落魄。水練大会が迫る。中年男に、生活と経済の為に身を任そうかと。一方で健康的でお金は無い若い恋人もいる。
主人公は「東京に止まるためにお金がいる」という強迫観念にかられている。
===この辺から、「何かに没頭する主人公」という個性があるかなあ、と。
話の構造というか、設定?は面白かったのだけど、転がし方とか、冒頭の入り方とかが、まあ簡単に言うとちょっとクドクって、読み辛さも。
そういう意味で、アマチュアの良く出来た小説っぽいなあ、と。

●「金魚繚乱」...これは、なかなか矢張り白眉でした。執筆当時の現代。金魚の交配品種改良の技術者が主人公。お金持ちでスポンサーの社長がいて、その娘に恋慕している。そして娘も恐らくそれを知っている。でもふたりは現実的に結ばれることは無い。そういうヘンタイな恋愛のオハナシ。お互いに別に相手ができたりする。でも変わらない。主人公は、もう、現実離れした理想の美しい金魚を交配開発する、ということに、娘への恋慕を重ねて生きがいにしている。最後に、偶然からその美しい金魚を見る。
===どろどろぐっちゃぐちゃの変態恋愛話。そういう娯楽として、三島さんの「仮面の告白」みたい。ラストの美しい金魚のくだりは、最高に小説ならではの快感に満ちていました。スバラシイ。変態だけど。

●「みちのく」...エッセイっぽい手法で「こんな話を聞いたのさ」という語り口。東北で聞いた話。四郎馬鹿、と呼ばれていた、白痴の若い男。なんだか縁起がいいとされて、商家にかわいがられる。そこのとあるお嬢さんに、マジで恋する四郎馬鹿。「まともになって嫁にする」と、騙されて見世物小屋の芸人になる。みるみる落魄して、行き方知れず。その四郎馬鹿に思いを貫いて、老婆になった娘さん。
===これ実は、いちばん好きだったかも。エッセイ風の書き方のせいか、クドさとアクと自己顕示的な息苦しさ、という、岡本かの子さんの持ち味?が、薄目だと思います。そのくらいが、僕には読み易かった。お話自体も素敵。グっときました。

●「鮨」...鮨屋の娘。常連の小金もち風のおっさん。おっさんから娘が聞く、身の上話。おっさんのお母さんとの思い出、偏食を治した思い出が、鮨にある。
===これまた、なんというか、愛情というのがものすごくにおい立つような濃さのオハナシ。だけど、物語自体は淡い淡い感じなので、後味と言う意味ではさわやか。
鮨、食べたくなりますねえ(笑)。小品、悪くない一篇。

●「家霊」...東京。庶民的な定食屋。おかみさんがやっていて、娘が跡を継いだ。先代からの常連客、職人のおじいさんが語る昔話。先代に密かに恋慕的なプラトニックな関係があって、かんざしをあげていた。
===これも、1位2位を争うくらい好きでした。東京っぽい職人たちの店の雰囲気が良く判る。そして、母の恋?の話。いわば、「マディソン郡の橋」です。これまた、芸術に全て捧げた人の情熱の話、ではあるんですが、なんだか筆致がふっくらしていて、達観的なぶんだけ、読み易かったですね。諸行無常感なんだけど、一抹の湿り気。恋の痛み、浮世の痛み。甘く痛い夕焼け、な後味。

●「老妓抄」...東京、下町?。吸いも甘いも、で、不自由なく暮らす、老妓。朋輩の尊敬の的。若い男・電気技術開発志望の青年を養う。別にいやらしい関係ではなくて、パトロン的に。ところがこの青年が、だんだんぴりっとしなくて、ずるずる堕落する。共依存のようになっていく老妓と青年。
===明白な解決が無い分だけ色気がありますね。なんともずぶずぶな人間関係、ニンゲンの弱さみたいなところが、谷崎さん的な。面白かったです。

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割とはっきりした読後感。
岡本太郎の母、岡本かの子の小説世界を知った、と言う意味ではタイヘンに面白かった。
小説としては、「金魚繚乱」「みちのく」「家霊」あたりは味わい深く、魅力爆発でした。

ただ、小説の中に横溢する、露悪方向の自意識過剰な感じと、クドさ。それと共存している、意外なキマジメさ。
だからちょっと、長編はいったん、パスかなっ...って思いました。

うーん。長生きされてたら、どんな小説書いたんでしょうかね。
うーん。ただなんというか、例えば谷崎の諸作品とか、川端康成の「山の音」とか「雪国」とかと比べると、なんていうか、ふっくら豊饒、娯楽でサスペンスでミステリーで、読者の手を引いてすらすらとなだらかな岡を、長めの良い方に軽やかにいざなっていくような、そういうエンターテイメントな感じっていうのは、薄いんですね。岡本かの子さん。芸術的過ぎるんですね。芸術「的」。

やっぱりでも、「金魚繚乱」のラストの、美しさの衝撃さ。
これはやっぱり、文句が言えないですね。読書の快楽でしたね。
紙に言葉が書いてあるだけで、脳内の想像というスクリーンに、放埓に唐突に、暴力的に、極彩色の「美」が無限に広がっていく感じ...。
うーん。

芸術は爆発、ですね。

レビュー投稿日
2016年4月9日
読了日
2016年4月9日
本棚登録日
2016年4月9日
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